嫌な顔も、面倒くさそうな声色も見せずに、後ろに立つ私に振り返ってくれた。


「僕達だって、あの画面の向こうの生徒達のような動きは出来ないだろう? 現実の人間の速度の限界だ。ここは現実で、時間を、行動を、システムを、現実の普通に近づけている。普通の基準は人それぞれだが、平均をとっているんだろう。その結果、生徒達は僕が昔学んだように、長い時間の授業を受けることになった」

「その現実は、生徒達にとって良いことなのですか?」

「さあ、どうだろう。学校という場所が好きな生徒は少ない。彼らの場合、時間がゆっくり流れるというのは苦痛に感じるだろう。だが、早く感じるのも辛いものだ。人間歳を重ねたくはないものだからね」


 楽しい時間はゆっくり流れてほしい。辛い時間は早く過ぎ去って欲しい。そんな人間の感情を私は知っている。

 以前、先生が感じていた。


 あの時の私は楽しい時間に寄り添えても、辛い時間に寄り添うには不十分な存在だった。

 今の私は、どちらの時間もより添えられる。


「この世界の生徒は、一定の年齢を迎えれば歳を重ねません。むしろ若返ります」

「そうだ、リピートするんだった。じゃあ利点は……せわしくない、と言っておこう」

「あまり利を感じませんね」

「僕達が気付いていないだけだ。最も、そう思いたいだけでもある。少なくとも僕には利点がある」

「分かりません」

「君が実体化して、生まれた利点だ」