時計の針は二十四時間三百六十五日働き続け、その命が尽きるまで持ち主が過ごした時間をその身に刻む。小さな本体でそれを記憶しているとまでは、多くの人は知らないだろう。無論知っていたとして、それをアルバムのように簡単に取り出せなければ意味など無いのだが……。
それでもその時計の価値は、針を埋め込むことが出来ない時計に比べて大いにあると幸哉は思う。価値観を押しつけることこそしないため声には出さないが、この価値を分かってくれる存在がもっと増えればいいのにと内に秘めていた。
「雨?」
針の音で奏でられていた空間が、徐々に水の音に塗り替えられる。耳が遠くない幸哉は斗夢よりも早く外の合唱に気付いた。
彼らの声はより一層大きくなり、雷のアクセントまで加えてくる。
窓の方向を見つめながら、二人は同じ事を考えていた。
ああ、今夜は……眠れない夜になりそうだ。