肝心のモデルがふくれっ面で、撮影なんてできるはずがない。少し休憩入れていいですか、と担当に断りを入れると、よくわからないなりに何かを察したのか、どうぞどうぞと勧めてくれた。
 興味津々な吉川を一睨みして黙らせて、リサちゃんを小さな給湯室まで引っ張ってくる。ここなら用がない限り、誰も通りかからない。
 ついでにそこに置いてあったティーバッグに適当にお湯を入れて渡すと、いつの間にか萎れた様子のリサちゃんが、ごめんなさい、と小さく言った。
「本当は、お仕事中はちゃんとしようって思ったんだけど。ガクさんがあんまりいつも通りだから、なんかムカッとしちゃって」
 渡したカップに口を付けることもなく、両手で持って暖を取っている。
「ヒナちゃん、この前会ったけど、無理して明るくしようとしてるのバレバレだった。私が口出すことじゃないかもしれないけど、うまくいってないの?」
「日南子ちゃんは、何か言ってた?」
「なんにも。愛香ちゃんも、何も言ってくれないって心配してた。去年の年末に、ガクさんが手を出してこないって悩んでたから、それが原因かなって勝手に思ったんだけど」
 そんな話、してたのか。あまりその手の話を好みそうなタイプじゃなかったので、ちょっと意外に思うと、リサちゃんが慌てて否定する。
「別にヒナちゃんから言い出したわけじゃないよ? 酔っ払ってリサが無理やり聞き出したんだけど」
 何かの打ち上げで一緒に飲んだことがあるけど、リサちゃんは酔うとやたらめったらハイテンションになる。あのテンションで絡まれたら、日南子ちゃんには太刀打ちできなかっただろう。
「ヒナちゃんのこと、大事なのはよくわかるけど。好きな人に欲情されない、っていうのは、女として傷つく」
「欲情しない、ってわけじゃないんだけど」
「じゃあなんでエッチしないの?」
 リサちゃんの質問は直球だ。回りくどくなくていいけど、女の子なんだからもうちょっとぼかしてもいいと思う。
 ……なんで、か。
「俺もよくわかんない」
 どこか投げやりな響きが含まれて、リサちゃんに軽く睨まれた。
「多分、昔のことを引きずってるんだと思う」
「昔のこと?」
「そう。自分じゃちゃんと吹っ切ったつもりでいたんだけど。いざそういう雰囲気になると、途端に思い出して、先に進めなくなる」
「昔の彼女のことを、ってこと?」
「うん」