「なんだ、お前テストで緊張するタイプだったのか。意外だな」

「緊張というより、なんか見張られているのを感じると駄目になる。残り時間が知りたくて時計を見ようと顔を上げたら、必ず先生と目が合ったり。カンニングを疑われてるみたいで落ち着かない」

「ああ、悪いことはしていないけど冤罪を可能性を考えて怯えるやつね。そういうのは本人の気持ちの問題だからどうしようも……。先生達は不審な動きを見逃せない以上、どうしても反応してしまうものだからな」


 視線を気にするのは、相手の顔色を反射的に窺ってしまうこととよく似ている。幼い頃に実母の顔色を窺って生きてきた習慣だろう。

 人は相手に残る後遺症を一切考えずに人を傷つけ、それを平然とする人間は罪悪感を抱かない。

 そして当然、被害者以前に事件を知らない他人は、人それぞれが個々に持つ古傷の大きさに気付くことがない。


「特にこの間のテストなんて二日目以降の見張りの視線がバチバチで。終わるまで見えない火花を放出させてんの」

「何かあった?」

「それが不明。強いていうなら二日目の数学のテスト中、トイレに行く前におかしなことをされてさ」

「テスト中にトイレに行くなよ」


 幸哉が高校生の頃は、トイレに行く行為に答案を回収されるオマケが付属した。解答権を奪われてこれまでの努力が水の泡になるのである。