ニ礼ニ拍手一礼。隣で一緒に参拝する彼女を真似たT氏の所作は、ずいぶんとぎこちないものであった。初詣などもう何年も行ってなかったのだ。
 T氏は(すが)るような思いで「彼女と破局しませんように、とにかくそれだけお願いします。あとは何でもいいです」と祈りを込めた。
 初詣からの帰り道、T氏は意を決して、かねてからの疑問を彼女に尋ねた。
「最近事あるごとに考えるんだけど、君は僕のどういう所が気に入って僕と付き合おうと思ったの?」
 フフっと笑いながら「どうしたのよ、新年早々」と彼女は言った。
「不安なんだ、元来僕は暗いしネガティブだったりで、君と付き合うまでは恋人なんて一度たりともいた試しがない。君みたいな美人がどうして僕なんかの恋人になってくれたのか、いくら考えてもピンとこないんだ。それで昨日、年越しそばを食べながら君からのメールに返信した後、今日の初詣のときに訊こうと決意したんだ」
 T氏はいつになく饒舌であった。
 彼女はT氏が発した「美人」という単語に反応し、少し顔を赤らめ、一瞬沈黙した。ほんの一時の沈黙ですら、T氏を悔恨の念に苛ませるのに充分であった、やはり言わなければよかったと。
 彼女が口を開いた。
「私はあなたをひょうきんで楽しい人だと思っているわよ。初めて会ったときからそうだったじゃない」
「あの時はずいぶんと気を張っていたから」
 T氏は伏目がちに答えた。
「あの日だけじゃないわよ、あなた、私と会うときはいつもひょうきんだったじゃない」
 T氏がポカンとする。彼女は続ける。
「それにね、あなたの妙にひねくれている所だって、私嫌いじゃないわよ」
「嫌いじゃない代わりに、好きでもない」
 T氏は調子を取り戻した。
「ほら、そういう所」
 彼女は微笑んだ。
「そうか、僕はひょうきんで楽しいひねくれ者だったのか」
「そうそう、そういうこと」
 彼女は頷きながら笑った。
 愛おしい彼女の横顔を眺めながら、T氏は彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。しかし、多くの通行人やカラスに見られることを考えると、気恥ずかしくてできなかった。
 せめて手を握りたい。しかし、彼女の手袋が邪魔であった。防寒のための手袋をわざわざ外して「君の冷えた手を暖めてあげるよ」というのはあまりにも野暮ったい。手袋を製造する会社では「ロマンスとは何か」を解さない人間が代々社長になるのだろう。静電気で手袋だけ燃えて消滅してくれないかな、とT氏は思った。
 気づけば駅とは別の方角を歩いていた。
「僕らは今どこに向かっているの?」
「私の家よ、あなたも来るでしょ」
 どうやらT氏は彼女の家に招かれたようだ。

 彼女に続いてT氏も玄関を潜った。玄関から見て右脇にキッチンがあり、左脇に風呂やトイレがあり、それらの間の狭く短い廊下を抜けると、八畳程の部屋があった。いわゆる典型的な、学生が住むような部屋である。ロフト型のベッドや細く切って床に敷いた段ボールの上に白のロードバイクがある他は、特段目を引く物はなく、ずいぶんこざっぱりとした感じである。
「あまり物がないね」
 T氏は言った。
「押入れにいろいろ置いてあるわよ」
 彼女が開けっ放しの押入れを指して言った。
 T氏が覗き込む。上段には服が掛けてある。T氏が初めて彼女に会った時に彼女が着ていた花柄のワンピースもあった。下段には登山用のリュックや自転車の工具など彼女の趣味関係の物の他、衣装ケースや箱ティッシュなどの生活用品があった。
「まぁ適当にくつろいでちょうだい」
 そう言うと彼女はテレビを点け、カーペットに寝転んだ。
 来て早々寝転ぶのも気が引けたので、とりあえずT氏はあぐらをかいた。上から見下ろす彼女の髪もまた綺麗だった。カーペットの上で、窓から射し込む陽に照らされながら優雅にたわむ彼女の髪は、一流の職人が(こしら)えた讃岐うどんのように力強く輝いていた。
 やはりT氏も横になった。頭を彼女と同じ方向に向けたまま、少しずつ彼女に近づいた。気づけばT氏は自らの顔を彼女の後髪に埋めていた。特段彼女は何も言わなかった。彼女が黙っているのをいいことに、T氏はゴキブリホイホイにハマったゴキブリのように、そこを離れようとはしなかった。

 T氏が目を覚ますと、部屋には明かりが灯り、窓には緑のカーテンが掛けられていた。
 キッチンの方から音がした。T氏が部屋の扉を開けると、彼女が何かしらの食材を切り刻んでいた。
「あら、やっと起きたのね。あなたがいつまでも寝てる間にひとっ走りしてきちゃったわ」
 彼女が振り向かずに答えた。
「いつから君は僕のパシリになったのかい」
 T氏はまだ寝ぼけていた。
「何言ってんのよ、ちょっと運動してきたのよ。あなたもさっさとシャワー浴びたら」
 彼女はなおも振り向かない。
「着替えがない。君のパンティとブラジャーを拝借してもいいのかい」
 T氏は相変わらずとぼけている。
「伸びるから勘弁。あなた用にちゃんと用意してあるわよ」
 T氏が脱衣所に入る。下着はおろか、パジャマまであった。「ほら、やっぱりパシリじゃないか」とは言わないでおいた。彼女は今、包丁を持っている。
 服を脱ぎ、それらを洗濯機に放り込もうか否か迷ったあげく放り込んだT氏は、風呂場に入り、今日一日の疲れを流し始めた。寝るのも案外体力が要るものなのである。
 風呂から上がり、彼女が用意した紺色のパジャマにT氏は袖を通した。ジャストサイズであった。
 台所には既に彼女の姿はなかった。彼女は部屋にいた。ちゃぶ台の上に彼女の手料理が並んでいた。ベビーリーフに刻んだハムやクリームチーズがトッピングされたサラダ、(かつお)のたたきやサーモンの刺し身、そして中央にはやはり枝豆があった。
「日本酒もあるわよ」
 彼女は嬉しそうに言った。
「お酒が進みそうなラインナップだね」
 T氏は言った。
「でしょ、それが楽しみで準備したんだから」
 彼女は言った。
「君は普段から家で飲むのかい?」
 Tが尋ねた。
「一人じゃ飲まないわよ、つまんないから」
 彼女は答えた。
「今日は一人じゃないから」
 と言いながら彼女は一升瓶の栓を抜き、二つのグラスに注いだ。
「それでは、新年を祝って、乾杯」
 並々注がれた日本酒に、二人同時に口をつけた。
「美味いね」
「うん、最高ね」
「酒を飲むときのこのズーっと吸い込む音、これこそまさに幸福の音色だね」
「そうね」
 時刻は夕方の六時を既に回っていた。テレビでは相変わらず市長やどこぞの社長やらが「おめでとうございます」の大合唱である。いったい何回言やぁ気が済むんだ、本当におめでたい連中だな、とT氏は思った。
「さて、どれから食べようかな」
「どれでも、あなたの直感で」
「サーモンにかかっている緑色のは何だい」
「オリーブオイルよ」
「どれどれ」
 T氏はサーモンの刺し身に箸を伸ばした。
「うん、美味しい、初めて食べる味だ」
 T氏の声が弾む。
「オリーブオイルと塩。醤油とわさび以外でお刺し身食べるのもいいでしょ」
「うん、酒にも合う」
「和と洋の融合ね」
 彼女は気を良くした。
「今度はあなたが注いでよ」
 彼女が空になったグラスをT氏に向かって差し出した。
「早いな、もう飲んだの?」
 T氏が驚きながら瓶を持ち上げ、栓を抜く。
「早くないわよ、ボサっとしてたら置いてかれるわよ」
 彼女がグラスを差し出す。
「誰にだよ」
 T氏が注ぐ。
「先頭集団に」
 T氏は訳がわからなかった。
「ほらほら、野菜もちゃんと食べるのよ」
 彼女が皿に取り分ける。
 T氏は躊躇《ためら》った。T氏は生野菜にはマヨネーズ派であるが、卵アレルギーの彼女の家にはあるはずもない。これはまずいとT氏は思った。しかし、食べないわけにはいかない。一生懸命作ってくれた彼女の前で、幸福に満ちた表情で料理を頬張る、これこそまさに、今T氏がしなければならない唯一無二の行為なのである。
 よく見ると、サラダの上にもオリーブオイルがかかっていた。T氏は意を決してサラダを箸で、なるべくハムやクリームチーズが多くなるように掴んだ。そして祈りを込めた、オリーブちゃんよ、どうか僕を笑顔にしておくれ。口に運んだ。
 T氏はその味に感動した。感動のあまり声が出なかった、というよりは口いっぱいで声が出せなかったのだが、とにかくT氏は感動した。
 飲み込んでからT氏は言った。
「口の中で、豊かなオリーブ畑が広がった」
「サラダとの相性抜群でしょ」
 彼女は得意げに笑った。
「塩胡椒もいい仕事してるね」
「わかってるじゃないの」
 彼女は満足げだった。
 彼女のグラスが再び空になる。
「ちょっとペースが早くないかい、ビールじゃないんだから」
 T氏が心配すると、彼女は瓶のラベルを指しながら
「ほら、ここに書いてあるじゃないの、『開栓後はお早めにお飲みください』って」
 と勝ち誇ったように答えた。
「いや、多分そういう意味じゃないと思うけど」
 珍しくT氏のほうがまともであった。
 彼女が抜け殻になった枝豆の鞘《さや》をクルクル回す。
「枝豆にはかかってないんだね、オリーブオイル」
 T氏が言った。
「試しにかけてみてもいいわよ」
 彼女がおどけるように言った。
「いや、いい。何だがもったいない気がする」
 やはり今日はまともである。
「それもそうね」
 彼女が言った。
 積み重なった枝豆の殻を見ながらTが言う。
「殻も食べられればいいのにね、仮に一〇〇グラム一〇〇円だとして、その半分は捨てられる殻にお金を払うわけだから、実質五〇グラム一〇〇円だよね、そう考えると何だか」
「わかってないわね、鞘にかぶり付きながら食べるから美味しいんじゃないの、塩が引き立ててくれた鞘の風味を楽しみながら食べるのが。もし豆だけで袋詰めされたものが売ってたとしても、私は絶対に買わないわよ、どんなに安かったとしても」
 言い終えると彼女は枝豆をまた一つ手に取り口に含み、まるごとじっくり堪能した。
「殻も含めてか……」
 そう呟いた後、T氏は卵のことを思い浮かべた。卵を食べるとき、殻を含めて楽しむには……。強いて言うなら、白いご飯に卵を割る際、その割れる音を意識的に聴くことで、今から美味い卵かけご飯を食べるのだというわくわく感を存分に味わう、というようなことだろうか。ただ、今となっては、割ったら鶏になってしまうのだから確かめようがない。
 彼女が日本酒の瓶を掴んだ。まだ飲むのかこの女、とT氏が思っていると、彼女は瓶を持ったままおもむろに立ち上がった。そして瓶を口元まで近づけ、その瓶をマイク代わりにして歌い始めた。
「しあわせのー、おーほしさまがー、あーるひとつぜんきえさったー」
 駄目だこの女、完全に酔ってる、とT氏は思った。
「そうよー、だってわーたーしー、じんこうえーいせい」
 彼女の歌が続く。
「わーたしのー、おとなりさんのー、おとなりさーん、はわーたーしー、みーんななかよくくーらしましょー」
 T氏がやれやれといった感じで手拍子を打つ。
「というか夜中に歌って、お隣さん文句言ってこないかな」
 T氏が心配そうに言った。
「大丈夫よー、空き家だから、隣も下も」
 彼女が陽気に答えた。
「ならいいか」
 T氏は納得した。
 その後、マイクの瓶をワインに持ち替えて、なおも彼女は歌い続けた。一升瓶は少々重かったようだ。
 彼女の歌ういずれの曲もT氏は知らなかった。最近の流行りの曲も少しは聴かなきゃな、とT氏は思った。
 食後の後片付けはT氏がやった。料理を作ってくれたお礼に後片付けくらいは率先してやろうと思ったから、ではなく、彼女が酔い潰れてちゃぶ台に突っ伏して寝てしまったため、T氏がやる以外の選択肢が残されていなかったからである。
 後片付けを終えると、T氏は彼女に声をかけた。
「ほら、こんな所で寝たら風邪引くよ」
 T氏が後ろから肩を揺さぶると、彼女が「んー」と唸りながら半目を開いた。そのまま抱きかかえて彼女を立たせると、ロフトベッドの梯子の前まで移動させた。こんなときでも彼女の髪は綺麗だな、とT氏は思った。
「後ろで支えているから自分で登りな、さすがに上まで持ち上げるのは無理だから」
 彼女はT氏に支えられながら、のろのろ登り始めた。
 彼女をベッドの上に寝かすことに成功したT氏は、特に何も考えることなくそのまま彼女の横に寝そべった。天井を見上げると、木目の中で一組の男女が互いに手を取り合って社交ダンスを踊っていた。テヲ、トーリアッテー……。そうだ、電気を消していなかったと思い立ったT氏は、梯子を降り電気を消すと、暗やみの中再び梯子を登り、彼女にのしかからないように気をつけながら、彼女の横で身体を倒した。

 翌朝、T氏が目覚めたのは八時頃だった。隣では、彼女がスヤスヤと眠っていた。カーテンのほんの僅かな隙間から入り込む光の存在を知らしめるのは、やはり彼女の綺麗な髪であった。
 T氏はトイレに立った。アルコールの利尿作用のせいか、いつもより音が激しい。昨夜飲んだのは日本酒なのに、トイレの溜まり水はビールのように泡立った。T氏はレバーを「大」の向きに回して水を流した。
 失った分の水分をキッチンで補給する。コップいっぱいの水で身体を潤したT氏は、やはり万物の根源は水だなと身にしみて感じた。今のT氏にとって、このことは火を見るよりも明らかであった。
 部屋に戻ったT氏はテレビを点けた。何度かチャンネルをローテーションさせたが、特段T氏の興味を惹くようなものはなかった。
 T氏はロフトベッドの下の空間に置いてあった、開きっ放しの段ボール箱に目を遣った。本や雑誌が無造作に積まれてあった。水泳や登山など、スポーツやアウトドアに関するものがほとんどであった。その他、小型犬の飼い方を指南する本や数冊の小説があった。ファッション誌の類のものは一冊も見当たらなかった。
 さらに物色していくと、一冊、気になるタイトルの本を見つけた。『入門トライアスロン〜あなたもできる! 51.5㎞完走〜』。表紙には、ピチっと全身にまとわりついた黒色の水着のようなものを着た男が、大きく口を開けて息継ぎをしている姿や、自転車に乗った女が飲料の入ったボトルを片手で持ち上げ、大きく口を開けて水分補給する姿、汗だくの男がゴールテープの手前で拳を突き上げ、大きく口を開けて全身で喜びを表現している姿が写し出されていた。
 ページの始めのほうを覗いてみる。「トライアスロンとは、1.5㎞の水泳、40㎞の自転車、10㎞のランニングを一人の競技者が連続して実施する競技である。云々」とある。正気じゃないとT氏は思った。
 他のページも見てみると、ニューモデルの競技用自転車、いわゆるロードバイクの紹介ページや、オススメのトレーニングウェア特集といったページもあった。スポーツ雑誌の中に組まれるこうした特集は、彼女からしてみれば、ある意味一種のファッション誌のような役割を果たしているのかもしれないな、とT氏は思った。
 そして、T氏は予感した。今年僕は間違いなくこれを彼女と一緒にやらされる。今までやらされた水泳練習やサイクリングの意味を、T氏はようやく理解した。サイクリングはT氏のほうから誘ったのだということに関しては、T氏の記憶は曖昧であった。
 彼女が起きたら答え合わせをしてみようとT氏は一瞬考えたが、無断で私物をあさったことがバレると怒られてしまうような気がしたので、やはり止めておこうと思った。
 程なくして、彼女がベッドから降りてきた。彼女がトイレに行き、出てきた後にしっかり水分補給をしたところを見届けたT氏は「じゃあ僕はそろそろ帰るよ」と言い、帰り支度をした。彼女が「うー」と言い了解の意を示すと、T氏は玄関に向かい、靴を履いて外に出た。朝日が眩しかった。

 正月三ヶ日の三日目の昼、T氏は一人キッチンに立った。インスタントラーメンを茹でるお湯を沸かしている間、T氏はまな板の上でしょうがとにんにくをみじん切りにする。生にんにく特有の辛みをこれまた特有の臭みへと変えるべく、徹底的に切り刻む。
 その間にお湯が湧く。お湯の中に乾麺を投入し、時間差で別売の柔らかい麺も投入する。やはりT氏は一玉では足りないのだ。麺がダマにならないように時折箸でほぐしながら、しっかり水分を飛ばす。
 水分が飛び、麺だけの状態になったら丼に移す。ここでようやくスープの粉末を麺の上にかける。水分がないので、麺二玉に対して粉末一袋の割合でちょうどいい。ただ、麺を二玉にすると、食後に胃もたれする確率がグンと上がる上、粉末を半分だけ取っておいて後からチャーハンを作るのに利用するという芸当ができなくなるので、注意が必要である。
 さらに上から酢をかける。そしてついに登場、本日の主役、エクストラバージンオリーブオイル。今朝T氏が、近所のスーパーが新年初開店するや否や店に飛び込んで購入した代物である。これを買うためだけに、T氏は朝からクロスバイクを走らせ、店に向かったのである。
 今までのエクストラバージンごまオイルに代わって、開封したてのオリーブオイルを麺の上にかける。合うに決まっている、とT氏は思った。T氏はオリーブオイルの力を、すっかり信用し切っていた。
 全体を混ぜ合わせ最後に、刻んだしょうがとにんにくをトッピングすると、T氏特製油そばが完成した。
 満を持して、T氏は一口目を啜った。絶妙であった。にんにくの強烈な臭みがしょうがの消臭作用によりほんの少し中和されてほど良い臭みになり、その臭みがジャンキーな粉末スープの香りを引き立て、さらにその香りと豊かで芳醇なオリーブオイルの香りが、T氏の口の中でものの見事に調和した。まるでウィーンフィルの会場に貧乏臭い格好をした聴衆が多数混じっていようとも、奏者たちの圧巻の演奏力で以て会場の空気を調和させているかのようである。いや、ラーメンの類である以上は飽くまでも主役はスープであり、オリーブオイルはその引き立て役であることを考慮すると、奏者と聴衆の属性はむしろ逆か。その点を踏まえ、再度適切に例え直すなら、無名のトリビュートバンドによる類まれな演奏を、耳たぶに宝石を五個くらいぶら下げて耳の穴を広げた貴族たちが注意深く聴きながら、その圧倒的な存在感で以て会場の雰囲気を高貴なものに仕立て上げているかのようである。
 T氏はあっという間に完食した。大満足であった。次は途中で胡椒や七味を振るなど、味変も楽しみながら食べようとT氏は思った。