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 流し続けた涙がようやく止まった後、子供が産まれる前に写真を撮って欲しい、と理恵が言い出した。
「撮ってよ。予定日までまだ二週間あるし、ちょっとくらい時間あるでしょ?」
 正直何を言い出すのかと思った。目の前にカメラマンの旦那がいるのに。
「沢木さんに撮ってもらえばいいだろ」
「嫌よ、恥ずかしいじゃない」
 旦那に撮られるのは恥ずかしいのに、俺に撮られるのは恥ずかしくないのだろうか。こいつの感覚はよくわからない。
「優衣のこと、撮ってあげたの?」
「妊娠してからは撮ってない」
「じゃあ、その代わりよ」
 いいわよね、と理恵が隣の沢木さんを窺うと、好きにしろ、と苦笑いで返している。
「なんなら遼一さんも映る?」
「それだけは勘弁してくれ」
 本気で嫌そうに顔をしかめている。写真を仕事にする人間が、他の同業者、しかもよく知っている人間に撮影されるなんて、拷問以外の何者でもない。
 強引に約束を取り付けられて、一週間後に俺が撮ることになった。当然沢木さんのスタジオで撮るのかと思っていたら、また理恵が突拍子もないことを言い出した。
「ねえ、優衣との思い出の場所とかないの?」
「思い出の場所?」
「そう。よく行った場所とか、写真撮った場所とか」
 思い出の場所、と言われて、真っ先に思い出すのは、初めて話をしたあの川沿いだった。「お前んちの近くの川沿い」
「じゃあそこで撮りましょ」
「はあ?」
 なんで俺と優衣の思い出の場所で、理恵の写真を撮らなければいけないのか。
 不満顔の俺に、理恵がムッとした顔を返した。
「なによ、別にいいじゃない。優衣が見に来てくれるかもしれないし」
 強気な言葉の後で、小さく付け足した言葉が、なんだか胸に突き刺さる。理恵と優衣はすごく仲のいい姉妹だったし、思うところもあるのかもしれない。
「わかったよ」
 あまり気は乗らなかったけど、理恵の頼みなら聞くしかない。いかにも渋々、といった俺の返事に、理恵ではなく沢木さんが、頼んだ、と笑いながら言った。