少し早足で向かい、ホテルの人に名前を伝え、席まで案内してもらった。

 母の姿が見えたとき、少しの違和感を感じた。


「あっ、来た! 旭ちゃーん!」


 叫んではいけません。騒がしくしてはいけません。

 幸い賑やかなバイキング空間で目立ってはいないものの、周囲の人達はやはり私と母を注目している。

 母を叱りたい衝動に駆られたけれど、あともう少しだけ我慢する。文句は席で、小さな声で、その方が目立たず恥ずかしくない。


 椅子を引いてもらい席につくと、飲み物のメニューを受け取った。軽く目を通して、ノンアルコールのカクテルを頼む。

 周囲に人は沢山いるも、そこから先は母と私のみの空間。夕食にバイキングを選んだことは、ここしか空いていなかった可能性を考えて何も聞かないにしても、大声に関しては一言言いたい。だけどそれ以上に、先程から目に見えている違和感を私は知りたかった。


「――で、誰を私に会わせようとしているの?」


 二人で来たグループが、四人席に案内されることは珍しい。母の荷物もそんなに数は多くなく、荷物置きに納まる程度で椅子を使わなければならないことはない。案内されたとしても、あらかじめテーブルの上、各席の前に並んでいる飾りは下げられるし、その後ナイフやフォーク、お皿が持って来られることはない。

 この四人席のテーブルには、三つの席にナイフレストが置かれている。そして私の向かい、空いている筈の席にはワインが注がれたグラスがそびえ立っている。その椅子を使う誰かがいるという証。


「気付いちゃった?」