教師として戻って来るつもりの澪に対し、

「もう譲らなあかんやろ」

 と、澪が教育実習で来ると聞いた最初から清正は、禅譲するつもりでいたようである。

「立場に恋々としとったらあかんねんて…」

 時代は変わる。

 その変わり目は、いつか誰にも分からない。

 ただ分からないのであれば、おのずから動いて分かれ目にしてしまって、変わり目を先に作ってしまえば良いのではないかとすら、清正は見ていたようであった。

「人は立場に就いた瞬間から、引き際を考えておくもの」

 出処進退、おのずから決す──およそアイドル部らしからぬ発想ながら、しかしスクールアイドルという世界に、漢学やスポーツの着想を持ち込んで、誰にも思い付かなかったであろう特色を作り出したのは、紛れもない清正のオリジナリティではなかったかとすら思われるのである。

 彼女たちメンバーの中にある廉潔さや、真摯に向き合う愚直さを、清正は信じていたのかも知れない。

 むしろ信じていたからこそ、隻眼になっても揺らがなかったといえよう。