まあこれでテストも受けなかったら余計に私は引いたかもな、と思いながら、配られた答案用紙に名前を書き込んだ。

一限目は英語のテストだ。「形式目的語のitは訳すんじゃねェ!!」というノリくんの怒鳴り声が美しく頭に響き渡る。はい、絶対に今日はソレとは訳しません。

各問題でノリくんに叩き込まれた原則を思い出しながら問題を解き、15分くらい経った時だった。



「ペンを降ろしなさい」


シャープペンシルが滑る音だけが聞こえていた教室で、担任ではない女の先生のその声は異質な響き方をする。


「有栖川さん、あなたに言ってるの」

「……えっ」

「立って」


何が起きているのか分からないまま、真剣でにらみつけるようなその先生の視線に押されて私は立ち上がる。教室のみんなが、テスト中だということを忘れて私のほうを見ている。

なぜテスト中に私は立たされているのだろう。

その先生は私の机に寄っていくと、引き出しの裏に手を入れて、何かをはがした。べリっという音がしてはがされたそれは何かがびっしりと書き込まれた紙で、それは確かに私の机の下の引き出しの裏から出てきた。


「カンニングよね、これ」

「……はっ!?」


先生の持っている紙に目を寄せると、そこには英語の範囲に関する本文訳や単語の意味などが書き込まれていた。紙の両端にはセロハンテープが雑に貼ってあって、これが私の机の下にひっついていたのだと理解する。


なんだこれ、理解が追いつかない、セイラちゃんの仕業なの?


やってません、と言う前に教室がざわついた。


「カンニング!?」

「ありえないでしょ!」


それは周りの教室へ同情してしまうほどの煩さであるように私には思える。

全力で否定してやらなきゃ。


「やってません!」

「あなたの机の裏にしっかり貼られてたのに?はみ出してたから、見えたけどね」

「そんなのっ……」

「あなた、不純異性交遊で問題起こした子よね?カンニングが分かったので、テストは全教科0点です。続きは生徒指導室ね」


一息でそう言い切った目の前の女の人の人相は悪く、一気に戦闘意欲が失せていく。私はそうでもなかったけれど今まで出会った人の中に、教師は嫌いだという人は何人もいた。きっとこういう、子どもに無力を感じさせる教師がいるせいだ、と確信する。