『さて、何から話したらよい?』
「えっと…蒼はどのぐらい覚えてる?」
『名前なら、一応全員知ってるよ。』
「嘘でしょう!?」
そういえば、さっき蒼もそう言った。
瑠璃と会ったことないはずなのに、瑠璃の名前を知ってるんだ。
『名前くらい知ってる。あっ、そうか、そうすればよいか…』
蒼は突然何か思い付いたようで、意味わからないことを出した。
「何か?」
『じゃ、まずこの家の話を続けようか。先言った通りにこの家は色々な部屋があるだろう。あっ、栞のはリビングだけど…』
「…ってことは、瑠璃の部屋みたいで、元々あったけど今なくなった部屋もある?」
『まぁね、そもそも、この世界はもっと広かった。最初の頃に、この家は洋館だったそうだよ。』
「…洋館?」
『俺も詳しい情報まで知らないけど、庭付きの洋館だったよ。とある時期に、こんな普通のアパートになった。』
「…あれも私が会った子の話だよね?」
あのリビングは栞との繋がりで、消えた部屋は瑠璃との繋がりだった。
それなら、この家も、もしかしたら誰かとの繋がりではないの?
『あぁ。でも、俺はその子知らない。』
「名前知ってる?」
『知ってるけど、お前に直接教えたら意味ないんだ。』
「思い出せばいいのに…」
『じゃ、ヒント要る?』
「ヒント?」
『一、子供の頃に洋館に住んだけど、その後はアパートに引越した。』
【洋館】
『二、あの子、子供の頃に蝶を飼ってた。』
【蝶を飼ってた】
…あぁ。
「本当に、なんで蒼はここまで知ってたか…」
『おっ、名前思い出したみたいね。』
「うん。わかったよ。」
懐かしい…だけど、少し恐怖も感じた。
「ギリシア神話の虹の女神…イリスのことだよね。」
名前が出ると思い出すから、名前は大事だと思う。
名前を聞く度にその人との楽しい思い出も、悲しい思い出も、少しずつ喚び返す。
もしかしてみんなのこと忘れたではなく、頭のどこかに閉まってるだけだろう。
『あの子の名前って、こんな意味だった。』
蒼の顔見ると、なぜか目大きく開いて、びっくりしたよう。
「え?蒼は知らないの?」
『当たり前じゃない?へミアとも会ったことないなら、ヘミアより前の子に会ったことある訳ない。ただ名前を見たことある。』
「そうだよね。小学生の頃のことだったもん。」
あの頃、私の隣にいたのは【蒼】だったし。
「イリスは…私が意図的に知り合った。」
『意図的に?』
「わざっと何回も会って、仲良くしたよ。」
『へぇ…』
「イリスは凄いよ。一日中に寝られなくても平気だった。」
『うわ…しんどいそう…』
確かに、しんどかったかも。
ふっと一つの考えが降りてきた。
「蒼は、イリスのことどのぐらい知ってるの?」
『名前ぐらい?あと、簡単なプロフィール…いや、さすがに誕生日とか分からない。あとは、この家はあの子の家の元に構成してるということ。』
「それは何か見たから知ってる?それともなんとなく知ってる?」
『…お前、何を聞きたいかよ?』
今までの蒼を見てたら、もしかして、【蒼】の記憶を引き継いでるかなぁ?と思ったけど、流石にそんな都合良い話ってありえないかも。
【蒼】が、どこかにノートとも残ってるかしら。
もし後者であれば、そのノートを見せて欲しいかも。
自分について、何を書いたか知りたいかも。
「…【蒼】からもらっとノートにまた何か書いたか知りたいし、何の基準で記録されてるかなぁ…と思っただけ。」
『それは見せない。見せたくないじゃなく、見せないよ。』
「でも、この家、いや、私と会った子のこと書いてたよね。」
『あぁ。ただ、細かく書いてないよ。』
「じゃ、イリスの彼氏は誰なのか、ノートに書いてない?」
『彼氏の名前……』
もし【蒼】が自分で記録取ってるなら、きっと私の好みで記録するだろう。
『徹…?』
聞いた瞬間に胸がドキッとした。
その次、泣きそうになっちゃった。
『ごめん、分からない…っていうか自信がない。頭に浮かんだ名前を答えただけ。読み方違うかもしれないか…』
「大丈夫だ。あることを判明したいだけだ。」
『何を?』
「【蒼】のノートは客観的に記録したか、それとも、私の感情を影響しながら記録したか、確認してみたい。」
『…彼氏の名前でそんなことわかるか?』
「わかるよ。だって、イリスの物語のまま記録するなら、彼氏の名前は、外国人の名前だったよ。」
『…え?…ってことは嘘なの?』
「いや、徹くんはイリスの死んだ幼馴染だった。もちろん、好きな人だった。」
『で、お前がその外国人の彼氏が気に入らなかったから、イリスの彼氏はあの人じゃなく、徹というやつだ!と思った?』
「うん。そういうことだよ。」
『…なに勝手なこと…』
「だって、私はあの外国人気に入らなかったもん。」
子供の頃に好きなアニメキャラの話みたい。
でも、正直、私はイリスのことそんなに覚えてない気がする。
『まじかよ…あの子が書いたから、疑わずそのまま受けた。』
「だかーら、言ったでしょう。【蒼】はどんな時でも私の騎士だよ。」
私、今きっと自慢そうな顔してるだろう。
自分でもわかるくらいに、口角を上げた。
『…まあ、そうだね…だから、ここまで…』
蒼は何か思いついたように、何かボソッと言った。
「でも、これでわかるでしょ?」
『ストップ。あの子の話はいいや。』
「違うよ。そうじゃなく、先、私が言ったことだよ。私の記憶は、あなた達の存在する証拠だって。」
蒼は眉間にシワを寄せてしばらく考えてるようだ
「私が言わなかったら、蒼はずっと気づかないでしょう。イリスの彼氏は徹くんだと信じて生きる。少し考えてみよう。イリスの世界以外に、彼女の存在を知ってる人は私と【蒼】だけだった。」
しかし、記録を残るなんて思わなかった。
【蒼】らしい…私は思わず笑った。
「それで、【蒼】が消える前にノートで記録した。そのノートを見て、もっといろんな人が彼女の存在を知った。そして、確認できないから、ノートに書いたまま信じるしかない。」
『あぁ。』
「そもそも、イリスがいなくても、知らなくても、みんなにも影響がないと思う。」
『俺にも影響がないけど。』
「確かにどうしようもない事だと思った。でも、私が何も言わなかったら、これからの世界、ここの世界には【イリスの彼氏は徹くん】だと残ってる。」
『それはそうだなぁ…』
「誤った情報は、そのままに引き続いて、そして…」
誤ったことが事実になる。
なるほど、こんな方法があるんだ。
っていうか、人間の記憶システムと似てる気がする。
『…俺は、ただ、あの子はお前に甘えすぎだと思っただけ。』
「なんでだよ。私は真面目に言ったのに…」
私は少しむすっとした。
『はい、はい。』
「…もう一つ聞いてもいい?」
『問題による。』
「【蒼】のノート、あと何人ぐらい書いた?」
『お前が今まで出会った子全員分だった。ストーカーと思われるぐらい、一人一人のことちゃんと書いておいた。』
そもそも私も先まで思い出そうともしなかったので、全然気づかなかった。
昔、こんなに忘れたくないや忘れちゃっやだ!と言ってたのに、
あの気持ちは、知らないうちに綺麗に消えてしまった。
『で、聞きたいのはそれだけじゃないよね?』
「…私とのことは書いた?」
『書いてないよ。あの子は、お前が出会った子達とのエピソードを細かく書いたのに、お前とのこと一切書かなかった。』
「そうなんだ…」
蒼にバレるのも恥ずかしいと思ったから、少しホッとした。
しかし、悲しい気持ちもある。
なんで他人のこと詳しく書いたのに、
一番側にいた私のこと、何も残されないだろう。
『それは書かないだろう。』
「え?でも、一番一緒にいたのに…」
『俺なら書かない。お前が忘れたら仕方ないと思うし、その方が普通だ。』
「忘れる方が普通なの…」
どうしても忘れたくないと思ったのは私だけでしょう。
『それに、俺は、あの子と違うから、考え方も違う。』
「たとえば?」
『あの子はお前が願ったことなら、なんでも叶わせる。だから、そのノートもこの家もそうだった。』
口調を荒立てないのに、なぜか蒼が機嫌悪いそうと感じる。
『お前が死のうと言うまで、あの子の愛情度を試そうとした。それで、お前はあの子の前に何回も泣きながら、「みんなのこと忘れたくない」と言っただろう。』
ビクッ。
「…なんで?」
『なんでわかる?あぁ、だってこの家を作り出す理由として、ノートに書いたよ。まあ、泣くながら言うのは、俺の想像だけど…』
「この家を作る理由…」
意味をはっきり理解できないため、もう一度ボソッと言った。
確かに、彼達は特別な存在だった。
それで、彼達の世界はこの家しかない。
ってことは、世界は作れるなんて…?
『とりあえず、話を聞いてから文句言うね。』
知らないうちに、蒼はまだ何か書き始めた。
『先も言ったけど、俺は【蒼】と会ったことないから、彼はお前に関することやこの家のこともノートに書いてた。でも、ノートだとしても、全部俺の頭に入ってるから、見せない。でも…彼は几帳面な性格で助かった。』
蒼の手は止まって、私にその紙を見せた。
よく見る住宅の平面図だった。
線をまっすぐを引いて、説明もちゃんと綺麗に書いてる。
二階建で、各部屋の場所も描いて、部屋の持ち主の名前も記入した。
イリスの部屋、瑠衣の部屋、ヘミアの部屋、瑠璃の部屋、織の部屋……
名前を見ただけで懐かしいと思った。
みんなの顔も頭の中に出てきそう。
しかし、それだけだった。
もっと思い出そうとしても、何も出てこない。
そういえば、これは…
「ここ、イリスの家だった…」
『あぁ、形一緒だけだった。元々洋館だっだし、2階もあるから、部屋の数も多かったみたい。これ、名前を見ればなんとなくわかるでしょう。』
「うん…本当に最初の頃に会った子も入れたんだ。でも、今と違うよね。」
今の家は、栞の部屋となってるリビング、と蒼の部屋だけだ。
悔しい気持ちもある。
以前そんなにいたのに、今は何も残さない。
『…まあ、お前にとってそうだろう。では、こう考えてみよう。』
「うん?」
『あの子達は、確かにお前の前にいきなり消えた。でも、ここの部屋はさ、昔も今も、部屋だけだった。言っただろう。ここに居られるのは、俺とお前だけだった。』
それはそうだけど…
『この家は、お前が今まで出会った子達との繋がりで構成させてるんだ。』
「えっと…蒼はどのぐらい覚えてる?」
『名前なら、一応全員知ってるよ。』
「嘘でしょう!?」
そういえば、さっき蒼もそう言った。
瑠璃と会ったことないはずなのに、瑠璃の名前を知ってるんだ。
『名前くらい知ってる。あっ、そうか、そうすればよいか…』
蒼は突然何か思い付いたようで、意味わからないことを出した。
「何か?」
『じゃ、まずこの家の話を続けようか。先言った通りにこの家は色々な部屋があるだろう。あっ、栞のはリビングだけど…』
「…ってことは、瑠璃の部屋みたいで、元々あったけど今なくなった部屋もある?」
『まぁね、そもそも、この世界はもっと広かった。最初の頃に、この家は洋館だったそうだよ。』
「…洋館?」
『俺も詳しい情報まで知らないけど、庭付きの洋館だったよ。とある時期に、こんな普通のアパートになった。』
「…あれも私が会った子の話だよね?」
あのリビングは栞との繋がりで、消えた部屋は瑠璃との繋がりだった。
それなら、この家も、もしかしたら誰かとの繋がりではないの?
『あぁ。でも、俺はその子知らない。』
「名前知ってる?」
『知ってるけど、お前に直接教えたら意味ないんだ。』
「思い出せばいいのに…」
『じゃ、ヒント要る?』
「ヒント?」
『一、子供の頃に洋館に住んだけど、その後はアパートに引越した。』
【洋館】
『二、あの子、子供の頃に蝶を飼ってた。』
【蝶を飼ってた】
…あぁ。
「本当に、なんで蒼はここまで知ってたか…」
『おっ、名前思い出したみたいね。』
「うん。わかったよ。」
懐かしい…だけど、少し恐怖も感じた。
「ギリシア神話の虹の女神…イリスのことだよね。」
名前が出ると思い出すから、名前は大事だと思う。
名前を聞く度にその人との楽しい思い出も、悲しい思い出も、少しずつ喚び返す。
もしかしてみんなのこと忘れたではなく、頭のどこかに閉まってるだけだろう。
『あの子の名前って、こんな意味だった。』
蒼の顔見ると、なぜか目大きく開いて、びっくりしたよう。
「え?蒼は知らないの?」
『当たり前じゃない?へミアとも会ったことないなら、ヘミアより前の子に会ったことある訳ない。ただ名前を見たことある。』
「そうだよね。小学生の頃のことだったもん。」
あの頃、私の隣にいたのは【蒼】だったし。
「イリスは…私が意図的に知り合った。」
『意図的に?』
「わざっと何回も会って、仲良くしたよ。」
『へぇ…』
「イリスは凄いよ。一日中に寝られなくても平気だった。」
『うわ…しんどいそう…』
確かに、しんどかったかも。
ふっと一つの考えが降りてきた。
「蒼は、イリスのことどのぐらい知ってるの?」
『名前ぐらい?あと、簡単なプロフィール…いや、さすがに誕生日とか分からない。あとは、この家はあの子の家の元に構成してるということ。』
「それは何か見たから知ってる?それともなんとなく知ってる?」
『…お前、何を聞きたいかよ?』
今までの蒼を見てたら、もしかして、【蒼】の記憶を引き継いでるかなぁ?と思ったけど、流石にそんな都合良い話ってありえないかも。
【蒼】が、どこかにノートとも残ってるかしら。
もし後者であれば、そのノートを見せて欲しいかも。
自分について、何を書いたか知りたいかも。
「…【蒼】からもらっとノートにまた何か書いたか知りたいし、何の基準で記録されてるかなぁ…と思っただけ。」
『それは見せない。見せたくないじゃなく、見せないよ。』
「でも、この家、いや、私と会った子のこと書いてたよね。」
『あぁ。ただ、細かく書いてないよ。』
「じゃ、イリスの彼氏は誰なのか、ノートに書いてない?」
『彼氏の名前……』
もし【蒼】が自分で記録取ってるなら、きっと私の好みで記録するだろう。
『徹…?』
聞いた瞬間に胸がドキッとした。
その次、泣きそうになっちゃった。
『ごめん、分からない…っていうか自信がない。頭に浮かんだ名前を答えただけ。読み方違うかもしれないか…』
「大丈夫だ。あることを判明したいだけだ。」
『何を?』
「【蒼】のノートは客観的に記録したか、それとも、私の感情を影響しながら記録したか、確認してみたい。」
『…彼氏の名前でそんなことわかるか?』
「わかるよ。だって、イリスの物語のまま記録するなら、彼氏の名前は、外国人の名前だったよ。」
『…え?…ってことは嘘なの?』
「いや、徹くんはイリスの死んだ幼馴染だった。もちろん、好きな人だった。」
『で、お前がその外国人の彼氏が気に入らなかったから、イリスの彼氏はあの人じゃなく、徹というやつだ!と思った?』
「うん。そういうことだよ。」
『…なに勝手なこと…』
「だって、私はあの外国人気に入らなかったもん。」
子供の頃に好きなアニメキャラの話みたい。
でも、正直、私はイリスのことそんなに覚えてない気がする。
『まじかよ…あの子が書いたから、疑わずそのまま受けた。』
「だかーら、言ったでしょう。【蒼】はどんな時でも私の騎士だよ。」
私、今きっと自慢そうな顔してるだろう。
自分でもわかるくらいに、口角を上げた。
『…まあ、そうだね…だから、ここまで…』
蒼は何か思いついたように、何かボソッと言った。
「でも、これでわかるでしょ?」
『ストップ。あの子の話はいいや。』
「違うよ。そうじゃなく、先、私が言ったことだよ。私の記憶は、あなた達の存在する証拠だって。」
蒼は眉間にシワを寄せてしばらく考えてるようだ
「私が言わなかったら、蒼はずっと気づかないでしょう。イリスの彼氏は徹くんだと信じて生きる。少し考えてみよう。イリスの世界以外に、彼女の存在を知ってる人は私と【蒼】だけだった。」
しかし、記録を残るなんて思わなかった。
【蒼】らしい…私は思わず笑った。
「それで、【蒼】が消える前にノートで記録した。そのノートを見て、もっといろんな人が彼女の存在を知った。そして、確認できないから、ノートに書いたまま信じるしかない。」
『あぁ。』
「そもそも、イリスがいなくても、知らなくても、みんなにも影響がないと思う。」
『俺にも影響がないけど。』
「確かにどうしようもない事だと思った。でも、私が何も言わなかったら、これからの世界、ここの世界には【イリスの彼氏は徹くん】だと残ってる。」
『それはそうだなぁ…』
「誤った情報は、そのままに引き続いて、そして…」
誤ったことが事実になる。
なるほど、こんな方法があるんだ。
っていうか、人間の記憶システムと似てる気がする。
『…俺は、ただ、あの子はお前に甘えすぎだと思っただけ。』
「なんでだよ。私は真面目に言ったのに…」
私は少しむすっとした。
『はい、はい。』
「…もう一つ聞いてもいい?」
『問題による。』
「【蒼】のノート、あと何人ぐらい書いた?」
『お前が今まで出会った子全員分だった。ストーカーと思われるぐらい、一人一人のことちゃんと書いておいた。』
そもそも私も先まで思い出そうともしなかったので、全然気づかなかった。
昔、こんなに忘れたくないや忘れちゃっやだ!と言ってたのに、
あの気持ちは、知らないうちに綺麗に消えてしまった。
『で、聞きたいのはそれだけじゃないよね?』
「…私とのことは書いた?」
『書いてないよ。あの子は、お前が出会った子達とのエピソードを細かく書いたのに、お前とのこと一切書かなかった。』
「そうなんだ…」
蒼にバレるのも恥ずかしいと思ったから、少しホッとした。
しかし、悲しい気持ちもある。
なんで他人のこと詳しく書いたのに、
一番側にいた私のこと、何も残されないだろう。
『それは書かないだろう。』
「え?でも、一番一緒にいたのに…」
『俺なら書かない。お前が忘れたら仕方ないと思うし、その方が普通だ。』
「忘れる方が普通なの…」
どうしても忘れたくないと思ったのは私だけでしょう。
『それに、俺は、あの子と違うから、考え方も違う。』
「たとえば?」
『あの子はお前が願ったことなら、なんでも叶わせる。だから、そのノートもこの家もそうだった。』
口調を荒立てないのに、なぜか蒼が機嫌悪いそうと感じる。
『お前が死のうと言うまで、あの子の愛情度を試そうとした。それで、お前はあの子の前に何回も泣きながら、「みんなのこと忘れたくない」と言っただろう。』
ビクッ。
「…なんで?」
『なんでわかる?あぁ、だってこの家を作り出す理由として、ノートに書いたよ。まあ、泣くながら言うのは、俺の想像だけど…』
「この家を作る理由…」
意味をはっきり理解できないため、もう一度ボソッと言った。
確かに、彼達は特別な存在だった。
それで、彼達の世界はこの家しかない。
ってことは、世界は作れるなんて…?
『とりあえず、話を聞いてから文句言うね。』
知らないうちに、蒼はまだ何か書き始めた。
『先も言ったけど、俺は【蒼】と会ったことないから、彼はお前に関することやこの家のこともノートに書いてた。でも、ノートだとしても、全部俺の頭に入ってるから、見せない。でも…彼は几帳面な性格で助かった。』
蒼の手は止まって、私にその紙を見せた。
よく見る住宅の平面図だった。
線をまっすぐを引いて、説明もちゃんと綺麗に書いてる。
二階建で、各部屋の場所も描いて、部屋の持ち主の名前も記入した。
イリスの部屋、瑠衣の部屋、ヘミアの部屋、瑠璃の部屋、織の部屋……
名前を見ただけで懐かしいと思った。
みんなの顔も頭の中に出てきそう。
しかし、それだけだった。
もっと思い出そうとしても、何も出てこない。
そういえば、これは…
「ここ、イリスの家だった…」
『あぁ、形一緒だけだった。元々洋館だっだし、2階もあるから、部屋の数も多かったみたい。これ、名前を見ればなんとなくわかるでしょう。』
「うん…本当に最初の頃に会った子も入れたんだ。でも、今と違うよね。」
今の家は、栞の部屋となってるリビング、と蒼の部屋だけだ。
悔しい気持ちもある。
以前そんなにいたのに、今は何も残さない。
『…まあ、お前にとってそうだろう。では、こう考えてみよう。』
「うん?」
『あの子達は、確かにお前の前にいきなり消えた。でも、ここの部屋はさ、昔も今も、部屋だけだった。言っただろう。ここに居られるのは、俺とお前だけだった。』
それはそうだけど…
『この家は、お前が今まで出会った子達との繋がりで構成させてるんだ。』