「……」


 生徒の安全性を考えて、生徒と教師が一緒に帰っていても説明がつく……かもしれない。

 つかないかもしれない。こちらの方が可能性は高い。この人がニヤニヤとした表情で、私を見つめているから。私が怒りながら断るのを、頬杖をついて待っている。


「もしも見つかれば、デメリットを生じるのは私だけではありませんよ」

「冗談だ」

「知っています。ペナルティーはご遠慮したい身ですので、もう帰りますね。机を元に戻すのは任せました――サヨウナラ、先生」

「はい。サヨウナラ、佐藤さん」


 背を向けて、扉を開け、廊下の外に出るまで、先生の視線を感じた。



 私達は仮面を被っている。

 人は誰しも偽りの姿の仮面を被る。私達は、お互いのことに関する仮面を卒業まで被り続ける。

 誰かに仮面を暴かれないように、カモフラ―ジュのやり取りを交わすことだってある。むしろそれが殆どで、学校内で本当の言葉を交わすことの方が珍しい。


 誰かに聞かれなかったかと、今更ながらに不安に思い、互いの行動が浅はかだったとほんの少し後悔しながら帰路についた。見上げた空は雲一つなく、それでいて星もない。冬の冷たい空気が顔にかかり、外の気温の低さを痛感する。