「二人とも、午後出かけないか?」
「今日は店があるだろ」
「いや、水族館気に入っちゃったみたいで、また行くらしい。ここ最近ずっと店が休みなのは月子さんが水族館に入り浸ってるからだぞ」
 受験生になって、休日が潰れることが多くなった。テストで午前中が潰れる予定の土曜日朝、君はハムとチーズのホットサンドを頬張る。
「買い出し?」
 聞くと、君は首を横に振る。買い出し以外で出かけようと言われたのは初めてだ。休日は大抵、君がいつ呼び出されてもいいようにどこかへ出かけて遊ぶようなことをあまりしない。喫茶同前で課題をしたりテレビを見たり、君のすねこすりとして出会った人々の話を聞いたり、ボードゲームをしてみたり、君を挟んで川の字になり三人で昼寝したりと、穏やかに過ごしている。
「珍しい。いいけど、どうしたの?」
「昨日、ツカサに言われてそういえば友達っぽい事してないなと思って。呼ばれたらすぐに行けるように遠出は出来ないけどな。正太郎はどうする?」
 空になったプレートを洗いながら、彼は君の言葉に「行く」と短く返事した。
「どこに行くかは決めているの?」
「実は何も決めてないんだ」
「どこでもいいよ、君がいればそれで」
「天文博物館とかどうだ?中央の山登ったらあるやつ。プラネタリウムがあるって聞いたことある」
「うん。いいね、行こう」
「決まりだな、いったん帰って昼飯食べてから行くか?それとも、俺が弁当もって高校まで行こうか」
「君が楽な方で」
「うーん…。あ、そうだ」
 君は何か思いついたようにぱっと顔を上げて、いたずらっ子のような笑顔を見せる。私の心臓が跳ねた。
「俺が高校まで行く方で。いいか?」
「う、うん」
 いつの間にかスケッチブックを開いて君を描いている彼は君の思いつきが何か分かったらしく「ああ…」と納得したような声をもらした。そして彼は「行ってくる」と言い残して店から出て行く。君は「行ってらっしゃい」と快活な笑顔でそれを見送った。
 私はそれを横目に皿を洗って、私は鞄を背負っていつものように扉に手をかける。
「また後で」
「テスト頑張ってな」
「ありがとう」
 外は曇りだったが、気分が陰ることはない。やってくる午後を楽しみに、まだ桜がちらほらと残っている町で深呼吸して、私は高校へと自転車を走らせた。

 1

 試験中に誰かの携帯電話が鳴ったり、教師が時間を誤ったりと細々とした支障はあったが、特に何事もなく回答欄を埋めることが出来た。私は終礼と同時に席を立ち、廊下に出る。するとそこに同前が立っていて、ついてこいと言うように歩き始めた。
「何?」
「…」
 無言のまま連れてこられたのは図書室だった。最近来た気がするが、思い出せなくて諦める。彼に続いて図書室に入ると、隅の方に置かれた椅子に座って本を読んでいる生徒がいた。栗色の髪に、幼さが抜けない顔立ちの少年は、どう見ても制服を着た君だった。
「お!お疲れ。見てくれよこれ。同前の制服借りたんだ。似合うか?」
 私と彼に気づいて上機嫌そうに立ち上がり一回転してみせる君を、私は瞬きせず瞳に焼き付ける。
「誰よりも似合うよ」
「ありがとう!へへへ、放課後に友達と寄り道って何だかわくわくしないか?ちょっと夢だったんだよな」
 写真を撮らせて欲しいと頼むと、君は照れながらも了承してくれた。数枚撮って確認しようと写真フォルダを開く。
「俺しかいないな」
 君は私の携帯電話を覗き込む。
「君以外、撮る意味が無いから」
「そうなのか?」
「私の中ではそうだよ」
 図書室を出て、三人並んで校門を出る。もう少し学校にいる君を見ていたかったが、意気揚々と歩みを進める君を引き留めることなど私には出来なかった。
「正太郎、今日は体調大丈夫か?」
「一晩寝たら良くなった」
「良かった」
 私たちは学校近くのスーパーマーケット前のバス停で十数分待ってバスに乗る。席の順は私、君、彼で縦に並んだ。君を真ん中にしなければいけないという決まりを作ったわけではないが、いつも自然とこうなるのだ。「これ俺が押していいか?」と「とまります」と書かれたボタンに指を乗せる君に和みながら、心地よいバスの揺れに身を任せていた。
「お前はバス乗らないよな」
「走った方が速いからなあ。自転車通学だし、正太郎もあんまり乗らないだろ?」
「そうだな」
 山の麓でバスは止まる。天文博物館はこの山の頂上にあるらしい。君が「登るぞ~!」と楽しそうに片手を突き上げた。私は同じポーズをとる。私と君に見つめられて、彼は数秒遅れて片手を空に突き上げた。
 歩き始めて二十分程度経った頃、スニーカーを履いてきたら良かったと速度を緩めながら少し後悔していると、君が私の前に背中を向けてしゃがみ込んだ。
「ローファーだったこと忘れてた、悪い。乗るか?」
 足の皮がズルズルになるのは嫌だから、という免罪符を握りしめて、私はその申し出に首を縦に振る。見た目に反した身体能力を持つ君は、君と同じくらいかそれより上の身長の私を乗せてひょいと立ち上がった。
「あ、正太郎疲れてないか?二人くらいなら余裕だぞ。どっちも米俵みたいな運び方になると思うけど」
「…遠慮しておく。俺は歩ける」
 そんな会話をしながら到着した天文博物館に入ると、受付の老人が私たちに「いらっしゃい」と微笑んだ。入場券を高校生料金で買って、プラネタリウムへと進む。藍色に染められたプラネタリウムの入り口に、本日の上映時間と書かれた紙が貼り付けられていた。
「まだ一時間あるね」
「昼持ってきたからそろそろ食べないか?」
 君から赤い包みを受け取って中身を取り出した。今日は生ハムとレタス、ゆで卵に甘酸っぱいソースがかけられた具材を挟んだ、食べやすいサイズに切られたフランスパンと、デザートの苺だ。三人で飲食可能の休憩スペースでそれを食べる。
「君が作る物はどれも美味しいね」
「ありがとう。ふふん、喫茶同前住み込みアルバイト歴三年は伊達じゃないぞ」
 食べる量があまり変わらない私たちは、三人ほとんど同時に食べ終わって、三人で手を合わせた。
 時計を見ると、まだ数十分の余裕がある。三人で人工衛生の模型や宇宙で活躍する機器のレプリカなどが展示されているスペースへと移動して、各々興味を引かれる物を見た。
 星や宇宙にそれほど関心が無い私は君について行くことにした。君は一通りこの部屋の展示物を見終えて、別の部屋へと移動していく。私はそれを追いかけたが、途中で足が止まった。同前が「星の一生」というパネルを、じっと眺めていた。
 その姿が、何故だか可哀想だと思った。いつもの無口無表情からは考えられないほどの悲哀を、彼は全身に纏っている。話しかけてはいけない気がして、私は足を再び動かしてそっと部屋を後にした。
 プラネタリウムが開始される五分前に集合した私たちは、やはり君を挟んで座席に座る。三人以外には誰も居なかった。独特な落ち着きをもたらす薄暗さに小さなあくびをかみ殺すと、隣から「はふ」と微かなあくびが聞こえた。
「前半は星座の紹介、後半は星の一生についての映像をご覧いただきます」
 アナウンスがそう言ってから自己紹介を終えると、気が遠くなるような年月を重ねた光が作る夜空の物語を語り始めた。
「北斗七星の柄を伸ばして、弓のようなカーブを描きます」
「カーブの中に、一等星が二つあるのが分かりますか」
「上のオレンジ色がアルクトゥルス。下の白色がスピカ」
「その白くまばゆい輝きから、日本では真珠星と呼ばれています」
 星座の話が一通り終わると、星の誕生と死が大きなスクリーンに映し出されて私たちを飲み込む。耳障りにならない程度の音量で壮大に語られるそれらをぼんやりと見ていると、体が宙に浮くような気がした。星だけが美しく見える暗闇に放り出されたみたいだ。
 私の一生が塵にもなれない壮大な世界を短くまとめた映像を私が見ているというのは妙なものだと思う。でもその違和感が、プラネタリウムの醍醐味なのかもしれない。星にあまり関心を寄せたことのない私でも星が好きになれるような空間だ。君のおかげで軽傷で済んだが、足の皮を犠牲にした甲斐が十二分にある場所だ。
 やがてエンドロールが流れて、プラネタリウム全体がオレンジ色の柔らかい光に変化する。
「綺麗だったな!」
 君は先ほどまで見ていた星々に負けないくらいの輝きを瞳に乗せて、スキップするような勢いで扉から出る。
「私もそう思う」
 同前は無言で頷き肯定している。
「…悪い、呼ばれたから行ってくる」
 君は白に包まれながらそう言った。
「プラネタリウム見てる間に呼ばれなくてよかったな」
「そうだけど…、蜂谷、足大丈夫か?二人抱えて下れるぞ?」
 それは、あの内臓がスクランブルエッグになるような空中浮遊のことを言っているのだろうか。
「いや、いい。早く行ってあげて」
 意識して笑顔を作ると、君は首を傾げながらも「分かった。正太郎は?」と聞く。彼もすぐに首を横に振った。彼もスクランブルエッグになったことがあるようだった。
 バス停に着いた頃には、日が傾きかけていた。夕暮れに染まった雲を見て、星の誕生についての映像に出てきた写真たちを思い出す。あの色がついた湯気のように見えるものが私の遙か頭上に浮いている。
「…星の一生のパネル観たか」
「観た」
「どうだった」
「綺麗だと思ったよ」
「…そうか」
 それで会話は終わりだ。
 誕生、あまり好きではない言葉だった。何の書類だったかは忘れたが、誕生日を記入しているところを見られ、今日だったの?おめでとう!と言われたとき、あのクラスメートに悪気はなかったのに酷く渋い顔をして怖がらせてしまったことがある。それくらいには聞きたくない言葉だった。
 しかし今は違う。今までの誕生日が紛い物であると理解したからだ。私の本当の誕生日は、きっと一年前。君に出会ったあの日、私は冷たい海と君の中から、蜂谷静音として生まれたのだ。

 母はかわいいものが好きな人だ。マンションの一室、私の家は、二頭身のパステルカラーのぬいぐるみたちで溢れかえっている。母にとって、私もその一つでしかなかった。
 幼い頃は私もぬいぐるみのように愛されていた。ふわふわとした愛らしい服を着て、母の膝の上で頭を撫でられ喜んでいた。幸せだったと思う、その時は。
 しかし年齢が上がるにつれ母は私に興味を向けなくなった。
 母が私を見なくなったのは、私が小学四年生の頃だった。授業参観の日、母は無邪気な笑顔で雑談を楽しむクラスメートに混じった、表情の作り方を忘れてしまった私を知って、私をかわいいものとして見れなくなったのだろう。母は、赤子のような、幼いかわいいを愛していた。
 それからずっと私は母に見られていない。食費や学校で必要な費用、印鑑や本人のサインが必要な書類があったときや、どうしても欲しいものがあるときは紙に書いてリビングの机に置いておく。するとそれらのためのお金が紙袋に入れられて、私がそうするのと同じようにリビングの机の上に置かれていた。母と私の繋がりはもはやそれだけだった。
 私の世界からは少しずつ色が抜け落ちていった。友人もそれなりにいたが、それを上回ってしまった心のどこかの薄暗さが、視界に写るもの全てを乾かせていった。
 去年の夏。
 私は海のすぐ側にある駅前のベンチに座って、学校も行かずにぼんやりと空を眺めていた。
 死のう、と思ったのだ。
 きっかけは些細なことで、ただリビングで鉢合わせた母に、視線を逸らされた、それだけだった。それだけなのに、私は「ああ、今日死のう」と思った。今まで心に蓄積されてきた黒いものが溢れ出てしまった。
 時々やってくる電車から降りてくる人たちに顔はなかった。人は心の底から興味を失えば、何も見えなくなるらしい。
 動いていないのに汗は勝手に顎から滴り落ちて、地面に小さな模様を作っている。
 気がつけば辺りは薄暗くなっていて、私は立ち上がり、海へと歩き出した。軽い脱水を起こしているのか、体が重くて意識がぼんやりとしていた。
 2年前にこの町で暴れ始めた悪夢たちに食べられるのもいいとは思ったが、すねこすりというよくわからないヒーローに邪魔されるかもしれない。それは嫌だった。
 制服のままで、靴も脱がずに海へとまっすぐ歩いて行く。どんどんと海水に浸かっていって、足を滑らせ、私は仰向けに転倒した。スカートが重くなって、ゆっくりと沈んでいく。私は目を閉じて、母の顔を思い浮かべようとしたが、最後に記憶に残っているのは、今朝一瞬だけ見えたそれで、残念な気持ちになった。
 それももう終わりなのだ。だんだんと苦しくなっていく。意識が朦朧としてきて、我慢できずに手足をばたつかせたが、じんわりと感覚が抜けていった。
 さよなら母さん、水中でそう呟いた時、私の手を強い力が引っ張って、私は海面へと上がっていく。
 かみさまの類いは信じていないが、これはいわゆるお迎えなのだろうかと、そう思って私は全身の力を抜いた。このまま連れて行ってもらおうと思った。その先がどこであろうと。
「なあ、おい、死んでるのか…?」
 降り注いだその声は可哀想なくらいに震えていた。
 砂浜まで引き上げられた私は息を吹き返すように、大きく息を吸い込んだ。海水が体のおかしな所に入り込んで、痛くて仕方がなかった。
「救急車呼ばないと、げっ、充電切れてる。どうしよう、住宅街に電話借りに…。いやでもここに置いていっていいのか?落ち着け、俺しか今ここにいないんだ」
 お迎えではないことにようやく気がついた私は、ついてないな、と目を開く。
 美しい白色があった。
 白い服を着ていたわけではないし、羽が生えているわけでもなかったが、私はその人を白いと思った。
「綺麗」
 微かな声で思わずそう零すと、その人は戸惑ったような顔をしてから、「ありがとう?」と首をかしげた。
「救急車は、いい。誰も呼ばないで」
「ええっ、でも…」
「じゃないと今すぐもう一度海に潜る」
「…分かったよ。で、こんな時間に、海で溺れるなんて一体何してたんだ?」
 それに応えようとして、私は酷く咳き込んだ。涙が滲む。濡れた顔では分からないが。
「海水浴」
「制服のまま?」
「…」
「…立てるか?」
 支えられながら海岸を歩いて、休憩、と堤防に並んで座った。この少年が去った後で、もう一度海底を目指そうとそう心の中で呟いた。こんなに綺麗な人を私は初めて見たのだ。最後の景色として最高ではないか。
「これ、飲んでくれ。さっき買ったばっかりだから、まだ冷たいと思う」
 目の前にペットボトルが差し出される。スポーツ飲料水だ。私は少し迷ってから、受け取った。
「何があったかとか、聞いてもいいか?」
 私の機嫌を伺うような声色で彼は言った。
 最後くらい、何を言っても許されたいと私は母と私の奇妙な距離の話をした。
 一度も口を挟むことなく口べたな私の拙い話を聞いていた少年は、私の話が終わった後、少しの間海の向こうを見て、それから私に向き直った。
「母さんにどうしてほしかったんだ?」
 聞かれて、私は考えた。頭に浮かぶのは母に抱きかかえられて頭を撫でられるウサギのぬいぐるみ。
「撫でてほしかったのかもしれない」
 あの愛しさを乗せた視線が私に向いていたらどうだろう、と思う。きっと擽ったくて、幸せな気分になるんじゃないか。幸せがどういう感情なのか私にはよく分からないけれど、きっとそうに違いない。
「こんな感じか」
 ぽす、と間抜けな音を立てて、私の頭の上に暖かい塊が置かれた。それが手だと理解するのに、五秒はかかってしまった。
 全身に電流が走ったようだった。
 隣の少年、君が、かみさまに見えた。
 自分の小さな世界の中心が、母から君へと塗り替えられていく。
 固まった私を見て、君は慌てて手を離そうとする。私はそれを捕まえて、もう一度私の頭に乗せた。
「このまま」
「気持ち悪くないか?」
 頷くと、君は慎重な面持ちで手の動きを再開した。
 私の気が済んだのはそれから随分後で、辺りは夜の闇に沈んでいた。海水に濡れた体が冷たかったが、そんなことはどうでも良かった。
「君の名前を教えて欲しい」
「名前?猫又創助。動物の猫に、又聞きの又。創るの創に、助けるの助」
 猫又創助、猫又創助、と何度も君の名前を口の中で転がして、飲み込んだ。
「名前、俺も聞いて良いか?」
「蜂谷静音。猫又くん、私の生きる意味になってほしい。君を中心にした世界なら、きっと私は大丈夫だから」
 私は立ち上がって、海のない方へ堤防から飛び降りる。そして君の手を取って、祈るように握った。
「よく分からないけど、分かった。それで蜂谷が救われるなら」
 君は手を握り返して、きっぱりと言い放った。その潔さに面食らって、途端に君のそのまっすぐさが心配になった。
「自分で言っといてなんだけど、安請け合い過ぎないかな。私の話したこと全部嘘だったらどうするの」
「嘘なのか?」
「嘘じゃないけど」
「じゃあ何も問題ない。それに、万一嘘でも、海に制服のまま沈むくらいの事情があったんだろ?」
「まあ、そうだね」
 堤防から降りてふらつく私を支える君の体に、沢山の傷があることに気がついて、私はそれを指差す。
「私より、君は自分の心配した方がいいんじゃないの」
「ああ、これは一晩寝たら治るんだ」
「さすがに無理だと思うけど」
「俺も不思議で仕方ないよ」
 その時、町から獣のような声が響いた。悪夢だ。あまり部屋の外に出ない私はその姿を見たことはないが、大半が凶悪な見た目をしていて、行動もその見た目に見合ったものだと聞いたことがある。逃げなければ、せっかく君に会えたのに、もう終わりなんて早すぎる。
「うわあ、まだ寝るにはまだ早くないか?昼寝か居眠りかな…。ちょっと待っててくれ」
 どういうこと、と聞こうとして、私は絶句した。君が隣にいなかった。代わりに、すねこすり、いやすねこすりさんがいた。悪魔と同様その姿を見たことはなかったが、私は君がすねこすりさんであると理解した。
「あっ、すねこすりは正体不明だから俺のこと内緒な!」
 君はそう言って、悪夢の声の方へと走って行った。
 これが、君と私が出会った日のことだ。その後君に喫茶同前へと案内され、同前には邪険にされつつも月子さんに迎え入れられて、今のこの関係になっている。幸せだ、君と出会ったあの日からずっと、世界が白く光っている。このまま、一生いられたら、どんなにいいだろう。
 喫茶同前で課題を済ませながら君を待ったが、その日、君は帰ってこなかった。君は人助けに奔走して帰りが遅い日が時々ある。だから私は特に気にせず家に帰った。呑気に明日はどんな話をしようかと考えながら。
 夜空に響いたはずのその絶叫は、私の耳には届かなかった。