会見のあと期末テストでバタバタしていたのが夏休みに入ると、ようやく騒ぎもおさまりつつある。
恒例の祝津での夏合宿も始まった。
「ここだけはいつ来ても変わらないなぁ」
当のあやめは、気持ち良さげに伸びをした。
アイドル部が始まって以来、夏合宿は祝津の宿泊施設を借りて、スケジュールは変わらない。
日和山の灯台も、鰊御殿も、駐車場から眺め渡せる積丹ブルーの石狩湾も、邪魔な喧騒もない木造の家並みもそのままで、
「ここに来られるから、アイドル部やってるようなものかも」
などと、創成川沿いの街なかでマンションやビルに囲まれて育ったひまりなんぞはいう。
合宿中、話題は翠の話でもちきりであった。
「それにしても、枕営業ねぇ…」
ひまりが言った。
「やっぱりオトコって、所詮はオンナの身体目当てだよね」
男兄弟のいるひかるにかかると身も蓋もない。
「でもさ、翠が焦る気持ちも分からなくはないかな」
「イリス先輩、そうなんですか?」
あやめの言葉に英美里が反応した。
「私はほら、たまたまパーカッションって技術を身につけられたからどんなときだって焦らなかったけど、でも一歩間違えていたら、同じようになっていたのかなって」
英美里は言葉に詰まった。
「アイドル部って、大人の嫌な部分も目にしやすい部活動だけど、それでもキラキラしてゆくためには、いろんな努力をしなきゃ駄目なんだと思うし」
バック転すら自主トレで身につけたあやめならではの感懐かも知れなかった。