蓮くんが文化祭に来ることを知った私はすぐさま、彼に学校の案内をすると伝えた。彼はワークショップを見るだけだからいらないと言ったが、どうにかこうにか言いくるめて案内をすることを認めさせた。

 そして今日にいたるのだ。蓮くんは時間ぴったりに集合場所の玄関に姿を現した。

「ようこそ文化祭へ!」

「本当に、案内してくれるんですね」

「もちろん!さあ、早く!」

 蓮くんと合流できたので、あいさつもほどほどにさっそく会場に連れ出した。

「ここで、ワークショップやってるよ」

 まず、私が蓮くんを連れてきたのは、お目当てのワークショップだった。なんやかんや理由でもつけて他の出し物に連れて行くのも、考えた。しかし、蓮くんのことだから一番最初にワークショップに行きたいだろうし、せっかくのお祭りなのだから、自分がってに連れまわすのは控えようと思った。

「わ、すごいですね」

 ワークショップに踏み入れた瞬間、明らかに蓮くんの声が高くなる。
 入るまでは私の後ろを歩いてきていたが、ここでは蓮くんの後を私がついていく。

「なに?その子が狙ってる子?」

 蓮くんを連れてきた私をレジ番をしている部員が見つけ冷やかしてくる。1カ月近く通っていたので部員ほとんどと仲良くなれたが、これは仲良くなりすぎたのかもしれない。

 私は部員の言葉を蓮くんに聞かれていないかと周りを見る。運よく彼は私たちとは離れたところで商品を見ていた。ここまで、引っ付きすぎていると彼にもそろそろ誤解されていそうだが、蓮くんは手芸以外興味なさそうに見えるので私の考えすぎだろう。

 とにかく彼のいる間は黙っておいてと、部員にくぎを刺して蓮くんのところに戻った。

「何かいいやつあった?」

「どれも良いですが、これは特に良いと思います」

「あー、これね、実は——蓮くんが最初に見た栞をつくった子のなの!」

「やはり、そうですか」

 おどろくかなと思ったが、蓮くんは私の言葉を聞く前からそのことは分かっていたらしい。

「やっぱり、作った人とか見分けれるの?」

「はい、すべて手作りなので、全部に個性が出ますから」

 私に解説している間も、蓮くんは商品から目を離さない。

「じゃあさ、この中で私が作ったのを当ててみてよ!」

「そこの栞ですよね。カラフルな感じの」

 蓮くんは悩むこともなく私の作ったものを言い当てた。

「驚いた顔してますけど、もともと栞をつくるって言ってたじゃないですか」

「た、たしかに。でも、栞は他にもあるよ?」

「それはあなた選択しそうな色に近かったからです」

「ああ、そうかも」
 
 他の栞をつくっている人は、小説との色合いも考えてか、単色の色ではなく、かすかに黒や茶色の混ざった色、悪い表現かもしれないがくすんだ色をチョイスしていた。小説はあまり読まない私は何も考えず好きな色を選んだだけだった。

 私の作ったものを当てたところで、蓮くんに出来栄えの感想をもらうつもりだった。そのつもりで隣にいる蓮くんに顔を向けるが、そこに蓮くんはいなかった。

「蓮くん待ってよー」

 蓮くんはいつの間にかレジの前に立って、お会計をしていた。レジの上にはいくつかの小物が置いてある。

「ありがとうございました、とてもいいものが見れました」

 蓮くんはワークショップを見たらすぐに帰るつもりでいたらしく、足は玄関へ向かった。最初にワークショップを案内したのは蓮くんのためだったが、まだ私への案内料が払われていない。
 それから、無理やり蓮くんを出し物の多く出ている隣の棟に連れてきた。蓮くんも少しは文化祭に興味を持っていてくれたのか、思たよりもスムーズについてきた。

 それから私は蓮くんが帰ると言い出すまでは連れまわすと決めて、学校のあちこちを巡った。

 私が、蓮くんが言い出すのを目安に連れまわしてしまったせいで、気付いた時には一般開放の終了近くだった。
 蓮くんが来たのが午後なので、もともと時間が少なかったとしても、進むのが早すぎる。本当にここまであっという間だった。

「最後にここ入ろうよ!」

 ほとんどの出し物や屋台を回ってしまって、最後に残ったのはいかにも蓮くんが好まなそうなので避けていた出し物だった。
——『占いの館』と書かれた看板が教室の前に貼りだされている。

 人も並んでなかったので何も考えず飛びこんだ。この出し物は1年3組が出しているものらしい。いつか3組に魔女がいるとの話を聞いた記憶があったので、多分それにあやかって計画したのだろう。

「わぁ」

 以外にも、無理やり連れてきた蓮くんは好印象なようだ。確かに、教室の中は薄暗くなっていて、ぽつぽつとランタンが置かれこの中だけ世界が変わったかのような雰囲気だった。この雰囲気も確かに蓮くんなら好みそうだと思った。

「おや、最後のお客さんですか」

 教室の端から誰かの声が聞こえた。部屋が薄暗いため気付かなかったが教室の隅に幕が張られて、一つの小さな部屋ができていた。幕をめくりあげると、一人の女子生徒がいた。
 私につられて蓮くんも入ってくる。

「さあ、何を占いましょうか!」

 きっと台本なんだろう、手を大きく広げて高らかに言ってくる。もっと、じめっとした感じを演出してくるかと思ったが、私はこっちのほうがお祭りっぽくて好きだ。

「えっと、じゃあ友達運ってやつを」

 壁に書かれた案内表から無難なものをクエストする。
 注文を受け取ると、机の下から小さめの桶を取り出した。桶の中には薄く水が張られている。そして彼女は、その上で手をくねくねと動かし始めた。まさに出し物の占いだ、本物の占いが始まったらそれこそ驚いてしまう。

「友達運ですね!うーん、さあ!見えてきますよ!」

 彼女の声に合わせて私たちも桶の中を覗き込む。今のところ、張った水には何も変化は起きていない。しっかり見ようと二人して桶へ顔をさらに近づけた。その時、カシャという音と共に目の前でフラッシュがたかれた。

「はーい、こんな仲のいい二人は最高の友達ですね」

 彼女の見せてくるスマホの画面には肩を引っ付けた私たちの写真があった。

「この写真いるようでしたら、送りますよー」

 あっけにとられたが、どうやら占いは終わったらしい。蓮くんも少し驚いたらしく、ホッと胸を下ろした。せっかくなので写真をもらって、占いの部屋から出た。

「いや、びっくりしたね」と、話し始めると。さっき占いをやってくれた子が教室の扉から顔を出した。

「渡すなら今日がいいですよ!いま最高に良い運してますから!」

 何のことか、全く分からなかったが、それだけ言い残して彼女は中に戻ってしまった。


「今日はこんな時間まで、付き合わせごめんね」
 
 私は蓮くんを送るため玄関にいる。玄関にいる人は自分の靴を取り外に出ていく。ほんとに文化祭も終わってしまうことを身に感じた。

 蓮くんもスリッパから、靴に履き替える。
 今までは女友達とまわっていたが、蓮くんとまわるのも違った面白さがあった。蓮くんも楽しんでいてくれたらいいと思う。それに、文化祭を回っている間何度も蓮くんから声をかけてくれる機会があった。文化祭を楽しむついでに、当初の目標も達成してしまった。
 それもあってか、文化祭がここで終わってしまうと思うと、心が締め付けられる。この時間だけがループしていればなんて、ことを祈った。

「あの、これもしよかったら一緒にどうですか?」

 靴を履き替えたはずの蓮くんが私の目の前に立っている。
 蓮くんから私に見せてきたのはチケットだった。チケットは手芸関連のものなんだろう。小物や、ぬいぐるみのイラストが印刷されている。

「今日、文化祭案内してもらったので。その代わりに、もし、興味があったらですけど」

 さっき占いの子が、言ったのはこのことだったのだろう。私だって知らなかったのにどうしてわかったのだろうか、もしかして、本当に占ったけっかなのか?
 そんなこと、考えるのは後でいい。今は——

「持ちろん、行くよ!」

 蓮くんの事だけ考えて居れば。