ひょっとしたら、僕の反応が普通とは違うことを見抜いたのかもしれない。じわりと背中に嫌な汗をかく。
 たいていの生徒は、順位が落ちれば、自分を負かした相手が気になるか、単純にがっかりするのだろう。でも、僕が真っ先に注目したのは渡来ではなく、2位の直人と直人に向けられる周囲の態度だった。 
 自分が得るはずだった快感を直人に奪われて、知らず知らずのうちに不満そうな顔をしていたに違いない。不可解な行動をした僕を、渡来が探るように見ているのが感じられる。
 緊張感で手が汗ばみ、ポーカーフェイスを保つことができなくなった僕は、さっと踵を返して教室に向かった。

 今まで一位を保ち、それだけが生きがいだったガリ勉小島は、小テストでも渡来に勝てないと分かると、徐々に勉強の意欲を失っていった。
 そうなると、ターゲットは渡来一人だけになる。
 注意深く彼を観察した結果、期末テストは帰国したばかりで、どうやら不調だったらしいことが分かった。その後の小テストでは毎回100点を取り、質問にもよどみなく答える彼の優秀さに、僕は久々に挑戦意欲を掻き立てられた。
 
 小島の中途半端な成績では、抜かないようにするため神経を使ったが、渡来は全力で向かっていっても、勝ち負けは五分五分の結果になりそうだ。
 全力投球の結果負けたなら、フェイクじゃない本物の敗北感を味わい、今までにない最大級の恍惚を得られるかもしれない! 僕は想像するだけで興奮した。