文庫本の活字を斜めに光が横切る。
ふうっと息を吐き、津原しずくは顔を上げた。
東西線はいつの間にか地上に出ていたらしい。肩越しに窓の外を見やる。
スカイツリーと葛西臨海公園の観覧車、かすかに見えるディズニーランド。
そんなに何度も辿った道ではないのに、妙に懐かしい。どんどん、彼に近づいている。
分厚い雲に遮られていてもなお夏の陽射しは眩しい。
――違う夏なのに同じ光だ。
彼に会いに行くのにぴったりだと、しずくはちょっと綺麗な気持ちになる。
――もう戻らない夏なのに、光は繋がってる。
なんだかそう思ったら、嬉しいような切ないような息苦しさが甦ってくる。
――わたしのいちばん眩しかった夏……。
しずくはふたつ瞬いて、手元の文庫本に目を戻した。
真っ白なワイシャツの背中がふたつ、陽炎の中で揺れている。楽しそうなのに、どことなく寂しげな笑い声が重なって。
しずくは、ただ黙って、そのふたりを見ていた。
――眩しくて、眩しくて、あらゆるものが溶けて、焦げてゆくほどに眩しかった夏。
――わたしは確かに、あの夏にいた。