「てめえどの面下げて人の邪魔しやがってんだよこのクソブス……って、あなたですか」

「人のこと認識する前にブスって罵る癖やめた方がいいと思うよ!」

「はっ……この間は、失礼いたしました」


あっブス呼ばわりしたことは謝ってくれない!と思いつつやってきた店員さんからおしぼりを受け取る。



「イカスミパスタとヨーグルトラッシーください」

「かしこまりました」

「グロテスクなコンビですね……」


立ち去る店員さんをなぜか同情するようにノリくんが見送っている。そんなノリくんはドリンクバーのみの注文のようで、飲み切られていないアイスコーヒーのグラスの中で氷が小さくなっていた。


「ノリくんはこんなところで何してるの?」

「今は休憩中です。坊ちゃんが帰ったらまた、身の回りのお世話がありますので」

「ああ、霜田先輩ね……っていうか聞くたびに思うけど坊ちゃんっていう歳の差じゃないよね……」


ノリくんは持っていた本を畳んで机の端に置いた。休憩中に本を読むなんて本当に見た目にそぐわないんだから、と思っているとノリくんが悔しそうな声を上げる。


「もう今では送り迎えすら許されない身……っ」

「えっ学校が?そんなことまで禁止するの?」

「いえ、これは坊ちゃんの意向で」


はあなるほど、確かに散々騒動を起こした後でぬけぬけと一緒に登校していたら、とんでもない注目を浴びそうだもんな。


「本当に霜田先輩の言うこと何でも聞くんだね。もう使用人になって長いの?」

「来月で10年になります」

「はっ!?ノリくん28歳なんだよね!?」


高校卒業と同時に霜田家に就職したということだろうか。霜田先輩が有名なベビー用品会社の御曹司であるということはこの間、香住先生から聞いた。条件だけ聞けばつくづく素晴らしい人だ、短足呼ばわりされたからもう好きにはなれないけど。


「はい、本業にしたのは22歳からですが。それまでは大学へ通いながら坊ちゃんの使用人の見習いを」

「見習いとか……あるんだ……?」


世の中には理解できない世界があるんだなあ、と思ってラッシーを飲みながら、私はあることに気づく。


「もしかしてノリくんって、霜田先輩の勉強も教えてる?」

「はい。身の回りの世話兼家庭教師もしています」

「私にも勉強教えて!」

「お断りします」