僕とこいつがもし、いわゆる恋人的な組み合わせだったら、この状況にドギマギする瞬間なのかもしれないけれど、やはりそうはならないのは、世間的に『友達的』存在というヤツだからだろうか。
 ……いやまあ、こいつとは幼馴染なので、僕から言わせてもらえば『友達的』なんて軽い言葉で表したくないのだが。
 夢前は、車輪のキイキイ鳴る音に合わせて何だかリズムを取っては、鼻歌を歌っている。
 今更僕はどうも思わないが、はたから見たら結構うっとうしいかもしれないその行為に、例の女子力どうのこうのの話を思い浮かべてみた。
 減点。
「やー、部分点もないのー」
「マイナスされてる時点でねえよ」
 まあ、はたから見る奴なんていないから知らないけどさ。
「あ、兵悟さん、今日もゲーセン寄ってくの?」
「おお、そうするか」
「分かりやしたー」
 踏切を越えた辺りにある、件のゲーセンが遠目に見えて来たところで、少しスピード緩める。
 最近見つけたクレーンゲーム専門の店で、その類のゲームが好きな僕としてはお気に入りの場所である。
 もちろん、店員も客もいない為、飽きるまで時間を潰せる。
 お金も必要ない。
 この街の施設は、実質僕らの物なのだから。
「クレーンゲーム、夢前もやってみようぜ。意外にハマるかもしれん」
「えー、わたしそういうの苦手だからいいよ」
「なら、一回だけ。一回だけでいいから」
「あらー、言い方に悪意を感じますね」
軽く背中に頭突きされる。運転中だぞおい。
「悪意? 初めて聞く言葉だな」
「あれー常識置いてきちゃったの? 兵悟さんしっかり」
 閑散とした街に自分たちの声が響く。本当に二人だけなんだなと、これまた改めて思う。
 何故、人が居ないのか。
 そんな事すらもあまり気にならなくなった今、孤独だとも思わない。
 ただ僕らしか居ないだけ。それだけの感情。
 そこに疑問すらも、もう沸いてこない。
「着いた」
 甲高いブレーキ音を立てゲーセンに到着する。聞き慣れてきたビッグバンドの曲が少し外に漏れている。
 "スイングしなけりゃ意味が無い"
 変な曲名だ。
「女子的には、ゲーセンデートってどうなの」
「デートねえ」
自転車を停めたと同時、先に夢前が降りて、考え込む素振りをわざとらしくし始める。