私は、先生の考えていることが分かっていた。

 先生の感情も、私には分かっていた。

 実体化して、先生から自立した私には、新たに蓄積された先生の感情は分からない。


「時間がゆっくり流れてくれれば、ユウと少しでも長く一緒にいられる」

「いつも一緒でした」

「そうだな、一緒だった。あの頃と比べれば、むしろ離れた。気持ち的には今の方が近く感じるんだ」


 ただ、姿が見えるか見えないかの違い。

 目に見える存在というのは、人間にとって大きいもの。先生は、目に見える私の方が良いということだろう。

 理想でなくなっても構わないくらい。それほどの価値が、果たして今の私にあるのだろうか。


「矛盾しています」


 私は、先生を僅かに不快にさせる言葉を投げてみた。


「先生はどうして『先生』と呼んで欲しいのですか?」


 私は、私に「先生」と呼ばせる理由を、先生に聞いてみた。


「『先生』呼びは気持ち的に遠くしてしまうものだと思います」


 先生が小さい頃、私は先生のことを「ソウ君」と呼んでいた。『先生』と呼ぶようになったのは、彼が以前の現実で、教師となってから。

 いくら職業が教師でも、ゲーム中はただの青年。運営者であり、今となっては理事長室から眺める身なのだから、どちらかというと理事長という方がしっくりくる。『先生』と呼ぶことは、現実をプライペートに持ち込んでいるような雰囲気もあり、プラスを感じられない。