角の生えた巨大な獣型モンスターの死体の周りにアンゲロスのメンバーが集まっていた。
 メンバーはそれぞれナイフを手に、角やら毛皮やらの素材を剥ぎ取っている。
 その中にはリリも混じっていた。

「いやー、大量大量!この素材は高く売れるわ!」

 サラは角に指を這わせながら笑みを零す。

「リリ!こっち来て!」

 言われてリリがサラの元へ駆け寄ると、サラは彼女の足元に袋詰めされた素材を置いた。

「これもギルドまで運んでね。よろしく〜」
「あ、あの、もう今の荷物でも結構重いんだけど」

 リリがそう言うとサラの目が鋭くなった。

「ああぁ!?何だってぇ!?」
「ご、ごめん!持つ、持つよ!」

 リリが慌てて袋を担ぐと、サラは表情をガラリと変えて満面の笑顔になった。

「いや〜。聞き分けのいい子で助かるわ〜、あんたは」

 サラはニコニコとしながらリリの肩を叩いた。

「あんたが洞窟から生きて帰って来た時はびっくりしたよ。あんた、ギルドに余計な事言ってないでしょうね?」
「い、言ってない…よ」
「そう?でも今私達がこうして声を掛けてなかったらギルドに何か報告するつもりだったんじゃないの?」
「そ、そんな事ないよ…」

 サラはリリの耳元に顔を寄せて囁いた。

「変な気起こすんじゃないわよ?妙な真似したらタダじゃ済まないから」

 泣きそうな顔でその場に立ち尽くすリリをサラは楽しそうに眺めながら、再び死体にナイフを突き立てた。







 ギルドの面談室でウォリーは1人でソファに腰掛けていた。ベルティーナとここで初めて会ってから数日後、彼は再びこの面談室へ呼び出された。
 ギルドからは1人だけで来るようにとの指示だったのでダーシャはこの場には来ていない。
 ウォリーが入室してから5分程経って、ベルティーナが姿を現した。

「どぉ〜も〜。悪いね〜急に呼び出しちゃって」

 そう言ってベルティーナはソファに腰掛ける。ただし座った場所はウォリーの正面では無く、真横だった。ウォリーの鼻にキツい香水の香りが漂って来る。

「そ、それでご用件は?」
「ちょっとさぁ、この間の事とは別件なんだけどぉ、聞きたい事があってぇ〜」

 彼女はウォリーの肩に体重をかけて寄りかかった。

「ダシャっちの事なんだけどぉ、妙な噂を聞いたんだよねぇ」
「ダーシャが…何か?」
「ギルドに匿名で手紙が送られて来たんだけどさぁ…」

 彼女が封筒を取り出してテーブルに置いた。

「なんでも手紙によれば、ダシャっちはパーティ内で君に酷いいじめをしてるそうじゃん?しかも報酬の分け前もダシャっちが9割持っていってるとかぁ?」
「い、いや、そんな事は…」

 ウォリーが答えると、彼女は封筒の中の手紙を広げて見せた。

「ぶっちゃけ、この手紙書いたの君っしょ?君がギルドに提出した書類の文字と瓜二つなんだけどぉ?」

 彼女は目を歪めながらウォリーの顔を覗き込んだ。ウォリーは思わず視線をそらす。

「し、知りませんっ」

 するとベルティーナは今度はウォリーの頭を優しく撫で始めた。

「大丈夫だってぇ、安心して。ここにダシャっちは居ない。どうせダシャっちからのいじめに耐えかねてこうやって匿名で手紙を送ったんっしょ?あの子は男勝りなトコあっから、君みたいな子は簡単に尻に敷かれちゃうのかもねぇ」

 彼女の顔がどんどんウォリーの横顔に近づいて来る。

「ウチに正直に話しちゃいなよ。ウチが守ってあげっからぁ〜」
「し、失礼しますっ!」

 彼女の吐息がウォリーの耳にかかった所で、ウォリーはさっと立ち上がって逃げるように面談室を出て行った。







 ギルドに戻り、メンバーと別れたリリは宿屋に向かって1人歩いていた。重い荷物をずっと運んでいたせいで歩を進めるたびに身体が痛む。
 もう少しで宿に着くといった所で、目の前を1人の女性が塞いだ。

「リリ、探したぞ」

 ダーシャだった。

「あ…ダーシャさん…」
「リリ、まだアンゲロスに居るみたいだな、どういう事だ?」

 そう言われてリリは視線を下に向けた。

「ごめんなさい…やっぱりダーシャさんのパーティには入れません。ごめんなさい…」
「別にうちに来なくたっていい!だがアンゲロスにいつまでも居てはダメだ!君を殺そうとした連中だぞ!」

 リリは下を向いたまま顔を上げようとしない。

「君はこのままでいいのか?ずっと奴らの言いなりで居続けてどうする」
「…ごめんなさい」

 リリの目から涙がポロポロと落ち始めた。

「私…学生の時からずっとサラちゃんに酷いことされて来て…それが、ずっと私に染み付いてるんです…こもままじゃダメだダメだって思っても…いざサラちゃんの顔見ると…怖くなって何も言えなくなっちゃう…」

 ダーシャはリリに歩み寄ろうとしたが、リリは退がって彼女から距離をとった。

「もう…いいんです。こんな私…放っておいてください…」

 顔を下に向けたままリリはその場を去って行く。

「リリ!」

 ダーシャが彼女の背に向かって叫んだ。

「魔人族の私なんかと同じパーティでいいのかと君に聞いた時、君は笑顔で私の事を受け入れてくれて…本当に嬉しかった。あの時君と、友達になれたと思っている。それは今もだ」

 リリは一瞬立ち止まったが、振り返る事なくすぐに走り去って行く。
 ダーシャはその場に立ったままずっと彼女を見つめていた。