落ち着くためにひと呼吸置いて、意識して冷静な声で尋ねる。
「あのね。一回ちゃんと聞いておこうと思ってたんだけど、潤平くんって、本気で私のことが好きなの?」
「うん」
 ケロッと頷くその態度が、全然本気に見えないんだってば。
「じゃあ、私は違う人が好きなので、諦めてください」
「やだ」
 わがままな子供みたいな口調の潤平くんに、私の口調がだんだん尖ったものになる。
「付き合ったりとかできないよ? 彼女になんかならないからね?」
 はっきりお断りしているはずなのに、潤平くんはどこ吹く風で、逆に私を諭すように言う。
「別に今すぐ付き合って欲しいとかじゃないよ。ヒナがあのカメラマンのこと嫌になって、俺のことが好きになるまで、話しやすい男友達のままで構わない」
「そんなの、待たれたって迷惑なんだけどっ」
「じゃあ、ヒナはどうなんだよ?」
「え?」
「あの人、別にヒナのこと好きってわけじゃないみたいだし? ヒナが一方的に好きで、つきまとってるだけなら、俺と変わんないじゃん」
 何も言い返せなくて、唇を噛む。確かに、潤平くんの言う通りだ。
「俺がヒナのこと本気で落とす、って言った時さ。あの人、平気そうな顔で、好きにすれば、って言ったよ?」
 ーー好きにすれば。
 わかってる、私が誰と付き合おうと、桐原さんには関係ない。それでもちょっとは、意識してくれてるかな、って思ってたのに。
「ご飯、誘ってくれたもん」
「まあ、一緒に飯食いに行くくらいだし、嫌ってるわけじゃないんだろうけど。でもそれだってヒナと同じでしょ。俺が話しかけたって嫌がんないし、隣に座っても平気そう。俺と話してて、楽しいって思ったこと、ない?」
「……ある」
 ある、どころか、私を困らせるようなことを言わないでいてくれば、潤平くんと話しているのは基本楽しい。
 しゅん、としてしまった私の頭を、慰めるようにくしゃくしゃ撫でた。
「まあさ、俺、ヒナの気持ちもよくわかるし。俺っていう選択肢もあるっていうのは、忘れないでいてよ」
 返事をしない私に困ったように笑って、潤平くんは前を向き直し、手元の資料に目をやった。