ディーノ宅で盗まれた財宝が発見された翌日、ウォリー達は再びディーノの屋敷を訪問していた。

 彼らはギルドに復帰した。
 ディーノがギルドに対して口を利いた為、ウォリー達の処分は取り消しとなったのだ。
 今日ウォリー達が屋敷を訪れたのは、そのお礼をする為だった。

「今回の事は本当に申し訳なかった」

 会うやいなや、先に頭を下げて来たのはディーノだった。

「うちの馬鹿息子のせいで君達にはとんでもない迷惑をかけてしまった」
「いえ、彼の企みに気付けなかったのはこちらのミスです。ディーノさんのお陰でギルドに復帰できました。ありがとうございます」

 ウォリー達も揃って頭を下げる。
 怪盗キングの正体はペリーだった。
 自分の家の財宝を盗んだ理由を問いただすと、自分専用の別荘を買いたいと父にねだったら断られたのが原因だと言う。
 そんな事で自分達は追放を食らったのかとウォリー達は心底呆れていた。

「あいつが幼い頃、欲しがる物を何でも買い与えてしまっていた。その教育が間違っていたんだろうな。自分が望めば親が何でも与えてくれると思い込んでしまっていたようだ。私の責任だよ」

 ディーノは遠い目して語った。

「ペリーさんは今後どうなるんですか?」
「今回の事で裁判を起こすつもりはない。あんなのでも私の息子だしな、今まで甘やかして来た事を反省してきっちり教育する事にしたよ」

 3人の中で、ダーシャだけが少し不服そうな顔をしていた。ペリーという男のせいで自分達は追放まで追い込まれたのだ、自分の子供だからといって窃盗を働いた人物にそんな処分でいいのだろうか。そう言いたげな顔をしている。

「息子は、ギルドで働かせる事にしたんだ」
「え?」
「今回の件で冒険者の君達や、ギルドの方々に多大な迷惑をかけてしまった。その償いとして、あいつにはギルドの為に働き冒険者を支える仕事をさせるべきだと思ってな。もちろん厳しく指導させるようにギルドにはお願いしておいた」

 ウォリー達は顔を見合わせて苦笑いする。あのペリーにギルド職員が務まるのか、いささか不安だった。

「それからあのネズミの事なんだが……」

 昨日、全てが収束した後でディーノはネズミを引き取ると言って連れて行ってしまっていた。一度は協力をしてもらっただけに、あのネズミがどうなったのかはウォリー達も気になる所だった。

「私が経営しているカジノで飼う事にしたよ。ネズミとは言え、財宝探しを手伝ってくれた功労者でもあるからな」

 てっきり殺処分されるのではないかと思っていたウォリーは、それを聞いて胸を撫で下ろした。






 数日後、ウォリー達はギルドを訪れていた。つい先程依頼を達成したばかりなのでその報告をしようと受付へ向かった。
 今日も受付は混んでいて少し並ぶ事となった。ようやく自分達の番が来て受付の前に立つと、見知った顔がそこに座っていた。

「あっ……てめえら!」

 その男、ペリーはウォリー達の姿を確認すると怒りを露わにした。
 ウォリー達は目を見開いた。ペリーがギルドで働く事になったと聞いてはいたが、まさか受付をやっているとは思わなかった。

「何しに来やがった! てめえらのせいで俺はこんな所に……」

 ペリーが身を乗り出てウォリー達を睨みつける。何しに来たと言われても冒険者だからギルドに来るのは当たり前だが、とウォリーは呆れた顔を浮かべた。

「おいブタ! なんなのぉ〜? その態度は」

 突如ペリーの頭が叩かれたかと思うと、彼の背後から女性が姿を現した。褐色の肌をしたダークエルフ、ベルティーナだった。

「何度も言ってるっしょぉ〜? 受付はギルドの顔なの! 半端な仕事はギルドの顔に泥を塗る事になんの! ちゃんとやれこのブタ!」
「なっ!? てめえ俺にブタとは何だ!」

 ペリーはウォリー達をそっちのけでベルティーナに食ってかかる。

「俺の父ちゃんは大富豪だぞ! このギルドにも出資してるディーノだ! その息子であるこの俺にそんな態度とっていいと思ってるのか!」
「はぁ〜? 父ちゃん父ちゃんっていい歳こいてチョーダサいんですけど〜!」

 ケラケラた見下すように笑うベルティーナに、ペリーの顔はどんどん真っ赤になっていく。

「てめぇー! 絶対父ちゃんに報告してやるからな! そうしたらお前はただじゃ済まねえぞ!」

 声を荒げるペリーだが、ベルティーナは一切動じる様子がない。

「どーぞどーぞ、早くパパに泣きつきなよ。言っておくけどあんたのパパからは出資者の息子だからと言って忖度する事なく徹底的に厳しくしてやれって言われてるんで〜、あんたがパパに何言っても言いつけ通り指導してるって事で私の評価が上がるだけですから〜残念っ!」

 ベルティーナは笑い飛ばすと、ペリーの頭を再び叩いた。

「おら! さっさと仕事しろ! 列が混むだろブタ!」

 ペリーは歯をギリギリと鳴らしながら俯いた。

「クソババア……」

 小声で呟かれたそれを、ベルティーナの尖った耳は聞き逃さなかった。
 彼女はペリーの両胸の突起部分をつまむと、力一杯にねじってみせる。

「ぎやああああああああ!!!!」

 ギルド中に悲鳴が響き、周囲の人々が一斉にペリーの方に注目した。

「男の胸ってのは普通平らだが、ブタは肥えてるお陰でつまみやすいなあ? おい!」
「あだだだだ!! やめっ! ああっ! やめろおおお!!」
「さっき何つったよお前! ええ!? もういっぺん言ってみろやおらあああ!!!」
「があああああ!!! あがが! 痛い!! やめっ! あああああ!!!」

 次第にペリーの目からは涙が溢れてくる。身体を捻りながら暴れるが、彼女の手はペリーを逃さない。

「ごめんなさいいいいい!!! やめっ!!! あああああ!!! もうやめてええええ!!!!」

 ようやく、彼女の指が離された。
 ペリーはテーブルに崩れるようにして座り、顔を伏せたまましばらく呻いていた。

「そんじゃ、教えた通り受付の挨拶から言ってみましょーか?」

 ベルティーナはニコニコ顔に戻り、震えているペリーの肩を叩く。
 ペリーはゆっくりとウォリー達の前に向き直った。

「よ……ようこそ……当ギルドへ……きょ、今日はどのような……」
「声が小せえ!!!」

 ベルティーナの平手がペリーの後頭部に飛んだ。
 「うぐっ」と短く唸ると、ペリーは涙を流しながら再び口を開いた。

「よ、うぐ……ようこそっ当ギルドへっ……うっ……本日は、どのようなご用件でしょうかぁ……」

 目の前の出来事にウォリー達は唖然としていた。

 ベルティーナのペリーに対する仕打ちはほぼ八つ当たりだった。
 今回の件でウォリー達の追放が取り消された事により、彼女は調査不十分だったとして減給処分を食らった。それに加えペリーの教育係までやらされるという始末。
 自分が敵対心を抱いているダーシャの関わる一件でこうなったという事も、彼女の苛立ちに拍車をかけていた。

 目の前に居るダーシャをじっと睨むベルティーナ。
 ついに居心地の悪さに耐えられなくなったウォリー達は時間を改めようと列を抜けてギルドを出て行ってしまった。