◇
撮影の日は、朝から曇り空だった。
気にして見ていた天気予報では、一昨日まで晴れの予報だったのに、昨日から曇りに変わって、今朝は半分傘マークになっていた。どんよりした雲に覆われて、今にも降り出しそうな空模様。
移動に時間がかかるということで、朝早く制作会社のオフィスに集合した。私は鈴木さんの運転する車で容子さんと移動。桐原さんはアシスタントの吉川さんと同じ車で向かうらしい。
始めて顔を合わせた吉川さんは、明るくてよく喋る人だった。桐原さんのことを慕っているのがよくわかる、場を和ませてくれる人だった。
桐原さんは鈴木さんと難しい顔をして話し込んでいる。やっぱり天気が悪いのが気になっているらしい。なんとなくその横顔を見ていると、視線に気付いたのか私の方を向いて、近づいてきた。
「おはよう。昨日はちゃんと眠れた?」
「はい、いつもより早く寝ました」
「多分、体力的に一番キツイの日南子ちゃんだから。ロケ場所、すっごく寒いんだ。俺たちは着込めるけど、日南子ちゃんだけはそうはいかないし」
容子さんが今日の衣装に選んだのは、クラシックな白のドレス。飾りは裾に刺繍が施されただけのシンプルな形のもので、首もとまで詰まったデザインだったけど、肩はバッチリ出ている。
「なるべく早く撮り終わるつもりだけど。しんどくなったらすぐ言ってね?」
「はい。でも、私、寒いの得意だから大丈夫ですよ」
そう言って笑ってみせると、逆に不安げな顔をされた。
「そう言って無理しそうだから嫌なんだ。絶対我慢しないこと。わかった?」
じっと顔を覗き込まれて、無言でこくん、と頷くと、安心したように笑って頭にぽん、と手を置いた。
「じゃあ、そろそろ出発しましょうか」
鈴木さんの一言を合図に、それぞれ車に乗り込む。
片道二時間の長距離移動。着く前に降り出したりしなければいいけど。