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『もう一度ちゃんと話がしたいので、次の金曜日の夜にお時間いただけませんか?』
日南子ちゃんからではないのはわかっていたのに、その文面を見て、一瞬どきりとする。
美咲ちゃんからのメールだった。八月の出来事があって以来、初めての連絡で、俺もきちんとこれまでのことを謝りたいと思っていたので、了解の返事を送る。
あの日から、日南子ちゃんのことは考えないようにしていた。でも、考えまい、考えまいと思えば思うほど、最後の情景が強く浮かんでくる。
不思議なことに、優衣のことはほとんど思い浮かばなかった。ただ、日南子ちゃんのあの泣き出しそうな顔だけが、ひたすら頭の中を回っていた。
あの後、彼女は泣いたんだろうか。
勝手な想像だけど、何故か泣いていないような気がした。そうだといいな、というただの願望かもしれないけど。
彼女に謝りたいと思うけど、どう謝ればいいのかわからない。そもそも自分は彼女のことをどう思っているのか、それさえ曖昧になってきた。好きだと言った、あの時は本気でそう思ったのに、今はその気持ちにすら自信がない。
何度も電話をかけようとして、発信できないまま表示を消す。それをずっと繰り返していた。
彼女の写真に向かい合うのは苦痛を伴う作業で、結局、最低限の処理をしただけで、ほとんど手を加えないまま鈴木さんに渡してしまった。写り込む彼女の想いと、自分の感情を直視できなかった。