霊体のような体験であっても、足には地の感覚がある。全てが透けてしまえば地下の深くそこまで沈んでしまう。身体を接触できる箇所と出来ない箇所の発見を時環は歩きながら楽しんだ。

 物には触れられなくても手すりには触れられる。ドアは開けられないが、通り抜けることが出来る。水に当たっても濡れないが、冷たいとは感じる。


「なあ、普段入っちゃいけない、行きたくても行けないところとか今ならどこでも行けたりするよな?」

「女子の着替えを覗くとかは無しな」

「覗かないよ!」


 校長室や屋上、食堂の調理場などを時環は見てみたかった。

 からかいがいのある時環は幸哉にとって楽しみがいがある。だが何よりも幸哉の心を喜ばせたのは、時環は旅行祈で笑ってくれたことだ。


 旅行キは目的をもって使う人が大半で、その目的を成せなかったとき期待を感じた分の落胆も大きい。使用者にとって、斗夢や幸哉が作る旅行キは幸せなものとは限らない。

 我が子のように思っている時計を好いてくれることは、作り手にとって幸福なことだ。


 幸哉の許す範囲で時環は学校探索を行った。時間を忘れ、時計を見ることを思い出すくらいに長く遊んだ気になったが、針が指していたのは間もなく昼休みが終わりを迎える数字。チャイムが鳴る気配を感じて、幸哉と一緒に再び教室へ向かいながら時環は難しい顔で考え込む。


「なんか、どこかで見覚えのあるような、ないようなのが多いんだよなー」