素っ気ない俺の答えに、リサちゃんの声が少しイライラした口調に変わっていく。
『なんでつなぎとめておかないの? ヒナちゃんのこと好きなら、好きって一言言えばいいだけじゃん』
「つなぎとめる、とかできないし。あの子がしたいようにすればいいだけで」
『あーもう、強がっちゃって! 大人のフリして、一人になって泣いても知らないんだから!』
 ガクさんのバカ、と言い捨ててリサちゃんが電話を切る。あまりに大きい声だったから、電話に当てていたほうの耳がキーンと鳴った。受話器を放して顔をしかめる俺に、ソファに座ってこっちの様子を伺っていた理恵が言う。
「私もリサちゃんの意見に賛成よ。そばにいて欲しい、って一言言ってあげればいいじゃない」
 聞かれても問題ないだろう、とその場で電話に出てしまったのが裏目に出た。リサちゃんの大きい声は、近くにいれば丸聞こえだったのだろう。
「昔からの親友に会わせるなんてことまでしておいて、まだ及び腰になってるの?」
 柴田の店に連れて行った、というのは話の流れで言ってあった。その時は意外そうな顔をしただけで、特に深くは突っ込んでこなかったのに。
「優衣の話、聞かせてあげたら? あの子なら、ちゃんと受け止めてくれるわ」
「もう話したよ」
 え、と理恵が驚きの声をあげる。
「話したの? いつの間に?」
「一ヶ月くらい前」
 きちんと彼女に向き合おう、と、そう決意してから一ヶ月も経つのに、未だに俺の態度は変わっていない。我ながら自分の愚図さに呆れる。
「それなのに付き合ってるわけではないのね?」
「答えを出せるまで、待って、って言ってある」
 どっちつかずのグレーゾーンに、あの子を縛り付けてあるわけだ。
 はっきりしない俺に、理恵も呆れたようにため息をつく。
「何がそこまであなたを頑なにさせてるのかしらね」
 何度か彼女の声が聞きたくて、電話をしようと思ったことがある。でも、その度にためらった。恋愛を覚えたての子供みたいに、どうしようもなく不安になった。いつか自分の前からいなくなるんじゃないか……手に入れる前から、失うことを怖れて。
「まあ、昔に比べれば一歩前進よね。一人になって泣く前に、早く素直になりなさい」
 駄々をこねる子供に言い聞かせるみたいな、諭すような口調で理恵が言う。
「後悔しないように。潤平くん、きっと手ごわいわよ?」