「なんかイラっとした顔してるわよ?」
 男子学生を三人引き連れて戻ってきた理恵が、気遣うように俺を見た。
 今日はパトリの新しい読者モデルのカメラテストに呼ばれていた。春・秋と就活や卒業で稼働できる学生が減るので、いつもこの時期に新しいモデルを募集している。一応、カメラテストなんてものも行うのだけど、書類選考の時点で採用はあらかた決まっているので、ちょっと撮影に慣れといてもらおうか、という程度のものだ。
 イライラを引っ込めて、仕事用の顔で彼らに向き合う。自薦だか他薦だか知らないけど、モデルに応募してきただけあって、整った顔をした奴らばっかりだ。
 その中で一人、異常に強い視線を向けてくる奴がいた。三人の中でも際立って綺麗な顔をしていて、女装でもさせたら似合いそうな顔立ちだ。
 目が合ったのでなんとなく口元だけで笑ってみせると、そいつもアイドル顔負けの笑顔を返してくる。……なんなんだ?
「じゃあ、一人ずつカメラの前に立ってもらおうかな」
 よくわからないそいつは無視して、一番手前に立っていた子から撮影を開始する。白の背景にライティングもちゃんとして、カメラテストといえど真剣に撮っていく。その写真は後ほど、彼らの紹介写真に使われるらしい。
 撮影中もずっとその男から強い視線が感じられて、気になって仕方がなかった。全く見覚えはなかったので、初対面のはずなのに、その視線の中にそこはかとなく敵意を感じる。
 なんとなく後回しになったその男の、応募書類に目がいった。松田潤平、K大文学部二年……。K大?
「よろしくお願いします。カメラマンの桐原サン?」
 挑戦的な笑顔を浮かべて、そいつがカメラの前に立った。
「よろしく」
 多少なりともみんな最初は緊張するのに、そいつは全くそんな素振りを見せない。
「あなたの話、たまに聞くんですよ。松田愛香、ってわかります?」
 撮影の最中も、笑顔を浮かべながら話しかけてくる。松田愛香? 聞いたことあるような、ないような。
「じゃあ、道端日南子」
 一瞬止まった俺の手を見て、面白そうに顔を歪める。
「……友達?」
 思い出した。松田愛香って、あのファミレスの子だ。二人ともK大の文学部だったはず。
 気にしないフリを装いつつ、撮影を続ける。
「愛香とはそこそこ仲いいです。ヒナとは最近よく話すかな」
 呼び捨てにムカっとした。態度に出さないように努めて平坦な声を出す。
「そう」
「前からヒナと話してみたかったんだけど、愛香のガードが固くって。ちょっと強引に行こうかな、って最近思い直したんですけど」
 黙々と撮ることに集中する。理恵が会話の内容に気付いて、様子を伺っているのがわかった。
「最近すげえ可愛くなりましたよね、あいつ」
 だから、といきなり真顔になった。
「俺、本気で落としに行こうかな、と思って。いいですよね?」
 そいつはまたにこっと笑った。
「なんでそんなこと俺に聞く?」
 カメラをおろして直接視線をぶつけてやると、怯むどころか真っ直ぐ見返してきた。
「一応、了承を得といた方がいいかな、と思って。なんていうんですか、宣戦布告?」
 しばらく睨み合っている俺たちを、なんの事情も知らない他の子達が怪訝そうに見ている。……子供相手に、何ムキになってるんだ、俺は。
「好きにしたら?」
 先に視線を逸らした俺に、勝ち誇った笑みを浮かべてそいつが言った。
「どうもありがとうございます」
 そんな俺たちを、理恵が心配そうに見比べていた。

 ◇

「隣、いい?」
 声をかけられて、手元の課題に向けていた顔を上げると、にこにこ笑った潤平くんが荷物を机に下ろしていた。
「おはよ。それ、全部読んできた?」
「量が多すぎて、きちんとは読めなかったけど、大体は」
「すっげー、さすがヒナ。俺途中でめんどくさくなって寝ちゃったよ」
 笑いながら自分の分のレジュメの束を取り出している。
 潤平くんが言った通り、かなりの授業を一緒にとっていることが判明して、新学期が始まってから声をかけてくることが多くなった。愛香がとっていない講義の時は、こうやって隣同士で座ることもよくある。下の名前で呼んで、と会うたびに言われるので、だんだん面倒になって、潤平くん、と呼ぶようになった。
「そういえばさ、俺ヒナの片思いの相手に会ったよ」
「えっ?」
 いきなりそんな話題を出されて、驚いて彼を見つめる。
「パトリの読モ、新しく募集してたから応募したら受かっちゃってさ。カメラテストに来たのが桐原って人だった。これから一緒に撮影とかあるかもだから、よろしくね」
「よろしく、だけど、なんで? モデルとかやりたかったの?」
「ちょっと興味はあるくらいで、自分で応募するほどじゃなかったんだけど。ヒナと一緒なら楽しそうだな、と思ってさ」
 こういうことを、本気なのかそうなのかよくわからない口調で言うから、私はいつも戸惑ってしまう。彼氏候補にして、なんて言ったくせに、それ以降好きだとか付き合ってとかいう言葉は一度も口にしないし、かと思えば遠まわしに口説くような甘い言葉をかけてきたりして、いつも一方的にドギマギさせられてしまう。
「桐原さんと、何か話した?」
 余計なことを言ったりはしていないだろうか。
「普通に世間話くらいはしたけど」
 さすがにいきなり私の話はしないか。これから撮影が一緒になることもあるんだし、初対面で気まずい雰囲気にするほど潤平くんもバカじゃないだろう。
 ほっとした私の表情を見て、潤平くんがニッと笑う。
「ヒナのこと本気で口説いていいか、確認は取った」
「はああっ?」
 バカだった。もっと大人な人だと思ってたのに。
「なにワケわかんないこと聞いてるの?」
「だってさ、せっかくライバルに会えたんだし。宣戦布告しとこうと思ってさ」
「ライバルって……っ」
 別に桐原さんは私のことが好きなわけじゃない。私が一方的に好きで、だから潤平くんが私を好きって言っていても桐原さんはライバルになんかならないはず。そんなの勝手に因縁つけてるだけで、桐原さんだって迷惑に思うに決まってる。
 落ち着くためにひと呼吸置いて、意識して冷静な声で尋ねる。
「あのね。一回ちゃんと聞いておこうと思ってたんだけど、潤平くんって、本気で私のことが好きなの?」
「うん」
 ケロッと頷くその態度が、全然本気に見えないんだってば。
「じゃあ、私は違う人が好きなので、諦めてください」
「やだ」
 わがままな子供みたいな口調の潤平くんに、私の口調がだんだん尖ったものになる。
「付き合ったりとかできないよ? 彼女になんかならないからね?」
 はっきりお断りしているはずなのに、潤平くんはどこ吹く風で、逆に私を諭すように言う。
「別に今すぐ付き合って欲しいとかじゃないよ。ヒナがあのカメラマンのこと嫌になって、俺のことが好きになるまで、話しやすい男友達のままで構わない」
「そんなの、待たれたって迷惑なんだけどっ」
「じゃあ、ヒナはどうなんだよ?」
「え?」
「あの人、別にヒナのこと好きってわけじゃないみたいだし? ヒナが一方的に好きで、つきまとってるだけなら、俺と変わんないじゃん」
 何も言い返せなくて、唇を噛む。確かに、潤平くんの言う通りだ。
「俺がヒナのこと本気で落とす、って言った時さ。あの人、平気そうな顔で、好きにすれば、って言ったよ?」
 ーー好きにすれば。
 わかってる、私が誰と付き合おうと、桐原さんには関係ない。それでもちょっとは、意識してくれてるかな、って思ってたのに。
「ご飯、誘ってくれたもん」
「まあ、一緒に飯食いに行くくらいだし、嫌ってるわけじゃないんだろうけど。でもそれだってヒナと同じでしょ。俺が話しかけたって嫌がんないし、隣に座っても平気そう。俺と話してて、楽しいって思ったこと、ない?」
「……ある」
 ある、どころか、私を困らせるようなことを言わないでいてくれば、潤平くんと話しているのは基本楽しい。
 しゅん、としてしまった私の頭を、慰めるようにくしゃくしゃ撫でた。
「まあさ、俺、ヒナの気持ちもよくわかるし。俺っていう選択肢もあるっていうのは、忘れないでいてよ」
 返事をしない私に困ったように笑って、潤平くんは前を向き直し、手元の資料に目をやった。
 結局ずっと考え事をしてしまって、厳しい教授の講義なのに全く集中できなかった。授業が終わるとすぐ、潤平くんから逃げるように教室を出る。本当は次のコマ、空きだから、全然急がなくてもいいんだけど。
 わざと関係ない理学部棟まで歩いてきて、人気のない外の休憩スペースのベンチに座り、スマホを開く。表示させたのは、食事に連れて行ってもらったお礼を告げる、簡単なメールのやり取り。あの日からもう、二週間ちょっと経つ。
 会いたいなあ。
 新学期が始まって、履修登録やなんだでバタバタしていたせいで、そのメール以来なんの連絡もしていない。そろそろまた、差し入れを持って会いに行ってもいいだろうか。この前の食事のお礼もしたいし。
 早速メールを打ちかけた私の脳裏に、さっきの潤平くんの言葉がよぎった。
 ーー一方的につきまとってるだけ。
 浮き上がった気持ちがまた沈む。宙ぶらりんな私の立場が、スマホをいじる手を鈍らせる。
 桐原さんにとっての私の今の立ち位置は、一体どの辺なんだろう。迷惑、とか思っても、きっと桐原さんは言葉に出さない。どれだけでも待てる、って思ったけど、待つのも案外しんどい。
 ふう、とため息をついたとき、手の中のスマホが着信を告げた。
 表示されたのはリサさんの名前だった。何回か一緒に遊んで、ちょこちょこメールもしてるけど、最近は予定が合わずにしばらく会ってない。
 電話に出ると、相変わらずの元気な声が響いた。
「ヒナちゃん? 元気してたぁ?」
「はい。リサさんもお元気そうですね」
「もっちろん。リサから元気とったらなんにも残んないし。ねえねえ、今日って夕方とか、暇?」
 今日はバイトもないし、あとは三限の授業に出るだけだ。
「暇です」
「じゃあ会えないかなあ? で、できたらリサの学校まで来て欲しいんだけど」
 リサさんの通う学校は、確か駅前にあったはずだ。バスで一本で行けるはず。
「いいですよ」
「ホント? やったあ。着く前に連絡してくれたら、玄関まで迎えに行くし」
「わかりました。でもなんで学校なんですか?」
 ご飯とかお茶なら、駅で待ち合わせた方が良さそうだけど。
「ふふふ、実はねえ、ヒナちゃんにお願いしたいことがあってさあ」
「お願い?」
「うん。内容は来てから話すよ。みんなにも会ってもらいたいし」
 みんなって、他にも誰かいるの?
「みんなヒナちゃんに会うの楽しみにしてるよ。イイ子達ばっかりだから怖がらなくても大丈夫。じゃあ、夕方待ってるね~」
「え、待っ」
 謎は全く解けないまま、リサさんは電話を切ってしまった。お願いって一体なんなんだろうか、少しだけ不安が残る。まあ、行ってみればわかるか。
 約束通り、授業が終わってすぐにバスに乗り込み、リサさんの学校に向かうと、リサさんはわざわざバス停まで迎えに出てくれていた。後ろをついていくと、すぐに学校らしきビルの前に着く。
「ようこそうちの学校へ!」
 リサさんが玄関の前で手をあげた。白を基調としたエントランスには受付があって、自販機が並んでいて、なんだか学校じゃなくて会社みたいな雰囲気だ。
 こっち、と言われて階段を上り、並んだ教室の一つに入る。と、そこには男の子と女の子が二人ずつ、椅子に座って話していた。
「おっ待たせー。こちら、私のヒナちゃんです」
 見知らぬ人たちにかなり砕けた紹介をされて、私は慌てて頭を下げる。
「道端日南子です」
「お~、これが噂の」
「ホントだ、かっわいい」
 それぞれに立ち上がって私とリサさんを囲むように近寄ってくる。興味深げにまじまじと観察されて、居心地悪いことこの上ない。
 そんな私の様子に気づいた、女の子にしては長身のショートカットの子が、フォローするように言葉をかけてくれた。
「動物園のパンダみたいにジロジロ見ない。道端さんが困ってるわよ」
 あー、ごめんごめん、と、私の右側にいた男の子が笑った。
「いきなり連れてこられたんだもんな。リサからなんにも聞いてないんだろ?」
 無言でこくこく頷くと、その子が呆れたようにリサさんを見る。
「おい、説明してやれよ」
「ふんだ、説明しようと思ったら圭太(けいた)たちが寄ってきたんじゃん」
 リサさんがべえ、と舌を出して、それから私に向き直る。
「びっくりさせてごめんね。この子達は私の同級生。科は違ったりするけどいつも一緒につるんでるんだ。でね、ヒナちゃんに頼みたいことというのはぁ」
 じゃじゃん、と机に置いてあった資料の束を突き出される。
 第五十五回卒業制作展ファッションコンペステージ企画立案書。
 ……ステージ?
「二月のファッションショーの、モデルになってくださーい!」
 資料を引っ込めて、リサさんがにこっ、と笑う。
「ファッションショーのモデルって……ステージを歩くってことですか!?」
「そう! リサの服、どうしてもヒナちゃんに着て欲しい!」
「でも私、ショーなんて出たことも見たこともないし」
「だいじょうぶー、みんなそう」
 みんなって? 事情をよく飲み込めない私の頭上に浮かぶはてなマークが見えたのか、さっきフォローを入れてくれた女の子が詳しく説明してくれる。
「二月に私たちの卒業制作展があるんだけど、それの最後に生徒主催のファッションショーがあるのよ。ショーの洋服の作成はもちろん、モデルのスカウトからヘアメイクまで全部自分たちでやるの。モデルさんはみんな、友達だったり家族だったりするけど、一般の人が対象。で、そのモデルをあなたにやってもらいたい、って話なんだけど」
 なるほど、ほかの人たちもみんな素人さんなら、私一人が浮いたりもしないだろう。リサさんの作る洋服も見てみたいし……何より、今まで触れたことのない世界に興味がある。面白そう。
「あの、私でよければ、喜んで」
 頷いた私にリサさんが抱きついてくる。
「そう言ってくれると思ってた!」
 ありがとう、とすりすり頬をこすりつけてくるのを、みんな呆れたように見ている。
「おい、変態。俺たちのことも紹介しろよ」
 さっき圭太、と呼ばれた男の子が、リサさんの体を私から引き離した。
「変態じゃないもん」
「じゃただのバカか」
「バカっていう方がバカ!」
「わかったわかった。まずは自己紹介しましょ」
 むうっとむくれるリサさんをなだめながら、ショートカットの子が言った。落ち着いた雰囲気の綺麗な子で、どうやらこの子がまとめ役みたい。クールビューティー、って言葉がピッタリ。
「私は宇野沙雪(うのさゆき)。スタイリングとかトータルビューティの勉強をしてるの。当日はヘアメイクの担当よ。で、さっきから梨沙とじゃれあってるのがデザイン科の西圭太(にしけいた)
 じゃれあってねえよ、と顔をしかめる西さんは、短い髪を金に近い茶色に染めて、鋭い目つきで私を見る。パッと見、ちょっと怖い。
「西です。リサと同じデザイン担当。よろしく」
 にっと笑うと印象が大分幼くなって、少年みたいになった。
「ビジネス科の保志亮介(ほしりょうすけ)です。君と同じモデル担当。よろしくね」
 西さんの隣の長身で上品な感じの男の子が名乗ると、続いてリサさんの隣の小柄な女の子が、小動物みたいにぴょん、と顔を出す。
小川野乃花(おがわののか)です。私もビジネス科。ステージの演出担当しまあす」
 雰囲気はリサさんに似てるけど、もっと小柄で可愛い感じ。みんな、ファッションの専門学校に通ってるだけあって、すっごくオシャレだった。個性的なのに見事に自分のカラーにしてて、見てるだけで眩しい。
「メインコンセプトがあって、それに沿ってテーマを決めて、チームでステージを作り上げるの。服のデザインだけじゃなくて、ヘアメイクだったり照明だったり音楽も含めてね。デザイナー一人が発表できるのは二着まで。私たちはテーマを二つ決めて、片方は圭太がメンズ、梨沙がレディスを、もう一方はその逆をデザインすることになったの」
「観客に投票してもらって、人気のあったステージは表彰されるんだ。二人とも気合入ってるんだよね」
 保志さんの言葉に、リサさんと西さんが同時に頷いて、顔を見合わせる。足引っ張んなよ、と西さんが言うと、そっちこそ、とリサさんがべーっ、と舌を出して見せた。
「ねえねえ、ヒナちゃんって呼んでいい?」
 小川さんがまんまるの目をキラキラさせて、私の隣にやって来る。
「はい、もちろん」
「じゃあ僕もそう呼ばせてもらおうかな」
 保志さんもそう言って、手近な椅子に座った。
「あ、ほっしーヒナちゃんのこと口説かないでよ? もうヒナちゃんには決まった相手がいるんだからっ」
「なんだ、彼氏持ち?」
 リサさんが誤解を招くような言い方をするから、私は慌てて否定する。
「彼氏じゃないです。私の片思いなだけで」
 ふーん、残念、と呟く保志さんは、全く残念そうじゃなかった。西さんとは正反対の、優等生然とした整った顔は、女の子にとっても人気がありそう。
「ヒナちゃん、ほっしーああ見えて手が早いから、気をつけて」
 こそっと耳打ちしてくれたけど、保志さんには筒抜けで。
「誰でもいいわけじゃないよ。僕はもっと気が強そうな子が好みなんだ」
 潤平くんもそうだけど、女の子にモテる男の子ってなんか余裕があると思う。どんな時も動じないというか、しれっとしてる。
「そういえば、ヒナちゃんK大の文学部なんだよね。松田さん、って知ってる?」
 保志さんが余裕の態度のまま聞いてきた。
「松田って、愛香ですか?」
 知ってるもなにも、いつも一緒にいるけど。
「そうそう、松田愛香ちゃん。僕のどストライクなんだよね。あの子、彼氏いるの?」
「いないはずですけど。というか、どこで愛香のこと知ったんですか?」
「可愛い女の子の情報はどこからか流れてくるもんなんだよ」
 またまたしれっと言い放つ保志さんは、優等生の笑顔を浮かべているだけに得体がしれない。
 じゃあじゃあ、と隣の小川さんが手を上げる。
「松田潤平くんも知ってる? W松田の男の方!」
 学校が違うのにこうやって名前が出てくるとは、あの二人はどうやら相当目立っているらしい。W松田なんて言われてるなんて、初めて知った。
「知ってますよ。二人とも同じ学科なので」
 じゃあ私潤平くん紹介して欲しい、とはしゃぐ小川さんを見て、宇野さんが、だったら、と呟いた。
「その二人にもモデルしてもらえば?」
 名案を思いついた、という感じで宇野さんが西さんの方を見る。
「二つあるテーマのイメージが正反対だから、モデルも別の方がいいかな、って前に圭太言ってたじゃない。私もあの二人、顔だけは知ってるけど、すごくステージ映えしそうよ?」
「あー、リサも愛香ちゃんに会ってみたい。ヒナちゃんから話聞いて、興味あったんだ」
 リサさんも同調して、にわかにその場が盛り上がった。その中で私は一人、内心焦る。
 ちょっと待って。愛香はいいけど、潤平くんが関わってくると若干困る。
 そんな私の心の中なんて分かる訳もなく、西さんが真剣な顔で私に聞いてきた。
「道端さん、その二人ってモデルとか頼めそうかな? そういうの嫌いそう?」
 いや、愛香はイベント好きだし、潤平くんだって雑誌のモデルに応募するくらいなんだから、嫌いではないだろう。むしろおもしろがりそうで、正直にそう伝えると、西さんが少年の笑みを浮かべた。
「道端さんから二人に聞いてもらってもいい? できれば前向きに考えて欲しいって」
 そんな期待に溢れる顔をされて、嫌なんて言えなかった。

 モデルの話を二人にすると、予想通り二つ返事で引き受けてくれた。だけど愛香は不満そうで。
「私はともかく、なんで潤平にまでそんな話頼むのよ?」
「だって二人に、って頼まれたし」
「だからってバカ正直に引き受けてくるなっつーの。あんた、危機感とか覚えないわけ?」
「なになに、何の話~? なんで危機感覚えるの?」
 採寸をしていたリサさんが、私たちのコソコソ話を聞き止めて無邪気に疑問を口にする。