勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(ウィッシュのポーズ付き)しか使えません。


 門番にも、まーさんは手紙を書いてくれることになった。
 順番にしっかりと渡せば、問題が無いようにイザークに教えている。イザークには、男子が一緒に行くことになった。イザークには、まーさんから”短剣”が渡された。他の男の子たちも、イザークが渡された短剣を羨ましそうに眺めていたら、笑いながらまーさんが全員分の短剣を出してくれた。

 まーさんが、短剣を皆に渡しながら、イザークと話をしている。
 内容は、短剣を渡しながら、短剣を使うなという話だったが、まーさんの話を聞いて、納得してしまった。

「いいか、短剣は武器だ。一番、かっこよくて、一番、素晴らしいのは、短剣を血で汚さない事だ」

「え?だって」

「自分の血だけでなく、相手の血も付けないで、戻ってくるのが一番だ」

「・・・」

「イザーク。お前なら、領都に居る、同じ境遇の奴なら勝てるだろう?」

「うん。おっちゃんの短剣があれば!」

「そうだ。だから、戦うな。戦わなくて済む方法を考えろ」

「なんで?勝てるのに?」

「そうだ。お前は勝てるだろう。でも、他の子は?カカは勝てるか?」

 まーさんは、幼いカカの名前をイザークに出す。

「・・・。無理だと思う」

 イザークは、少しだけ考えてから”勝てない”と答えた。当然だ。イザーク以外に、勝てる者がいるとは思えない。

「うん。イザークが居ない時に、カカや他の子が狙われたらどうする?」

「え・・・。あっ・・・。でも・・・」

「イザーク。”でも”はない。命は助かるかもしれないけど、カカは大けがをしたり、何かを失ったり、大変な目にあう。お前は、それでも、武力を使いたいか?」

「おっちゃん」

「どうしても、武力を使うのなら、誰も逆らわない位に強くならなければならない。それこそ、一人で1万人を倒せる位になれば、誰もイザークの仲間を傷つけようとはしない」

「無理だよ・・・。おっちゃんならできる?」

「無理だ。だから、俺は、戦わない方法を考える」

「わかった。戦わない方法を考える。逃げても?」

「逃げるのも立派な戦略だ。ダメなのは、イエーンを渡して許してもらおうとしたり、その場で謝って逃げようとしたり、相手の言いなりになる行為だ」

「え?」

「例えば、イザーク。俺が、イザークたちに脅されて、イエーンを渡して逃げたら、次に俺の仲間を見つけたらどうする?」

「うーん。もうやらないけど・・・。また脅せば、イエーンが貰えると思う」

「そうだろう?その時に、イエーンを持っていればいい。それも、渡したイエーンの倍か3倍くらいだ。そうじゃなければ、俺をもっと脅すだろう?」

「・・・。うん」

 イザークは、まーさんとの話をして考え出した。
 考えないよりは考えて行動してくれた方が私は嬉しい。

 それから、まーさんが書いた手紙を持って、イザークたちは、領都に戻った。

 まーさんが、私と残ったルルを見る。

「さて、君たちにも短剣を渡した方がいいか?」

 短剣を持っていても、使わないのなら、持っていなくても同じだ。

「え?だって・・・」

「ん?イザークに話したことか?あれは、嘘じゃないが、本当の事でもない」

「え?」

 嘘?本当?

「簡単に言えば、イザークは短慮な所があるだろう?」

「短慮?そうですね。考えるよりも、身体が先に動いて・・・」

「そうそう。だから、彼には武器を使わない方法を覚える必要があると思わない?」

「・・・。はい」

「で、君は、違うよね?短剣を持っても、いきなり使おうとはしないよね?」

 言われてみたら・・・。自分なら、どうする?
 考えてみた。

 多分、最後の最後まで、使わないで、ダメだと思った時に、使おうとするだろう。うまく使える自信はないけど、少しでも怯んでくれたら逃げられる。そうだ。逃げる為に、短剣を使う。まーさんの言っている意味が解った。

「はい」

「なら、大丈夫だ」

 まーさんから、短剣を受け取る。ルルにも渡してくれた。
 何本の短剣を持っていたのか疑問だけど、武器らしい武器を持つと、安心できる。

「さて、君たちにして欲しいのは、仕分けだ」

「仕分け?」

 まーさんが、大量の魔物を指さす。
 魔石を抜き取っただけの状態になっている魔物だ。少しだけ解体されている物もあるが、殆どが、血抜きをしただけの状態になっている。

「そう。どこに売るのか君たちが好きにすればいい。でも、種類ごとに分けておいた方が、楽だ?数も解らないと交渉が難しいだろう?」

 まーさんが言っている話は納得ができる。
 私たちは売るしかない。でも、どこに売るのか?
 そのためにも、しっかりと仕分けして、数を把握しておかないと、また騙されてしまう。

 ルルと一緒に、魔物を仕分けする。
 数は多かったが、種類は多くない。すぐに、仕分けが終わった。

「終わった」

 ルルが、まーさんに駆け寄っていく、人見知りが激しくて、本当なら今日?も、領都で待っていてもらおうと思ったのに、着いて来てしまった。大人が怖いのか、街では大人に近づこうともしない。それが、まーさんに駆け寄っていく。
 足下に居るバステトさん?が目当てなのかもしれないが、本当に不思議な人。

 ルルを抱き上げて、褒めている。
 褒められたルルは、どこか恥ずかしそうにしているが、嬉しそうだ。

「君たちの中で、スキルが使える者は居るのか?」

 首を横に振る。

「まーさん。”わからない”です」

「”わからない”?」

「はい。ギルドや教会に行けば、スキルを調べてもらえるのですが・・・」

「あぁ・・・。イエーンを取られるのか?」

「はい」

「教会でも?」

「銀貨3枚って言われた!」

 ルルが、まーさんに抱かれながら、一生懸命に説明している。
 私たちもスキルがあれば、現状を変えることができる。変わらなくても、何かが変わるかも・・・。そう考えた。でも、一人銀貨3枚は払えない。

「ババ様には、相談したのか?」

 首を横に振る。
 言えなかった。

「そうか・・・。領都に戻ったら、スキルを調べないと・・・」

「え?」

「スキルがあれば、状況が変わるだろう?」

 それは、私も考えた。

「あぁイエーンは、必要ない」

「え?」

「まぁ領都に帰ってから、ババ様と話をさせてくれ、悪いようにはしない」

 まーさんの言葉がなぜか暖かかった。
 騙そうとした大人は多かった。まーさんと同じように言ってくれた人も居た。でも、何かが違う。言葉では、表現できないけど、違う。

 頭を下げることしか出来なかった。
 涙が出てきた。

 まーさんは、何も言わないで、頭を撫でてくれた。

「アキ姉?」

 ルルが私に抱きついてきた。

「大丈夫だよ」

「うん。あっ!アキ姉。猫ちゃんと遊んでいい?」

 ルルが、足下に居るバステトさんを見て、私に確認する。

 私は、まーさんは見る。

「いいよ。でも遠くに行かないようにね。すぐに、イザークたちが戻ってくるだろう」

 え?こんなに早く戻ってくるとは思えない。
 まーさんが、どんな指示を出したのか解らないけど、やっとババ様の所に到着した位だろう。

 まーさんが、バステトさんの背中を撫でると、バステトさんは起き上がって、伸びをする。
 ルルを見てから、ルルの肩に乗った。

 本当に、言葉が解っているようだ。
 ルルの顔を舐めてから、地面に降りて、ルルと追いかけっこを始めた。最初は、ぎこちなかったルルは、徐々に本来の動きになって、バステトさんを追いかけ始めた。捕まるギリギリで躱すバステトさんと追いかけっこをしている。

「あれだけ動いたら、眠くなるだろう」

「え?」

「子供は、寝るのも仕事だ。しっかり寝ないと、ダメだ」

「・・・。はい」

 ババ様にも同じ事を言われた。ババ様は、自分の所に来いと誘ってくれたが、イザークたちが反対した。騙されていると思ったようだ。

 まーさんの隣に座って、追いかけっこをしているルルを見ている。

 私・・・。
 安心している?
 会ったばかりのまーさんに?

 不思議と嫌な気持ちはない。まーさんを横目に見ると、黒い板を触っている。私の位置からだと、何も見えない。鉄ではなさそうだ。不思議な物を真剣な表情で触っている。
 聞けば教えてくれるかもしれないけど、邪魔になってしまうのが嫌で、黙っている。まーさんが何をしているのか横目で見ながら、ルルを見ている。

「アキ姉」

 疲れたのか、ルルが私の横に座って、凭れ掛かってきた。
 まーさんは、どこから取り出したのか、水を渡してきた。。

「飲ませて上げて、あれだけ動いたのなら、喉が渇いているだろう」

 まーさんから水を受け取って、ルルに渡すと勢いよく水を飲んで、お礼を言った。
 ルルが、私の横に座りなおしたと思ったら・・・。寝てしまった。

 俺は、イザーク。
 本当の名前は知らない。親の顔も知らない。産まれてから、スラムで生活をしている。

 兄ちゃんが、貴族に殺されてから、俺がグループを引き継いだ。
 アキ姉が、リーダーになるのかと思ったら、アキ姉から、俺がリーダーをやるべきだと言われた。俺たちのグループは、”盗み”をしない。人を傷つけない。兄ちゃんが決めたルールを守っている。

 いや、守っていた。

 一番年下のラオが怪我をしてねぐらに戻ってきた。探索者に殴られたようだ。剣で切られた場所もあり、血が流れている。アキ姉が、薬草で治療をした。血は止まったけど、今度は熱が出て苦しそうにしている。
 ラオと仲がいい年少組が泣きそうな表情で看病をしているが、ポーションがあれば・・・。薬なんて買えない。スキルを使える者も居ない。このままでは、ラオが死んでしまう。

 俺は、数日前から噂になっているおっさんを襲って、イエーンを奪うことを考えた。ラオが治れば、俺は警備隊に捕まって、奴隷になってもかまわない。アキ姉が居れば、グループは大丈夫だ。俺が、殺されても・・・。

 アキ姉にだけ相談した。
 もちろん、反対された。おババのところで、薬をなんとか貰ってくると言ってくれた。それで、治るとは限らない。

 だから、俺は、拾ったナイフを持って、おっさんを襲う事にした。ナイフで脅せば、ポーションを買うくらいのイエーンが奪える。はずだった。

 でも、アキ姉だけではなく、グループの仲間が俺を追いかけてきてしまった。ラオの症状から、もう限界だった。アキ姉も、俺の話を聞いてくれた。反対なのは、俺だけが犠牲になればいいと思っている部分で、俺とアキ姉の二人で謝ろうと言ってくれた。謝って許されないのはわかっている。だから、二人で奴隷になってでも、おっさんに尽くそうと言い出した。

 おっさんがスラムに来る時間は決まっていない。
 隠れて待っていると、おっさんが猫を連れて、スラムから出てきて、そのまま街の外に出て行った。

 スラムの出口からおっさんの後をつけていた。街の外に出てくれるのなら、俺たちにとって都合がいい。

「行くぞ!」

 自分に気合を入れるために、皆に声をかける。不安そうにしているアキ姉に、無理なら待っていて欲しいと伝えたが、一緒に行くと譲らなかった。俺も複雑だ。アキ姉が一緒だと嬉しい。頼もしい。でも、アキ姉が奴隷になるのなら、やらないほうがいい。アキ姉が、他の男の・・・。

 おっさんから目を離していないのに、一緒に居た猫がいつの間にか居なくなっている。

 おっさんは、何も考えていないのか、魔物が出る森に向かっている。
 不思議と、魔物に襲われないで、森にある草原にたどり着いた。

 おっさんは、俺たちの事に気が付いていた。

 アキ姉がおっさんと話をして、大量の魔物が貰えることになった。これで、ラオに薬を買ってやれる。治して・・・。涙が出そうになるが、俺が泣いてはダメだ。俺は、グループのリーダーだ。

 アキ姉とルルがおっさんのところに残る。
 俺たちは、おっさんから渡された手紙をおババに届ける。それから、おババの指示に従うように言われる。この時間だと、門番が居るはずだ。おっさんから、門番に渡せと言われた手紙を持たされた。

 いつもは、俺たちを見ると嫌な顔をする門番も、おっさんからの手紙を見せると、何も言わないで中に入れてくれた。それだけでも異常なのに、今日は優しく声をかけてきた。気持ちが悪い。

「イザーク?」

 弟たちが俺を心配そうに見ている。しっかりしなければ・・・。

「悪い。おババの店に行こう」

 おっさんから渡されたナイフを手で弄んでいた。
 初めて、まともなナイフを持った。”俺はなんでもできる”そんな気分になっていた。でも、おっさんからナイフや武器を使わない方法を考えろと言われた。おっさんに言われて、俺だけが勝ってもしょうがない。俺は、みんなのリーダーだ。

「珍しいね。今日は、アキじゃないのか?」

 正直、おババは苦手だ。
 怒られたことはないが・・・。アキ姉が、信頼しているのも気に入らない。

「おババ・・・。これを・・・」

 おっさんから渡された手紙を、おババに渡す。

 おババは、手紙を受け取る前に、不思議そうな表情をしてから、裏側を確認している。

「イザーク。これは、どうした?正直に話しな」

 この目だ。見透かすような目が・・・・。俺が、おババを苦手としている理由だ。

 俺は、ラオのことを含めて、すべてを話した。

「そうか・・・。手紙を、確認するから、待っていな」

「うん」

 おっさんからの手紙を丁寧に扱って、おババは手紙を取り出して読み始める。
 途中まで読んでから、俺を見る。何が書かれているか、気になる。

 おババは、読み終わってから、最初から確認するようにもう一度読み始める。
 沈黙が怖い。

「あんたたち・・・」

 呆れた表情を俺に向ける。

「??」

「イザーク。お前が襲おうとした人がどんな人か知っているのか?」

 まーさんとかふざけた名前のおっさんだ。

「え?貴族に仕える奴じゃないのか?それか、商人だろう?」

「あの方。あの人が言ったのか?」

 首を横に降る。

「そうか、あの人は、何か言っていなかったか?」

「”まーさん”とだけ・・・」

「まーさん?それが、お前に手紙を渡したお人の名前か?」

 おババは、貴族でも豪商でも気に入らなければ、平気で追い払うと聞いている。その、おババがまーさんに対して貴族が使うような言葉を使っている?

「え?うん」

「もしかして、”まーさん”は、猫を連れていなかったか?」

 猫?最初は、ペットかと思った。あの猫か?

「連れていた。めちゃくちゃ強い猫でびっくりした」

 強かった。
 魔物を簡単に倒して、咥えてきた。ギルドで見たことがある魔物もほぼ無傷だ。どうやったら、あの魔物を無傷で倒せるのか解らない。姉ちゃんたちでも、傷だらけにしてやっと倒していた。

「よく、お前たち、生き残ったな?」

「え?」

「最近、スラムが静かだとは思わないか?」

 おババの言葉で、俺は弟たちを見るために振り返った。皆が、”そういえば・・・”と、何かしら感じていた。

「俺たちは、スラムの入口の安全な場所で暮らしている」

「聞いている。それで?」

「俺たちからイエーンを奪って行った奴らを見かけない」

 それだけじゃない。
 人から奪って生活しているような奴らも見かけなくなっている。

「そうか・・・。イザーク。その”まーさん”が、どこから出てきたのを見た?」

「え?スラムから・・・」

 そう・・・。スラムから出てきた。

「そうだ。今、スラムの裏組織が潰されている」

「??」

「お前たちに暴力を振るって、イエーンを奪ったり、お前たちを捕まえて奴隷商に売ったり、犯罪を行っている連中だ」

「あっ!」

「そして、その組織を潰して回っているのが、”まーさん”だ」

「・・・??え!!!」

「よく、お前たち、生きているな。スラムで”まーさん”に武器を向けた者は、不思議な力で捕えられるか、再起不能な状態だ。アキまで巻き込んで、イザーク。解っているのか?」

 おババの言っている話が解らない。

「まぁいい。まーさんからの指示を伝える。イザーク。お前には、拒否はできない。解っているか?」

「うん」

 まーさんが、何をおババに頼んだのか解らない。
 でも、俺は指示に従う。アキ姉の為にも・・・・。ラオの為にも・・・。

 まーさんが、おババが言っているような”怖い人”には思えない。俺たちに、あんないいナイフを貸してくれた。
 肉を食べさせてくれた。

 まーさんなのか、猫なのか、解らないけど、俺たちの傷を治してくれた。
 解っている。俺たちは、殺されても文句は言えなかった。アキ姉の言う通りに、辞めておけば・・・。ダメだ。ラオが・・・。

 でも、アキ姉が交渉して、いい方向に向かっている。
 おババの表情からも、そんなに悪い指示ではないだろう。簡単ではないと思うけど、俺たちには、もう残されていない。

 ラオを死なせない為にも・・・。
 俺は・・・。もう、誰も、失わない。

 私の名前は・・・。名前を、呼ぶ者は居ない。名前を忘れたわけじゃないけど、”おばば”と呼ばれている。
 産まれてからいろいろな名前で呼ばれていた。

 今の場所に落ち着いたのは、80年以上前だ。長命種から見たら、一瞬とは言わないが、短い期間だ。しかし、これほど長く住み着いた場所は、ラインリッヒの領都だけだ。前の前の領主に頼まれて、居を構えた。それから、代替わりを見守ってきた。

 今の当主も無能ではないが、先々代と比べてしまうと、少し中央を向きすぎている。先々代も先代も足下をしっかりと見てから中央と接していた。だから、辺境伯として領地を守っていられた。フォルミは、無能ではない。先代や先々代と違って、領地を富ませる能力は飛びぬけて高い。
 だが、自分ができる事は”他人”もできると考えてしまっている。
 領都の代官にあんな無能を置くとは思わなかった。

 そろそろ、この都市から出て行こうかと考えていた。そんなタイミングで、一人の青年が、店を訪ねてきて、薬草の知識と弟と妹を守るための知識が欲しいと言ってきた。対価を要求したら、自分の全てだと言い切った。まっすぐに私を見る目に若さを感じて、私が要求する薬草や素材を持ってくる事を条件に、薬草の知識、調合の知識、青年が言っている弟と妹の保護を約束した。どうやら、先代の代官が世話をしていた者の一人のようだ。
 先代の代官が、殺されてから、世話をしていた者たちは領都を出たと思ったが、残ってスラムに落ちそうな子供たちをまとめていたようだ。

 弟と妹は、全部で21名。増減はある。他の街に送り出した者も居る。青年に協力しながら、スラムに落ちる子供たちを拾い上げていた。全ての子供たちを救いあげられるわけではない。しかし、青年は自分の手が届く範囲だけでも助けたいと涙を流した。歯を食いしばって、己が傷つくのを躊躇せずに、青年は、子供たちを救いあげていた。

 それを面白く思わない者たちが居るのも事実だ。青年が居なければ、もっと奴隷にとして・・・。商品が手に入ると思っている者たちだ。
 無能で狭量で自己肯定が強い小心者の代官と、無能から任命された警備主任だ。他にも、隣の領から入ってきている商人も、同じだ。青年が、力を付けていると勘違いしている。そして、青年が自分の地位を奪うのではないかと考えていた。
 そして、青年をスラムの連中に殺させた。その報酬で、スラムの勢力が拡大した。

 青年は、自分が狙われているのが解っていたのか、二人の子供を私の前に連れてきた。
 自分の後は、この二人が引き継ぐと言っていた。二人の子供は、イザークとアキと呼ばれていた。

 青年が殺された日に、最初に飛び込んできたのはイザークだった。
 しかし、その後にやってきたアキと名乗った少女の方が落ち着いていた。彼女は、自分が何をしなければならないのか解っていた。弟と妹を守ると言い切った。『力がない自分では、知恵を付けるしかない。守るために”知恵を身に着ける方法を教えて”欲しい』と懇願してきた。
 疲れ切っていた私の心に響いた。このアキと呼ばれる少女を最後に、この街を出ようと考えた。

 成長を見守って居る間に、イザークはギルドに出入りして、余り筋のよくない連中と一緒に居る事が多くなった。アキは、毎日ではないが顔を出して薬草を置いていく、そんな中で、アキたちのグループをよく思わなかった者たちが、アキの弟と痛めつけた。

 アキが泣きそうな声で飛び込んできた。
 この辺境では対応ができる状況ではない。ポーションを渡したが、命の灯火を伸ばす程度にしかならないだろう。聖スキル持ちが居れば・・・。

 それから、数日、アキは訪ねてこなかった。

「おばば!」

 イザークが飛び込んできた。
 アキに何か有ったのか?

「珍しいね。今日は、アキじゃないのか?」

 イザークが慌てた表情で、何かを取り出す。やはり、アキに何か有ったと考えるのが妥当か?

「おババ・・・。これを・・・」

 イザークが持ってきていたのは、手紙の様だ。
 それも、王家の印章が入っている?こんなに高級な物をイザークに託す?意味が解らない。
 裏側を見ると、どうやら”イーリス姫”の関係者のようだ。アキが捕えられているわけではなさそうだ。イーリス姫は、数少ない、ラインリッヒ辺境伯寄りの王族のはずだ。

 そもそも、イザークが持っていていい手紙ではない。あの青年なら可能性はあるが・・・。入手した経緯を確認しないと、封が開けられない。

「イザーク。これは、どうした?正直に話しな」

 イザークをにらみつけてみたが、今日は怯えた表情を見せるが、そこで踏みとどまっている。逃げ出すようなら、何か悪い事をしたのかもしれない。しかし、イザークが語りだした内容は・・・。頭が痛くなる。

 ラオは、この前、アキが飛び込んできた時の子だろう。ポーションはどうした?
 もしかして、アキがイザークの作成を承諾したのは、ポーションを誰かに奪われたからか?それは、私の失態だ。アキなら大丈夫だと思ったが、アキに暴力を振るって、ポーションを奪うくらい何も気にしない者たちが残っているのを忘れていた。ギルドの奴らか?

「そうか・・・。手紙を、確認するから、待っていな」

「うん」

 手紙を丁寧に取り出して、読み始める。
 ”まさか”と思いたかった。でも、間違いない。

 読み直しても、”あの方”だ。
 イザークは、手を出してはダメな人に手を出した。違うな。”あの方”でなければ、イザークとアキはよくて殺された。悪くしたら、あの青年が望んだ事が全て無くなっていた。奴隷になって、使いつぶされる未来しかなかった。死ぬ方がマシだと思われる未来になっていた。

 読み終わった手紙をしまって、手紙の主からの依頼を考える。
 イザークたちに行わせるには少しだけ難しいが、手紙の主は、イザークたちに行わせたいと書いてある。その為のサポートを頼むと書かれている。

「あんたたち・・・」

 これは、私が断れるような類の”お願い”ではない。
 アキたちを捕えていると書いているが、実態は違うだろう。

「??」

「イザーク。お前が襲おうとした人がどんな人か知っているのか?」

 イザークたちが知っているとは思えない。
 裏の事情だ、王都からイーリス姫と一緒にやってきた人物が、代官を脅した。スラムの顔役だけではなく、警備隊やスパイになっている商人。商人を隠れ蓑にした奴隷商などが慌てだした。
 すぐに、辺境伯家が動くかと思われたが、動かなかった。自体は、そこで終わったと思われていた。

「え?貴族に仕える奴じゃないのか?それか、商人だろう?」

「あの方。あの人が言ったのか?」

 イザークの印象のようだ。
 だから、ターゲットに選んだのだろう。

「そうか、あの人は、何か言っていなかったか?」

「”まーさん”とだけ・・・」

「まーさん?それが、お前に手紙を渡したお人の名前か?」

「え?うん」

「もしかして、”まーさん”は、猫を連れていなかったか?」

「連れていた。めちゃくちゃ強い猫でびっくりした」

 間違いない。
 スラムの顔役を潰して、警備隊や商人で、代官に繋がって領民を苦しめていた連中を処分している人だ。

「よく、お前たち、生き残ったな?」

「え?」

「最近、スラムが静かだとは思わないか?」

 イザークたちにも心当たりがあるようだ。それだけ、環境がいい方向に進んでいる。あの方の目的が達成されたら、残されているギルドもいい方向に進むだろう。

「俺たちは、スラムの入口の安全な場所で暮らしている」

「聞いている。それで?」

「俺たちからイエーンを奪って行った奴らを見かけない」

「そうか・・・。イザーク。その”まーさん”が、どこから出てきたのを見た?」

「え?スラムから・・・」

 イザークを少しだけ脅しておいた方がいいだろう。素直に、手紙の内容に書かれていることに、従ってくれるだろう。

「そうだ。今、スラムの組織が潰されている」

「??」

「お前たちに暴力を振るって、イエーンを奪ったり、お前たちを捕まえて奴隷商に売ったり、犯罪を行っている連中だ」

「あっ!」

「そして、その組織を潰して回っているのが、”まーさん”だ」

「・・・??え!!!」

「よく、お前たち、生きているな。スラムで”まーさん”に武器を向けた者は、不思議な力で捕えられるか、再起不能な状態だ。アキまで巻き込んで、イザーク。解っているのか?」

 イザークは、アキの名前が出て、自分が無謀だったと考えてくれた。
 これからは、あの方が導いてくれるだろう。”期待するな”と書かれているが、期待してしまう。先々代の頃の様に、先代がまだ元気だった時のように・・・。

「まぁいい。まーさんからの指示を伝える。イザーク。お前には、拒否はできない。解っているか?」

「うん」

 俺は、イザーク。
 おババに手紙を届けた。おばばから、まーさんが凄い奴だと聞かされた。

「まぁいい。まーさんからの指示を伝える。イザーク。お前には、拒否はできない。解っているか?」

 解っている。アキ姉がまーさんと一緒に居る。アキ姉の所に帰る為にも、まーさんから出された指示はしっかりと実行する。

「うん」

 俺の返事を聞いて、おババが俺を見て来る。いつものような視線ではない。
 どこか優しい感じがする。

「まずは、イザーク。この手紙を持って、領主の館に向かいな。門番に、手紙を見せれば、いい」

「え?」

「なんだい。領主の館を知らないのか?」

「知っている。でも・・・」

「大丈夫だ。手紙を門番に渡したら、後は、門番の指示に従えばいい。この子らは、ここで預かっておく」

 え?領主?
 俺が?一人で?確かに、弟たちを連れて行くわけにはいなかい。でも、俺が?アキ姉なら・・・。ダメだ。俺が行かないと、それに早く澄ませて、戻らないと・・・・。

 領主の館は、もちろん知っている。
 近づいてはダメな場所だ。

 領主の館までは、歩けばそれだけ遅くなってしまう。少しでも早くアキ姉の所に戻りたい。だから、全力で走った。領主の館の位置も、街の中も、俺は熟知している。どこを走れば早いのか?人が少ない場所を選んで走る。頭の中で、街を思い浮かべて、今の最短距離を全力で走る。

 領主の館の裏側に出る小道を走っている。
 裏から、表に回るのに、時間がかかるが、これが一番早い。人を避けなくていいので、走りやすい。

「これを」

 普段なら、絶対に突き返されるか、怪しい奴だと言われて、殺されてしまう。
 手紙を先に出したら、門番の顔色が変わった。

「これは、どうした?」

「え?まーさんに渡された・・・」

 どう説明したらいいのか解らなかったから、とっさにまーさんの名前をだしてしまったが、大丈夫だったようだ。

「そうか、まーさんの・・・。解った。待って居ろ。おい。これを、イーリア様に。あと、この子供を待機所に連れていけ」

 イーリア様?
 え?待機所?

 まーさん?何者?

 まーさんは、不思議な人だ。強そうには見えなかったが、スラムに居た奴らを倒したらしい。あの強い猫がやったのか?
 よくわからない。でも、俺たちは生きている。武器を向けたら倒される?ナイフは切られたけど、俺たちは殺されなかった。

 待機所で待っていると、門番の一人が現れた。

「名前は?」

「え?」

 名前?俺の?
 貴族に仕えるような人が?
 それこそ、ギルドの人たちでさえも、俺たちを人として見ていない。”おい”とか”お前”とか適当な呼び名で呼ぶのが普通だ。それなのに名前?

「君の名前だよ。あるだろう?」

 ”君”なんて言い方で呼ばれたことはない。

「あっ。イザークです」

「イザーク。まずは、身体を拭かせてもらう。あと、服も着替えて貰うぞ」

 身体を拭く?
 着替える?

「え?え?」

「イザークが持ってきた手紙に、指示が書かれていた」

 そうだ。
 服を着替えると、イエーンが必要だ。それに、俺だけ・・・。

「でも、俺・・・。イエーンを持っていなくて・・・」

「大丈夫だ。まーさんからの指示だ。それから、君たちの弟や妹が居るのだろう?連れてきなさい」

 え?全員?

「え?」

「あぁ二人は、まーさんと一緒か?他に、何人か居るのだろう?」

「はい」

 アキ姉・・・・。

 扉がノックされて、メイド服を来た女性が部屋に入ってきた。
 それから・・・。

 服を脱がされて、体中を拭かれた。頭から水を掛けられた。それから、何度も何度も、身体を拭かれて・・・。
 綺麗な服に着替えさせられて、まーさんから借りたナイフを腰にぶら下げるようにしてくれた。

「よし。これなら・・・。多少はましになった。いいだろう。付いてきなさい」

「え?」

 着替えが終わったら、今度は”ついてこい”と言われた。

 門番に着いて行くと、途中で案内をする人が女性に変わった。俺の身体を好き勝手にしたメイドと同じ服を着ている。

「ここです。ナイフは持って入っても大丈夫ですが、ナイフに手を掛けたら・・・」

「解っています。戦うよりも、生き延びることを考えます」

「よい考えです。イーリス様。カリン様。イザーク様の準備が出来ました」

 イザーク様?俺のことか?

 ドアが開けられて、メイドさんについて中に入ると、すごく綺麗な女性が俺を見ている。

「どうでしょうか?」

「うん。合格!」「さすがは、まー様ですね」

 何を言っているのか解らない。
 どうしていいのか解らない。

「カリン様」

「そうですね」

 右側に座っていた、女性が立ち上がって、俺の前に来た。

「イザーク君。今から、まーさんが君に託した指示を伝えます」

「はい」

「いい返事ね。まずは」

 ギルドと教会に、手紙を持っていく、手紙には、まーさんから渡された手紙と同じ印が付いていた。教会には、イエーンも渡すように言われた。貴族が行う”寄付”とかいう奴か?俺たちも、教会が行う配給?を貰ったことがあるから知っている。

「わかった。でも・・・」

「でも?」

「アキ姉が・・・。それに、ラオが心配・・・」

「怪我をしているという男の子?」

「え?はい」

「そう。イーリス。どうする?私が行く?」

「お願いできますか?」

「わかった。イザーク。私の事は、カリンと呼ぶように・・・。それから、君たちが寝床にしている場所に案内して!」

「え?」

「行くよ。早く!イーリス。後は、お願い」

「わかりました。準備をしておきます。それから、心当たりがあるので、使いを出します」

 カリンさん?すごくいい匂いがする。大人の女性だ。そして、すごく綺麗。俺の手を握って・・・。

「どっち、案内して!」

 領主の屋敷を出ると、手が離れた。
 カリンさんを、案内して寝床に行くと、ラオが・・・。

「ラオ!」「イザーク兄ちゃん。ラオが。ラオが」

「大丈夫だ。大丈夫だ」

 俺は何もできない。
 苦しそうにしていたラオが、今にも・・・。ダメだ。

「ラオ!ラオ!」

「イザ・・・にぃ」

「・・・。ラオ」

「どいて!」「何を!」

 カリンさんが、俺を押しのけて、ラオの前に跪いた。綺麗な服が汚れてしまう。

「え?」「・・・」

 跪いているカリンさんの手から光が・・・。
 そして、ラオを覆うように光が・・・。

 徐々に光が治まると、ラオが目を開いた。

「動かないで、傷を治して、病気を倒しただけだから、体力も落ちているし、食事もしていないでしょ?そうだ!他の子もまとまって!」

「イザーク兄ちゃん?」

「大丈夫だ。俺も一緒だ。カリン様。俺も一緒でいいよな?」

「いいけど、様は寂しい。そうだ!私の事は、お姉ちゃんと呼んで、そうしたら、イザークも一緒でいいよ」

「え?カリンお姉ちゃん?”カリン姉”じゃダメか?」

 恥ずかしい。お姉ちゃんなんて始めて言った。

「うーん。しょうがないな。それで許してあげる。ほら、まとまって!」

 カリン姉が、スキルを発動する。
 俺を含めて、皆が泡に包まれる。

 ラオ以外も、皆が綺麗になった?

「うん。まずは、こんな所かな。ラオ君は、私が運ぶから、他の子は、私についてきて、イザークはギルドと教会ね」

「わかった」

 ラオが治った。今は寝ているようだけど、苦しそうにしていない。ジュクジュクしていた傷も治っている。それだけじゃない。カリン姉が治してくれた?
 他の子も、手足に傷があったけど、よく見ると無くなっている。もしかして、カリン姉は凄い?聖女様?

 言われた通りに、教会に走った。イエーンを渡したら、中に案内された。綺麗な球に触るように言われた。触れたら、身体が光った。教会の人も驚いていたが、詳しい話は、イーリス様に聞くように言われた。俺は、全部の文字が読めないが、球に出た何かを書いて、俺に渡して、イーリス様に渡すように言われた。

 ギルドは、よく行っている場所だ。知っている人も居たが、俺だと気が付かない。
 いつもは、来るなと言われるギルドの受付に、手紙を見せると、奥に通された。ギルドに居る奴らが、何事かと騒いでいる。俺にも解らない。偉そうな人が部屋にやってきた。カードを、渡された。

 これは、ギルドカードだ。
 それも、1枚ではない。30枚くらいある。なんで?

 ギルドカードを持ってきたのは、驚いたことにギルドマスターだった。
 そのあとで、イーリス様によろしくと言われた。さっぱり解らない。

 でも、これで頼まれていた事は終わりだ。
 領主の屋敷に急いだ。

 また、裏道を通って、全力で走った。
 なぜか、前よりも身体が軽い。

 今日は、解らない事ばかりだけど、いい方向に進んでいるように思える。

 おいらたちの生活は、おっちゃんに会ってから変わった。
 まずは、カリン姉がラオを治してくれた。他にも、体調が悪かった者も治してもらえた。それから、アキ姉や女の子だけが集められて、何かを話していた。話の内容は教えてもらえなかった。でも、その日から、アキ姉たちはカリン姉と一緒に居る時間が増えた。

 おいらたちの寝る場所も変わった。
 スラムの入口だったおいらたちの寝床は、おっちゃんによって壊された。おいらたちの少ない荷物は持ち出している。そのまま、街の入口。魔物の森が近くに広がる城壁近くに移動した。
 しっかりした壁があって、屋根がある場所が、おいらたちの寝床になった。
 風呂とかいうお湯を貯めて、身体を洗う場所や臭くないトイレがある。1人、1部屋だ。

 でも、女の子は女の子で大きい部屋を使う。男も、男で部屋を決めた。最初は、嬉しくて別々の部屋で寝たけど、寂しかった。小さい妹や弟が、寂しがったのも大きな理由だ。

 空いている部屋には、スラムの外側に居た、おいらたちと同じような者たちが集められた。
 おっちゃんが集めてきた。対立していたグループもあったが、おっちゃんが文句なしの”喧嘩で終わらせろ”と言った。おいらが勝ったことで、この家のリーダはおいらになった。

 年が解る者は、ギルドに登録した。
 あの日に渡されたギルドカードだけでは足りなかったけど、カリン姉が持ってきてくれた。

 教えられていたギルドの話が全部ではないけど、殆どが嘘だった。
 ギルドマスターがおいらたちの所に来て、頭を下げて謝ってきた。どうやら、一部のギルド員がおいらたちを騙していた。

 あと、騙していたギルド員たちは、スラムの顔役と繋がっていて、おいらたちが大人になったら、スラムの顔役の所に連れて行って、兵士(捨て駒)にするつもりだったようだ。アキ姉たちは、奴隷商に売るつもりだったようだ。

 あの時に、おっちゃんに拾われていなければ、おいらたちは騙された事も知らないまま・・・。

 おいらは、おっちゃんと一緒に森に行く事が多くなった。
 皆で食べる為の獣を狩っている。他にも、アキ姉たちに頼まれた野草や木の実を採取している。おババが薬にしてくれるらしい。

 イエーンを稼ぐ方法を、おっちゃんが教えてくれた。
 そして、実践してくれた。ギルドに売るだけが、イエーンを稼ぐ方法ではなかった。おババの店もだけど、しっかりと話をすれば、街にある店で買ってくれる。ギルドに売るよりも高く買ってくれる場合もある。

 おいらたちは、アキ姉と一緒におっちゃんに謝った。
 心から、謝った。許して欲しいと思った。大人は、おいらたちから搾取していくだけだと思っていた。でも、おっちゃんは違った。

 おっちゃんは、おいらの頭を撫でてくれた。

 おっちゃんは、おいらたちに生きるための方法を教えてくれた。

 森で狩りをしている最中に、おっちゃんの目的を聞いた。
 カリン姉もおっちゃんと一緒に行くと決めているようだ。おいらたちも、おっちゃんに着いて行こう。

 でも・・・。おいらだけで決めていない。アキ姉にも相談した。ラオにも聞いた対立していたグループの奴らにも話を聞いた。

 無理だと言っている奴らも居た。
 そいつらは、街に残ればいい。イーリス様にも確認をして、おいらたちが住んでいる場所は、おいらたちが好きに使っていい場所だ。

 アキ姉は、街に残ると言っている。
 イーリス様を手伝うと、考えているようだ。おいらでは、アキ姉の手伝いも、イーリス様の手伝いも、どちらもできない。だから、おっちゃんと一緒に行こうと考えた。おっちゃんの近くなら、おいらにも・・・。おいらたちにもできることがある。

 将来のことだと、おっちゃんは言うけど・・・。
 皆が、自分で考えている。

「イザークは、何をしたいの?」

 元気になったラオは、カリン姉に教わりながら、パンを焼いている。

「みんなを・・・。守るのが・・・」

「違うよ。イザーク。僕たちは、弱かった。でも、今は、違うよ。僕も、ロウもトトもイーネも、イザークに守って貰わなくても、大丈夫・・・。じゃないけど、大丈夫。僕が焼いたパンが売れたのだよ!イザーク。僕だけじゃない。まーさんとカリンさんとイーリス様のおかげで・・・。ううん。違う。イザークとアキ姉のおかげで、僕たちは生きて、生活が出来ている。だから、今度は、僕たちがイザークを応援する!」

 ラオが、つっかえながら、何かを思い出しながら・・・。

 涙が出てきた。

「ラオ」

「僕が、生きているのは、イザークとアキ姉のおかげだよ」

「違う。おいらは、何も出来なかった。ラオを助けたのは、カリン姉とおっちゃんだ」

「そうだね。僕から傷の痛みを取ってくれたのは、カリンさんだよ。でも、カリンさんが僕を助けてくれたのも、イザークとアキ姉が・・・。だからね。僕たちの心配はしなくて・・・。は、難しいだろうけど・・・。イザークが、”本当に願っているのは何?”」

 なんか、ラオらしくない。
 多分、練習してきたのだろう。

 ラオが来た方を見ると、皆が揃っている。
 アイツらだけじゃない。きっと、おっちゃんが・・・。

 おいらが望んでいる事?

 皆と一緒に・・・。皆を守って・・・。
 大人になったら・・・。アキ姉を守って・・・。アキ姉と一緒に・・・。

 ラオの頭を撫でる。

「イザーク?」

「ありがとう。難しく考えすぎていた」

「そうだね」

「おっちゃんにも、お礼を伝えておいてくれ、おいら・・・。ちょっと、イーリス様の所に行ってくる!」

 家を飛び出す。
 アキ姉は、おババの所に行くと言っていた。おっちゃんとカリン姉がどこに居るのか聞いていない。
 でも、イーリス様は、屋敷に居るか、おいらたちの家に来ているか、それか教会に行っている。居なければ、屋敷の人に聞けば教えてもらえる。

 イーリス様は、屋敷で書類の整理をしていた。
 すぐに会ってもらえることになった。孤児で、スラムに落ちる寸前だったおいらたちにも会ってくれるから忘れているけど、イーリス様は王族だ。貴族の上に居る人だ。おいらたちが直接会うどころか、姿を見ることもできない人のはずだ。

「あら?イザークさんは、今日はおひとり?」

「はい」

 大きく息を吸い込む。
 凄く失礼なことだと、最近になって教えてもらった。

 でも・・・。

「イーリス様。おいら。騎士に・・・。イーリス様を支えるアキ姉を守るための騎士になりたい。です」

 言い切って、頭を下げる。

「ふふふ」

 え?
 イーリス様の反応が、笑い?

「イザークさん。ごめんなさい。まー様から、近日中に、君が私の所に来るからと教えられていて、本当に訪ねてきて、まー様の予想通りのことを言ったので、笑ってしまいました」

「え?おっちゃんが?」

「そうね。それで、イザークさん。騎士になるという気持ちは揺るぎませんか?本当に、騎士になると考えたのですか?」

「はい。騎士になれば、アキ姉を守れるのなら、騎士になりたいです」

「イザークさん。騎士は、アキさんだけを守る立場ではないわ。皆を守るのが騎士なのよ?」

「はい!アキ姉なら、自分だけではなく、皆を守るようにいうはずです。だから、おいらは、騎士になって、アキ姉が守りたい人たちを守ります」

「ふふふ。わかった。騎士になるのは、難しいわよ。それに、皆に会える時間が無くなるわよ?」

「はい!」

「覚悟があるのなら、まずは見習い身分ですね。訓練に、明日から参加しなさい。あと・・・」

 あと?

「言葉遣いは、アキさんに直してもらいましょう。いいわよね。アキさん」

 え?
 アキ姉?

 イーリス様が座っている椅子の横にある扉が開いて、顔を真っ赤にしたアキ姉が部屋に入ってきた。

「わかりました。イーリス様。イザーク。私と一緒に、勉強をしてもらうけど、いいわよね?解らない事は、私が教えてあげる」

「もちろん!」

 朝の時間帯は、アキ姉と一緒に勉強をする。おいらは、文字がまだ全部は読めない。だから、文字の読み書きを勉強して、言葉遣いや態度やマナーの勉強も行う。休憩を挟んで、騎士としての訓練をする。そのあとは、おっちゃん。まーさんに言われて、イーリス様から本を借りて、読む。

 カリン姉が何か嬉しそうにしていたのが気になった。アキ姉に”おめでとう”と言っていたけど、何かいいことがあったのか?

 勇者たちは、お披露目を行ってからも何も変わらない日々を過ごしていた。

 お披露目は、大通りをパレードする形で行われた。
 盛大という言葉が相応しい状況だったが、一部の民衆は冷めた気持ちで、パレードを眺めていた。

 勇者たちは、宰相派閥の貴族に引き取られるように、貴族家の屋敷に移動した。
 貴族家で、傲慢な態度はさらに酷く傲慢に拍車がかかった。勇者たちは、安易な快楽に溺れて行った。

 勇者の1人であり聖剣の持ち主である剣崎凱斗(けんざきかいと)は、最初の頃は、剣の訓練をしていたが、徐々に訓練も減り楽な方向に気持ちを動かしていた。そして、”人”を殺すことで、スキルのランクが上がることを知ってしまった。
 最初は偶然だった。
 王宮での暮らしに飽きた勇者たちは、森に散策に出かけた。もちろん、騎士団を護衛に付けてだ。娯楽がない世界では、狩りが貴族の娯楽として定着していた。勇者たちは、面倒だと感じながら貴族の狩りに随行した。

 その時に、貴族が連れてきていた奴隷の一人が、勇者が持っていた剣に間違って触れてしまった。

「貴様!」

 剣崎凱斗(けんざきかいと)は、手に持っていた聖剣に奴隷が触れたことに激怒した。

 奴隷は、貴族家の下男で荷物運びをしていた。
 この日も、剣崎凱斗(けんざきかいと)の荷物を持って、勇者たちの後ろに従っていた。そして、騎士たちが瀕死の状態にした魔物や動物たちを、勇者たちの前まで持ってきていた。瀕死になっているとしても、魔物は魔物だ。既に、数名の奴隷は魔物に殺されている。

 聖剣にも触れたのではなく、剣崎凱斗(けんざきかいと)が聖剣を後ろ向きも持っていて、腕を振った時に触れてしまっただけだ。

「お許しください。お許しください」

 奴隷の下男は、土下座して謝罪の言葉を口にする。
 やったことから考えれば、むち打ちくらいで終わるはずだ。一緒に居る貴族や騎士たちも、下男が蹴られて、暫くの間は使い物にならなくなる程度だと考えていた。

「はははは」

 剣崎凱斗(けんざきかいと)が土下座する奴隷の頭を踏みつけながら大きな声で笑い始めた。
 異様な雰囲気に、場の空気が一変する。

「お許しください。勇者様」

 奴隷は、頭を踏まれた状態でさらに懇願する。

 剣崎凱斗(けんざきかいと)は、さらに大きく笑いながら、奴隷の頭を何度も踏みつける。
 地面に額を打ち付けながら奴隷は謝罪の言葉を口にし続けた。

 暫くしてから、剣崎凱斗(けんざきかいと)が奴隷の頭から足を浮かせる。
 そして、奴隷の顔面を蹴り上げる。

「許してやるよ」

 奴隷に向けて剣崎凱斗(けんざきかいと)が口にしたのは、”許してやる”という言葉だ。

「ありが・・・。え?」

 奴隷が顔を上げて、感謝の言葉を述べている途中で、右肩から左わき腹に賭けて、剣崎凱斗(けんざきかいと)が放ったスキルがヒットした。
 そして、そのまま奴隷は切断された。

 辺りには、血の臭いが漂い始める。

 奴隷を殺したことなど気にした様子がない剣崎凱斗(けんざきかいと)は、何度もスキルを発動して、死んだ奴隷の遺体をさらに損壊させている。

「ぎゃははは。こいつの顔!最高だ!許されると思ったのか、ばぁぁかぁ!許すわけがない。俺の剣にゴミが触ったのだぞ!簡単に死ねたことが許しだ!」

 剣崎凱斗(けんざきかいと)は死んだ奴隷の髪の毛を掴んで持ち上げる。
 死に際の顔をさらに殴りつける。動かなくなり、抵抗してこない相手には、どこまでも残忍な行いができる。

 剣崎凱斗(けんざきかいと)の理不尽な物言いに、近くに居た騎士が声を掛けようと近づいた。

「勇者様?」

 騎士が近づいて声を掛けるが、剣崎凱斗(けんざきかいと)は別の事が気になってしまっている。

「おぉぉぉすごいぞ。スキルのレベルが上がったぞ!」

「本当か?」

 最初に近づいたのは、狩塚悠椰(かりつかゆうや)だ。

「あぁゴミを切ったあとで、加速のスキルが上がった。あれだけ、魔物を討伐してもあがらなかったのに!」

 剣崎凱斗(けんざきかいと)は、剣を振るう時に、加速のスキルをつかった。
 初期のスキルだが、剣に付与することで、斬撃を飛ばせる。

「本当か?」

 前のめりに聞いてきた狩塚悠椰(かりつかゆうや)は、囲われている貴族からスキルが上がれば、気に入った女性を宛がうと約束されている。同級生だった糸野(いとの)夕花(ゆうか)を犯すことも考えていたが、糸野(いとの)夕花(ゆうか)はどこに行ったのか見つけることが出来ていない。

「あぁゴミだし、大した経験値にはならないだろう?でも、上がったぞ」

「そうか、俺もやってみるか?」

「やってみろよ!ゴミなら沢山あるだろう?」

「あぁ」

 スキルが上がらなくてイライラしていた所に、スキルのレベルを上げる方法が目の前にぶら下がったのだ。すぐに試したくなるのは当然の成り行きだ。そして、それは、近くに居る奴隷を殺す事だ。人として、最低限で守るべきラインを簡単に越えて、狩塚悠椰(かりつかゆうや)はスキルを発動する。
 土のスキルだ。
 最低ランクで、簡単な礫が飛ばせるだけだが、何度も打ち付ければ、人でも殺せる。

 余談だが、カリンこと糸野(いとの)夕花(ゆうか)は、土のスキルを新たに取得している。
 取得した後で、礫が使えると教えられると、礫の形を工夫したり、速度の調整を行ったり、狙い通りに当たるように練習をした。そのうえで、森に赴いて魔物相手にいろいろと試してスキルのレベルを上げた。

「お!本当だ!剣崎(けんざき)の話は本当だ!土のレベルが上がったぞ。使ったスキルが上がるようだ!」

 勇者たちは、剣崎(けんざき)が見つけた。簡単にスキルが上がる方法を試した。
 言葉にすれば、それだけの事だが、違った言い方をしたら、奴隷を殺し続けた。

 魔物の様に襲ってこない相手を殺すことでスキルが向上することは、騎士たちも当然承知していた。
 しかし、騎士たちは奴隷を殺す方法を教えなかった。面倒なことになるのは解り切っていたからだ。

 そして、騎士たちが恐れていた事態になってしまった。

 そもそも、人を殺すよりも、魔物を討伐したほうがスキルのレベルは上がりやすい。
 しかし、勇者たちは、自分たちで倒そうとしないで、騎士たちに魔物を弱らせてから、安全な状況になってから最後の”とどめ”を行っていただけだ。それで、スキルレベルが上がるわけがない。

 さらなる楽を覚えてしまった愚か()者たちは、奴隷を買わせて、面白半分で殺し始めた。
 人殺しへの忌避は既に無くなっている。

 ちやほやされ、自分たちが特別だと思い込んで、奴隷は人ではないと思っている。
 勇者たちは、自分のスキルを上げるために、訓練をして、魔物と対峙して、魔物を討伐する。それで得られる経験は、スキルの数値以上に大きな意味を持ってくる。

 勇者たちは、今まで接待で必要なスキルを上げようとしていた。
 必要なスキルが上がってきたら、スキルが上げを理由に、魔物の討伐を行う計画になっていた。

 しかし、勇者たちは安易な方法を知ってしまった。
 そのために、勇者たちは、スキルだけが高くなったが、実戦経験がない状態になってしまう。

 貴族家の当主なら問題になることは少ないのだが、勇者たちは帝国の看板として、戦地に赴かなければならない。
 その時に、金メッキがはがれてしまう可能性がある。

 そうなった場合に、一番の不幸は誰なのか・・・。

 そして、殺されるためだけに買われる奴隷。
 帝国には、それほど多くの”殺しても問題にならない”奴隷は居ない。既に、殺しても問題にならない奴隷は使いつぶしている。
 そうなると、勇者たちの求めに応じて、奴隷を確保するのが難しくなる。せっかく確保した勇者たちを有効に使えなくなる事を恐れた、貴族家は勇者の求めに従って”殺せる”者たちを準備しなければならなくなった。

 帝国史上もっと愚かで、最も人々を狂乱に落とし込んだ”条例”が、宰相のブーリエから発布された。
 一部の貴族から出された懸案を、最も容易に・・・。そして、問題を解決するために、考え出された、画期的だと本人たちが本気で思っている”条例”だ。

”奴隷条例”

 いくつかの条文で構成された”条例”だ。
 もともと、帝国には”奴隷法”という”法”がある。借金奴隷や犯罪奴隷や戦争奴隷があり、それぞれ区分されている。

 愚か者たちが奴隷を殺すことで、スキルアップが行えることを覚えてしまった。
 帝国から、犯罪奴隷が消えるまで、時間が掛からなかった。
 本来なら、犯罪奴隷が行うような現場に借金奴隷が流れて、身代金の請求が不可能になった戦争奴隷などが流用された。それだけではなく、本来なら軽微な犯罪で犯罪奴隷になるような罪を犯していない者まで、犯罪奴隷にされていた。

 それでも、奴隷が足りなくなっていた。

 そこで、自分が世界で一番賢いと思っている宰相と、自分たちが民をどう扱おうと自分たちの自由だと思っている一部の貴族家が結託した。

 犯罪奴隷の枠を拡大した。
 市民権を持たない者は、犯罪となると”奴隷条例”が発布された。全ての貴族が納得したわけではない。辺境伯など良識派の貴族が強固に反対した。その為に、”条例”となった。”法”でないために、帝国全土での施行ではない。領地事に、貴族家毎での、対応や解釈が許されてしまった。

 スラムの住民は、当然”市民権”を持っていない。
 他にも、市民権を持たない者は多い。おっさんも、カリンも、市民権は持っていない。

「まーさん!まーさん!」

 ”奴隷条例”は、辺境伯の領都に居るダストンの元にも届いた。同時に、辺境伯から、領内の全ての代官に”奴隷条例”には従わないように通達が出された。そして、従った者には、私財没収のうえで辺境伯領から追放すると但し書きが行われていた。

 驚いたのは、領都を任されていたダストンだ。
 国の方針と、異なる指示が出されたのだ。最初は、イーリスを呼び出そうとしたが、ダストンは”まーさん”を呼び出して、相談することにした。ダストンは、おっさんに言いくるめられてから、ちょくちょくおっさんに相談を持ちかけた。そして、おっさんの提案を実行した所、辺境伯からお褒めの言葉だけではなく、領都や周辺の農村から感謝されるような状況になった。一度だけなら、代官である自分の実力だろうと自分に言い聞かせることができたが、2度、3度と重なると、ダストンはおっさんを頼るようになった。

 おっさんは、ダストンから渡された二つの指示と”奴隷条例”の内容を見て、眉を寄せた。

「これは?」

「まーさん。私は・・・。領都はどうしたらいいと思う?」

 いきなり本題を切り出したのも、ダストンが混乱している証拠だ。
 ダストンの下には、辺境伯領の他の街や都市からの質問状が届いている。他の代官も、自分では判断ができない状況なのだ。判断が出来なければ、上位者に質問をすればいいのだが、辺境伯本人の指示は出ている。
 しかし、その上位である『”国”の指示に従うな』という指示だ。困った代官は、領都を治めるダストンと同じ方策を取れば、責任はダストンに向くと考えたのだ、申し合わせたかのように、全ての代官から質問状がダストンの所に届いた。

「ダストン殿。”奴隷条例”に関することを考える前に、市民権を教えて欲しい」

「市民権?」

「領都だけではなく、周辺の村や街での取得実績や、取得するための条件など、いろいろ教えて欲しい」

「わかった」

 ダストンは、書類ケースから、書類を引っ張り出してきた。
 最近になって、更新された書類だが、市民権を持つ者や、取得のための条件がまとめられている。

 簡単に言えば、市民権は”買う”ものだ。メリットは、門に入るときの身分証明書になること・・・。他には、領の施設を使う時に、多少は優遇される。税の一部が、免除される。その程度のメリットしかない。
 実際に、領都には5万を越える人間が住んでいるが、市民権を持つ者は、1割程度だ。ギルドが発展していて、ギルドが発行しているギルドカードが身分証明に使われているためだ。村などでは、村長が市民権を持っていれば珍しいほどで、ほぼ持っていない。必要がないと言い切ってしまえるほどだ。

「・・・。1割未満?それに、村は、ほぼ市民権を持っていない?」

「はい」

「そうだ。ダストン殿。行商人や商隊は?」

「持っていないでしょう」

「護衛を行っている者は?」

「持っていないでしょう。守備隊の隊員でも、半数以上が市民権を持っていない」

「・・・。イーリスは、知っていたか?」

 おっさんと一緒に来ていたイーリスも、びっくりした表情で首を横に振っている。

「ダストン殿。知識として、お聞きしますが?」

「はい?」

「市民権の取得は、辺境伯領が極めて低いのですか?」

「え?違います」

「ん?低くない?」

「はい。辺境伯領の領都は、帝国の中でも、多い方だと思う」

「・・・。1割で?」

 ダストンとイーリスが頷くのを見て、おっさんは帝国の終わりが近づいて来ているように感じた。

「わかりました。まず、状況から整理しましょう。そのうえで、考えられる施策を話し合いましょう」

 おっさんが、知りえた情報を整理する。情報の整理が終わってから、イーリスとダストンにおっさんが考える未来予想を、いくつかの指摘として伝えた。
 おっさんの話を聞き終えてからイーリスが立ち上がった。辺境伯に手紙を書く為に離席した。イーリスを支えてくれる貴族家への手紙を届けてもらうためだ。辺境伯を経由することで、イーリスが直接出すよりも、届く可能性が上がるためだ。

 おっさんの指摘に、ダストンは顔を青くした。おっさんも、全部が的中するとは思っていない。しかし、半分が的中しただけで、国内が荒れる結果になる。最悪は、国が無くなってしまう。既得権益が無くなる可能性がある。ダストンは、なけなしの義侠心を奮い立たせたが、それ以上に既得権益だと思っている今の生活が無くなることを恐れた。

「まーさん。まーさん。どうしたら・・・」

「国の指示に従っても、指摘の一つでも当たれば、階級が低い・・・。代官から切られるでしょう。身体が首の重さを感じなくなるだけなら、ラッキーだと思えるほどの、苦痛を味わうでしょう。反対に、全部の指摘が当たれば、上から吊られるだけですが、代官が生きていける可能性は低いですね」

「・・・」

「先ほども話しましたが、辺境伯からの指示に従えば、国とは決別する可能性が高くなりますが、それは辺境伯に考えてもらいましょう。代官として、辺境伯に従って、味方を増やせば、味方の数だけ安全な場所に居られます」

「うんうん。それで?」

 ダストンは、自分が安全になるのなら、おっさんの提案を受け入れるつもりになっている。
 それだけ、おっさんの指摘が無慈悲に思えた。最初の予想は、なんとなく想像ができる範疇だが、途中から、そこまで酷い状況になるとはおもえなかった。しかし、イーリスが慌てだしたことや、おっさんからの質問でダストンが自分で答えた内容を照らし合わせたら、最悪な方向に進む以外に考えられなくなっていた。

「まずは、市民権の価格を、今の1/10か1/20にしましょう」

「え?それは・・・」

「ダストン殿だけの判断が難しければ、辺境伯に問い合わせればいい」

「そうだな。うん。そうしよう。それで?」

「ダストン殿が使える・・・。そうだな。手足と呼べる者が必要だ。ダストン殿?ご子息は難しいが、信頼できる者は?腹心と呼べる者は居るのか?」

「え?」

 ダストンの考える表情を見ながら、おっさんは、次の手を考える。
 森の中に逃げ込むのは、既定だが、その為にも、領都や周辺事情を落ち着かせておきたい。

 おっさんの予想では、遠くない未来に、帝国では内乱が発生する。
 貴族同士の戦いなら、鉾の納め時は見つけられるが、市民対貴族の図式になってしまえば、帝国は勝っても負けても失うものが大きすぎる。そうなる前に、辺境伯領として力をつけなければならない。出来れば、市民側に立って戦うほうがよいとまで考えている。

 おっさんが、今後の展開と何ができるのか考えている横で、ダストンは自分には信頼ができる腹心が居ないことに愕然とした表情を浮かべていた。

 ダストンは、おっさんの提案を受け入れた。
 もちろん、指示書に対する対応策を質問状の形で、辺境伯に伺いを立てている。

 返事を待っている間に、腹心候補を考えていた。

(誰か?俺の代わりに、領内を回る者が欲しい。いきなり、腹心は難しいだろう。俺も忙しくなる。副官が欲しい。俺に従ってくれる副官が・・・)

 ダストンは、自分で考えて”腹心を欲している”と思い始めている。
 実際には、おっさんの入れ知恵だ。それだけではなく、おっさんは次の手を打っていた。

「ダストン様」

 辺境伯から、宛がわれている家宰が、ドアをノックしてから執務室に入ってきた。

「なんだ?」

「ダストン様の話を聞いて、訪ねてきた者が、面会を求めております」

「俺を?誰だ?一人か?」

 もちろん、ダストンには辺境伯領以外に知り合いは少ない。
 そもそも、ダストンは辺境伯領から出ることがない。他の貴族領にも、数年前に辺境伯と一緒に行っただけだ。

「お一人です。御仁は、”ロッセル”と名乗っています」

 ダストンは、ロッセルの名前を聞いても、知らない人物だ。
 実際に、今までダストンとロッセルの接点は存在しない。

「身分は?」

 身分を聞くのは、当然の手順だ。
 初めての人物が、一人で面会を申し込むのは、通常では考えられない。

 通常なら、辺境伯領の領都で商売をする者や、辺境伯の領軍の知り合いに、紹介してもらい、代官を訪ねて来る。
 最初は、一緒に来るのが、一般的だ。ロッセルは、そのあたりの手順を飛ばしている。ダストンが、怪しむのは当然の流れだ。

「”元・宮廷魔術師”です。身分証を持ってきています」

 身分証は、ギルドカードだ。
 ロッセルのカードを確認した家宰は、問題がないと判断して、ダストンに繋いだ。

「誰が保証した身分証だ?」

 ”元”がギルドカードに記載されている場合には、身分を保証した者が解るようになっている。
 記載は、隠して見られないようにできるが、身分証として使っている場合や、面会を求める場合には、保証者は表示するのがマナーだ。

「ジュリオ子爵家の現当主様です」

「ん?ジュリオ子爵?」

 家宰から信じられない”家”の名前が出てきた。

 ダストンも、貴族家・・・。辺境伯の領都を預かっている身として、最低限の貴族は覚えている。
 家宰が告げた”ジュリオ子爵”は、もちろん知っていた。

 宰相派閥だ。辺境伯家から距離を置いている家で、それほど目立った功績がある家ではない。長い物に巻かれるような家だと記憶していた。

「はい」

 家宰は、自分がメモした物を見て、ダストンからの確認を認めた。

「わかった。会おう」

 ダストンは、執務室を出て、応接室に向かう。

 おっさんが仕組んだ事だとは知らないで、ロッセルが待っている。応接室に入った。

「貴殿が、ロッセル殿か?」

 ロッセルは、立ち上がって、応接室に入ってきた。ダストンに深々と頭を下げる。

 ダストンは、そのままロッセルの正面まで移動する。
 移動してくる間。ロッセルが頭を上げないので、この場では、ダストンの方が上だと認識していると態度で示した。

 ダストンが、目の前に立ったのを感じてから、ロッセルは姿勢を戻して、挨拶を行う。

「始めまして、ダストン様」

「様は、いらない。貴殿は、宮廷魔術師だと聞いた。私は、代官だ」

 ダストンは、おっさんを倣って、敬称を外させる。
 ロッセルの真意は解らないが、敵対した時の為に、鷹揚な態度で接すことにしている。今までは、身分で上下を決めようとしていたが、上下を決めておっさんに対応した時のようになると問題になる。その為に、常に相手よりも下になるように対応を行おうとしている。

「いえいえ。ダストン様は、辺境伯の腹心という噂です。そんなお方に・・・」

 ダストンは、ロッセルが言った。”辺境伯の腹心”という言葉を聞き逃さない。しかし、ロッセルに意味を問いただせない。確認もできない。もう一度聞き直したい衝動を我慢した。でも、”嬉しい”のは”嬉しい”。辺境伯の”腹心”と思われているのか、噂が流れているのか?それで、風向きは違ってくるが、ダストンは、たった一言で、ロッセルを気に入った。

「腹心などと・・・。”様”は、外していただきたい。ダストン殿。座って、訪問の目的をお聞かせ願えないでしょうか?」

「わかりました。ダストン殿」

 ダストンが座るのを見てから、ロッセルはソファーに座る。深く腰掛けないで、浅く腰掛けて、背筋を伸ばす。面接に来たかのような雰囲気を醸し出す。

 家宰がメイドに目配せをする。待機していたメイドが、ダストンとロッセルの前に飲み物をセットする。時間が昼前なので、食べ物は用意しない。まだ、敵なのか、味方なのか、判断が出来ていない。
 しかし、家宰はダストンの表情や態度から、ロッセルを気に入り始めていると判断した。

 出された飲み物に口を付けてから、ロッセルは口を開いた。

「ダストン殿。私は、貴殿が行おうとした、奴隷条例への対応を知って、感銘を受けました。そこで、手助けができないかと馳せ参じました」

 斜め上から話で、ダストンは思考がストップしてしまった。

「ロッセル殿。まず、”奴隷条例”への対応は、辺境伯領の領都で行おうとした・・・」「解っております」

 ロッセルは、ダストンが説明を始めようとするのを遮った。

 解ったうえで、話を聞いてほしいと言い出した。

 そもそもの発端は、辺境伯に送られた、ダストンの”対応の可否を求める嘆願書”だ。
 辺境伯は、ダストンの嘆願書を”是”として、許可を出す決定をした。しかし、”嘆願書”の内容が、”法”として問題にならないのか、確認を行うことにした。

 この時に、宮廷魔術師を辞めさせられることが決定していた(事にした)ロッセルに、宰相派閥は嫌がらせのように、雑用を行わせていた(ロッセルの視点)。この雑用の中には、宮廷魔術師には不向きな書類の整理が含まれていた。

 ロッセルは偶然に見つめた書類が、ダストンの嘆願書を見て、宮廷魔術師を辞めて、身分証を発行してもらって、辺境伯領にやってきた(ことになっている)。

 と、ダストンに都合がいいように改修された話をした。

 実際には、おっさんと辺境伯がロッセルという手駒を、ダストンに張り付かせて、ダストンの腹心という立場を作って、辺境伯領の他の地域を見回らせると同時に、おっさんとカリンへのサポートを行わせる。
 ダストンを解任させて、代官を置き換える必要がない。ロッセルという首輪があるだけで、手綱が握れるのは大きい。

 おっさんも、情報が得やすくなって、今よりも手厚いサポートが得られる。そして、”何か”ある度に呼び出される現状を帰る必要があった。森に引きこもる前に、ダストンに副官に相当する人物を見繕う必要があった。

 辺境伯も、一度は問題の一歩手前までの事をしでかした、ダストンに首輪をつけることができる。
 ダストンが権力に弱いことから、権力から離れているが、遠すぎない人物を首輪にしたいと考えていた。丁度よい人物として、ロッセルを考えていたが、辺境伯からの命令としてロッセルを送り込めば、首輪にならない。そこに、おっさんから、提案が届いて、吟味して、ロッセルも承諾したことから、ロッセルを送り込むことにした。
 ジュリオ子爵は、”奴隷条例”を受けて、宰相派閥から辺境伯の派閥に鞍替えを考えていた。そのタイミングで、辺境伯から”お願い”をされれば、断ることはない。喜んで、ロッセルの保証を行った。

 おっさんと辺境伯の思惑が合致したロッセルの送り込みだが、ロッセルも辺境伯への脱出を考えていた。
 タイミングが合致しただけではなく、全ての思惑を達成できる一手だ。

 もちろん、ダストンは、暗躍された結果だとは知らない。ロッセルの副官への任命も自分で決めたことだと思い込んでいる。辺境伯には、”ジュリオ子爵”を含めて包み隠さずに報告して、許可を求めた。

 翌日に、辺境伯から”奴隷条例”対応に関して、許可が届いた。同時に、ロッセルの副官にする件の許可が出た。

 おっさんは、代官のダストンを、ロッセルに押し付けることに成功した。
 辺境伯領は、好景気に湧き始めている。

 ロッセルが辺境伯の領都に来てから5年で辺境伯領だけではなく、近隣や派閥の貴族領を取り巻く情勢は大きく動いた。

 まず、ロッセルはおっさんよりも大胆な提案をダストンにおこなった。
 市民権を、現在の30万イエーンから、3万イエーンに値下げした。それだけではなく、3万イエーンが払えない者は、貸し付けを行う。返還は、辺境伯領への奉仕活動で捻出させるという事だ。そして、成人前の子供は(仮)市民権を発行することに決まった。

 (仮)市民権は、無料となり申請後に、犯罪歴がなければ発行される。
 成人後に、正規の市民権を購入することになる。それまでに、市民権を買い取れば(仮)は外される。

 ロッセルは、辺境伯領の領都以外にも赴いて、辺境伯やダストンの名前を使って、少しだけ強引に改革を行った。

 ロッセルとダストンは、集まった市民権を買えなかった市民を使って、辺境伯領の領境に砦と石壁を築く計画を立てた。
 もともと、辺境伯領は、広大な”魔の森”に接している。”魔の森”を挟んで、各国に接している。そして、東西を踏破が不可能だと思われている山脈が存在している。何か所か、通行ができる草原と思われる場所が存在している。

 通行が可能な場所に、砦を構築する予定にしている。他の領と接する場所だが、潜在的な敵だと認識している。
 辺境伯領の市民権を販売する簡易の砦を構築した。そこで、行商人や護衛に情報を渡して、市民権を格安で販売している情報を流してもらう。

 近隣の領は、宰相派閥で固められている。
 市民権は、安い場所でも80万イエーンだ。市民権を持たない者は、辺境伯領に押しかける結果になった。

 対応が難しくなってきたタイミングで、ロッセルは成人後の者にも、(仮)市民権を与えると公布した。(仮)の市民権は、辺境伯領だけでの市民権となり、領境を越える時に、没収されることになった。

 また、領境で奴隷の確認が行われることになり、辺境伯領で奴隷の確保を行うのは、実質的に不可能になった。

 ロッセルの手腕は、それだけに留まらなかった。
 市民権を得る為に流れてきた者たちを使って、公共事業ともいえる作業を行った。それによって、単年で見れば大きな出費になるが、辺境伯はおっさんから受け取っている特許やおっさんが王都で流した物の利益を受け取って、公共事業の資金にした。
 特に、横暴な勇者を抱える家には積極的に嗜好品を流した。イエーンを絞る為に、おっさんから得た物品や知識を使った。
 もちろん、おっさんも許可を出している。おっさんは容赦がなかった。高級品とした蒸留酒などの嗜好品は、数を絞って出荷した。

 宰相派閥の貴族家は、徐々に資金がショートし始めた。
 それだけではなく、奴隷条例が発布されてから、領民の流出が始まった。自然な流れで税収が下がった。下がった税収を確保する為に、無理な取り立てや領民を奴隷として販売するなどの負の連鎖に陥った。

 辺境伯がトップを務める。辺境伯派閥は、強固な団結ではなく、”利”で繋がった関係だった。
 しかし、辺境伯領が率先して実行した施策を真似する事で、辺境伯領ほどではないが、他の貴族家よりは税収のダウンが少なかった。

 辺境伯領から、辺境伯派閥の貴族に低金利での貸付が実行され、辺境伯派閥の貴族は公共事業を行った。
 投入した資金を上回る税収を得た貴族家は、さらに公共事業に投資を行った。

 おっさんの入れ知恵があり、ロッセルがまとめた公共事業の順番を示したマニュアルも渡されたのが大きかった。
 街道の整備。街道が交わる場所を休憩ができる場所に整備して、常備兵の配置。物見櫓を作成して、狼煙による情報伝達。これだけでも、街道の安全は格段に上がる。
 街道の整備が終われば、次は公衆衛生だ。
 下水道が設置できる場所だけではない。その場合には、おっさんとカリンが作った”浄化のスキル”が付与された”道具”を使った。

 おっさんは、”浄化の道具”には仕掛けを施した。辺境伯家や辺境伯家からの紹介で買い付けられた”浄化の道具”だが、転売されたり、盗まれたり、不測の事態が発生すると予測していた。

 ”浄化の道具”には、設置後に動かした場合には機能が失われるギミックを搭載した。おっさんの巧妙な所は、設置前の”浄化の道具”でも正式な手順で設置を行わないと、機能が失われる。いきなり失われるような物ではなく、徐々に効力が落ちていく事だ。その為に、違法な手順で手に入れた者たちは、一度は匂いがしない清潔な環境を経験してしまう。その後、機能がなくなり、元の状態になってしまう。匂いが復活して、また”浄化の道具”を求めるようになる。
 十分に”浄化の道具”の効力が知れ渡った頃に、購入を辺境伯に申し入れて、正式に購入を行えば、機能が十全になると噂を流した。
 おっさんと辺境伯の共闘なのだが、宰相派閥で閑職に追いやられている者や、利益の享受が難しく、奴隷条例で領地が疲弊している者は、宰相派閥を抜けて、辺境伯の派閥に鞍替えする貴族家が増えた。

 おっさんが蒔いた種が芽吹いて、宰相派閥や王家にダメージを与えている。
 奴隷条例の発布がきっかけなのだが、元をたどれば、勇者召喚から始まった混迷が招いた。

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 ロッセルが、代官になった事で、おっさんは、帝国からの脱出計画を実行することにした。

 市民権の値下げが発表されて、貸付での購入が可能になったことも発表された。

「おっちゃん!」

「おっイザークか?皆は元気か?」

「うん。カリン姉ちゃんが助けてくれた」

「それはよかった。それで、頼んでいたことは出来そうか?」

「うん。大丈夫。ばぁちゃんも協力してくれる」

「わかった」

 ロッセルと代官のダストンは、スラムに住んでいた者たちを、犯罪者を除いておっさんに預ける決定をする。
 おっさんは、スラム街の者たちを、領都から連れ出すことにした。もちろん、おっさんの計画を聞いて、賛同をしてくれた者だけだ。

「人数は?」

「1、000人くらい?。ばぁちゃんが、”おっちゃんには、もう少しだけ増えそうだ”と言って欲しいと、言われた」

 1,000人は、村の規模では大きい村だ。
 小さな町だと言ってもいい。スラムだけの人数ではない。ロッセルから護衛として仕える者たちも含まれている。

 おっさんの計画では、領都から5日程度の距離にある”魔の森”の周辺部に接するような形で、村を構築する。他国への国境がある場所からも距離が取れている場所だ。
 この村の代官は、イーリスが就任することが決定している。イーリスが望んだことだ。
 最初は、村として申請をして、第一陣の移住が完了した時点で町に昇格する。当初の計画では、移住者が1,000人を越えたタイミングで、街に昇格する。街に昇格したタイミングで、イーリスに辺境伯が預かっている準男爵位を与えることになっている。イーリスが独立した貴族として、辺境伯領から”魔の森”に繋がる辺境の街と周辺を治めることになる。

 おっさんとカリンも、辺境の村に住むことになる。実際には、”魔の森”の中に居住するが、辺境伯に届けられる市民権は、”辺境の村”の所属になる。

 領都から、”魔の森”に向けての街道の整理が始まると同時に、”辺境の村”の整備が始まる。

 イザークとアキが連れてきた子供たちだけではなく、教会がほぼしていた子供たちも、”辺境の村”に移り住むことになる。
 イーリスが主導して、近隣からも”子供”が集められる。

 子供は、ロッセルが連れてきた護衛から護身術を学ぶことになる。おっさんが、辺境伯に依頼した内容だ。

 村は”魔の森”に隣接する。
 魔物に襲われるリスクが高い。

 リスクの確認を行うために、おっさんはバステトとイザークとアキたちを連れて、”辺境の村”の予定地で、野営を行った。
 1か月以上の野営の結果。脅威ではあるが、対処は可能だと判断をした。

 同時に、カリンと一緒に”結界”の開発を行った。
 村の全域を覆うのは難しいが、”魔の森”に接する部分だけを守るには十分な出力が確保できる。

 また、道具を動かすための動力も”魔の森”から来る魔物を討伐することで得られる事が確認できた。

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「イーリス」

「はい。カリン様。何かありましたか?」

「ちょっとした疑問がある」

「なんでしょうか?」

「なんで”市民権”なの?」

「え?」

「”領”や”街”や”町”や”村”で、”市”はないよね?市民権じゃなくて、”領民権”が妥当じゃないの?」

「あっ・・・。それは、初代様が、”民”を”市民”と呼んでいたからで・・・」

「え?そうなると、帝国なのに、皇帝じゃなくて、国王と呼んだり、皇都ではなく王都と呼んだり、初代の勇者が原因?」

「はい。呼びかたは、初代様がお呼びになった”呼び名”です」

「へぇ・・・」