壊れない限り使用期限がない時計は、直ぐにその力を使われることなく玄関先に飾られることとなった。

 時環が旅行祈を持ち帰り、驚愕した刻間夫婦がとった行動だ。その後福沢時計店に菓子折りを持って行ったが、金額的釣り合いが取れていないことは承知のため旅行祈を返そうともしたという。斗夢との談話の談話の末に彼らはようやく好意として受け取った。


 一方時環は自分が持ち帰った旅行祈が使われずにいることを疑問に思った。来年か再来年、特別な日に使おうと、慎重になっている父親の提案から旅行祈の価値の大きさが想像の何倍も大きいものなのではないかとここで気付く。

 来年は来年で用意する。これは非常に難しく、贅沢なこと。予感がして口に出す気は起きない。


 ――いくらだったんだろう。


 正確な金額を父親は教えてくれなかった。勉強の合間に手伝いに行きなさいと言われ、時環は時計店にアポを取り、こうして今向かっている。

 聞き慣れないサイレンの音が人様の自転車のベルの音を上書きした。何度聞いても、救急車と消防車とパトカーの音は区別がつかない。並んで一台ずつ鳴らしてくれれば聞き分けがつくだろうが。


「休業?」