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『来週の水曜日、夕方空いてる? 付き合って欲しいところがあるんだけど』
 何気なく手にとった携帯のメールの宛先を二度見して、慌てて開く。文面を何度も読み返して、思わず顔がにやけた。うわ、向こうから連絡があったのって初めてかも。というか、これってもしかして、デートのお誘い? いや、そんな深い意味はなくて、期待したら実は仕事だったりとか……。
「挙動不審。なに一人で百面相してんのよ」
 向こうで数人の男子に囲まれていたはずの愛香が、ビールを片手に戻ってきた。
「あんた全然飲んでないじゃない。すみませーん、ビールもう一杯追加!」
「私ビール苦手……」
「文句言わずに飲め。ていうか、その程度で喜ぶなっての」
 携帯を覗き込んだ愛香がつまらなさそうに言う。
「その程度、って、だって、二人で出かけるのとか初めてだし……はっ、もしかして他にもたくさんいるのかな」
「いや、それはないでしょ」
「でも、向こうから誘ってもらえるなんて夢みたいな話、ありえないというか、浮かれてたらしっぺ返しをくらうかもしれないというか」
「あんたどんだけ後ろ向きなのよ……」
 そこに、さっきまで愛香と話していた男の子のうちの一人がやってきて、テーブルを挟んで向かいに座った。
「なになに、道端さんの彼氏の話?」
 今日はサークルの飲み会だ。よくあるイベントサークルで、愛香に誘われて入ったものの、みんなでワイワイするのが基本的に苦手だと気付いた私は、普段ほとんど活動には参加していない。それでも夏休みに開かれるこの飲み会は、他のサークルも参加する大きなイベントで、ダイニングバーのワンフロアを貸し切って、パーティみたいになっていた。愛香に引きずられて強制参加させられていた私は、大いに楽しんでいる愛香を横目に、隅で無難に飲んでいたのだけれど。
「違う違う、彼氏とかいないから、私」
 なにを恐れ多いことを、と慌てて否定する。
「ふーん。二年になってからなんかキレイになったから、彼氏でもできたんかなあって思ってた」
「いやいや、そんなことないから……」
「絶賛片想い中よ」
「愛香っ」
 横から口を出す愛香が素知らぬ顔で置いてあるナッツをつまんでいる。相当飲んでるはずなのに顔色が全然変わらないのが小憎らしい。
「好きな奴はいるんだ。俺の知ってる奴?」