「全て洗い流すことができる国」とやらに旅立って以来、彼は行方知れずになった。
 ある日、彼の親から婚約は解消の方向で考えて欲しいと電話が入った。
 「とんでもないです」
 わたしは泣きながら答えた。

 うちの両親も、「他にも相手はいる」と言った。叔母さんが見合い写真を持って来た。
 絶対に嫌よ。親の言葉も見合いも、徹底的に拒否した。

 彼は件の国で今も生きているかもしれない。最悪、命を落としているのかもしれないが、それならば遺体を見なくては現実を受け入れることができない。

 彼の両親は泣きながら、どうかもう息子は諦めてくれと言っている。
 うちの親も泣きながら、頼むから他の相手を探してくれと言っている。
 叔母さんはどんどこどんどこ見合い写真を持ってくる。
 ついにわたしは、件の国に行ってみることにした。