◆
「天が味方してくれましたね」
カメラを片付けている俺の隣にやってきて、鈴木さんがそう言って笑う。
「本当に助かりました。天だけじゃなくて、みんなのおかげです」
特に吉川には感謝していた。彼女のあの笑顔を引き出せたのは完全にあいつのおかげで、本人になんの自覚もないことがおかしかった。そして、ようちゃんと鈴木さんが、場を和ませてくれたおかげ。
吉川は、先に片付けてあった機材を車に運んでいる。日南子ちゃんとようちゃんは、スマホを握りしめてきゃあきゃあ言いながら写真を取り合っていた。こんなにきれいに太陽が差し込むのは珍しいから、はしゃぎたくなる気持ちもわかる。
「ヘアメイクもアシスタントも、あなたに人選を任せて正解でしたね。羽田さんもよく彼女のことを理解していましたし」
休憩を入れる前のあの悲壮な空気を、完全に入れ替えてくれた。あの場をようちゃんに任せて正解だったと思う。
彼女の緊張をほどくつもりで話していたのに、何があんなに日南子ちゃんを追い詰めた空気にしてしまったのだろう。あんな辛そうな顔をさせるつもりは全くなくて、あの時は本気で焦った。
「運が良かったんです。羽田さんは彼女のために、と思ってお願いしましたけど、吉川はたまたまだったし」
「そういう運の良さも、実力ですよ」
まさかあんなにきれいに光が差し込んでくるとは思わなかった。しかも、彼女が一番リラックスしていた、あの状況で。
彼女自身がなにか柔らかい光を発しているような、そんな錯覚に囚われた。マリア像と同じような笑みを浮かべて、光に包まれる姿。
静謐で神聖。そして、何よりも暖かい。
「嶋中さんも、きっと納得するでしょう」
自信満々に言い切る鈴木さんに、苦笑いを向ける。
「それは、写真を見てから判断してください」
「見なくてもわかりますが。楽しみに待っています」
そう言って、はしゃぐ二人のもとへ歩いて行った。
日南子ちゃんたちが先に帰るのを見送った後、俺と吉川は少し残って機材を撤収する。といっても途中であらかた片付けてあったので、作業はあっという間に終了した。
教会を出る前に、最後にもう一度、マリア像の前に立った。
自分の心に残る、たくさんの後悔。吐き出したとしたら、このマリアは全て許してくれるだろうか。
それでも辛さはきっと無くならずに残るんだろう。例え誰かに許してもらっても、自分のなかで整理がつかない限り、その罪は消えない。
日南子ちゃんは、あの時、何を懺悔したんだろう。
深く考え込む前に、しびれを切らした吉川が俺を呼ぶ声が聞こえて、考えるのをやめた。