「皆が喜びますよ。村長として礼を言います。お茶とか飲み物はこっちで用意すっから心配いらねぇ。ビールもちょっと出すかね」
飲み過ぎんでないよ、と吉野に小突かれた吉野村長はガハハハッと笑った。
「野菜、これで足りるべか」
吉野が段ボールや袋の中身を確認しながら言う。
「じゅうぶん過ぎるくらいです」
車に積み込むのはいいとして、降ろすのも一苦労しそうだ。シズさんにも手伝って貰わなければ。
「茶豆の握り飯も入ってっから。昼も過ぎてるから腹減ったでしょう。帰りに食べてけ」
「ええ! 茶豆のおにぎり!」
「それはありがたい。俺たち腹ペコなんです」
乃里は牡丹と顔を合わせて喜んだ。
「野菜は余ったらほら、あんたらの店で使ってよ。そのほうが野菜も嬉しいべ」
「ありがとうございます」
吉野夫妻に立つだってもらい、車に食材を積み込んだ。カワオヌが寝ていたフラットシート部分全部が段ボールと麻袋などで埋まった。
「それでは、日曜日に。よろしくお願いいたします」
エンジンをかけて、窓から萩が吉野夫妻に挨拶をした。
「こちらこそ。待ってっから。楽しみだ」
車を発進させると、また吉野夫妻は姿が小さく見えなくなるまで立ってこちらを見ていた。
持たせてくれた茶豆の握り飯を開封する。十個も入っていてラップでくるんであり、手に取るとまだ温かい。
「いつの間に作ってくれたんでしょうね」
真っ白に光る白米の間に見える緑色の枝豆。空腹だったので乃里は握り飯にかぶりつく。
「うわぁ、おいひぃ~!」
頬っぺたが落ちそうとはこのことだろう。働いたあとに食べる食事はなによりも美味である。
「炊き込みご飯ではなくて、混ぜご飯だな。塩味だけなのかな。うん、うまい」
牡丹もぱくついている。運転する萩も牡丹に食べさせてもらっていて「ああ、これはいいですね」と嬉しそうだ。
道路のデコボコに反応して、積まれた段ボールがガサゴソと音を立てる。乃里は握り飯を食べ終わって、ふたつめに手を伸ばした。握り飯はまだたくさんある。
「野菜、凄い量ですよね。採れたて新鮮だし」
ここからどんな料理に変身していくのか、想像すると乃里の心は躍った。
「下ごしらえは明日の朝から。乃里さん、日曜まで三日間、店を開けている間は通常通り、プラスして収穫祭のお弁当の準備で忙しくなりますよ」
「はい!」
後ろを振り向くと、山が緑に輝き、畑が広がり、長閑な風景はそのままだった。ここが無くなると思うとやはりカワオヌの気持ちを思うと切なくなる。
「どこの誰かもわからないわたしたちが、村人でもないのにお祭りをしたいっていって、快く受け入れてくれるなんて」
人が好過ぎではないのか。そんな風に思う乃里だった。
「人間も捨てたもんじゃないですよ。僕たちがいうのもなんですが」
「そうだよなー。見えても見えなくても、形あってもなくても。ね」
「そうですね」
ふたりの言っていることがよくわからなかったが、二つ目の握り飯を完食、お腹がいっぱいになった乃里は座席に体を預けた。そして心地よい睡魔に襲われていった。
それからしろがねに到着するまでに爆睡していた乃里は、牡丹が声をかけるまで起きなかった。
「移動も長かったですし、疲れたのでしょう」
萩は笑っていた。
シズを加えてたくさんの食材を調理場に運び、状態を確認してから収穫祭用弁当に使うものとして保存は別にしておく。
作業が終わったときは夜の七時を過ぎていた。
「よし。あとは明日またよろしくお願いします。乃里さん、お疲れ様でした。今日はもう上がっていいですよ」
「え、夜のお客様はまだこれから……」
「今日はもうお食事なしの日帰り温泉のみの営業にします。気まぐれですから」
「そうそう、遠征で俺も疲れたし。明日から忙しいから今日はもう帰っていいよ」
ふわぁと欠伸をする牡丹。
本当に気まぐれだ。
日帰り温泉で食事を楽しみに来る客もあるだろうに。乃里が腑に落ちなそうに「お疲れ様でした……」と言うと、牡丹がビニール袋を乃里に渡す。
「乃里ちゃん、これまだあるし、おうちに持って帰りなよ」
紅首村から帰るときに食べた、茶豆の握り飯だった。乃里と兄弟で食べたのだけれど、まだ数個残っている。
「いいんですか!」
飲み過ぎんでないよ、と吉野に小突かれた吉野村長はガハハハッと笑った。
「野菜、これで足りるべか」
吉野が段ボールや袋の中身を確認しながら言う。
「じゅうぶん過ぎるくらいです」
車に積み込むのはいいとして、降ろすのも一苦労しそうだ。シズさんにも手伝って貰わなければ。
「茶豆の握り飯も入ってっから。昼も過ぎてるから腹減ったでしょう。帰りに食べてけ」
「ええ! 茶豆のおにぎり!」
「それはありがたい。俺たち腹ペコなんです」
乃里は牡丹と顔を合わせて喜んだ。
「野菜は余ったらほら、あんたらの店で使ってよ。そのほうが野菜も嬉しいべ」
「ありがとうございます」
吉野夫妻に立つだってもらい、車に食材を積み込んだ。カワオヌが寝ていたフラットシート部分全部が段ボールと麻袋などで埋まった。
「それでは、日曜日に。よろしくお願いいたします」
エンジンをかけて、窓から萩が吉野夫妻に挨拶をした。
「こちらこそ。待ってっから。楽しみだ」
車を発進させると、また吉野夫妻は姿が小さく見えなくなるまで立ってこちらを見ていた。
持たせてくれた茶豆の握り飯を開封する。十個も入っていてラップでくるんであり、手に取るとまだ温かい。
「いつの間に作ってくれたんでしょうね」
真っ白に光る白米の間に見える緑色の枝豆。空腹だったので乃里は握り飯にかぶりつく。
「うわぁ、おいひぃ~!」
頬っぺたが落ちそうとはこのことだろう。働いたあとに食べる食事はなによりも美味である。
「炊き込みご飯ではなくて、混ぜご飯だな。塩味だけなのかな。うん、うまい」
牡丹もぱくついている。運転する萩も牡丹に食べさせてもらっていて「ああ、これはいいですね」と嬉しそうだ。
道路のデコボコに反応して、積まれた段ボールがガサゴソと音を立てる。乃里は握り飯を食べ終わって、ふたつめに手を伸ばした。握り飯はまだたくさんある。
「野菜、凄い量ですよね。採れたて新鮮だし」
ここからどんな料理に変身していくのか、想像すると乃里の心は躍った。
「下ごしらえは明日の朝から。乃里さん、日曜まで三日間、店を開けている間は通常通り、プラスして収穫祭のお弁当の準備で忙しくなりますよ」
「はい!」
後ろを振り向くと、山が緑に輝き、畑が広がり、長閑な風景はそのままだった。ここが無くなると思うとやはりカワオヌの気持ちを思うと切なくなる。
「どこの誰かもわからないわたしたちが、村人でもないのにお祭りをしたいっていって、快く受け入れてくれるなんて」
人が好過ぎではないのか。そんな風に思う乃里だった。
「人間も捨てたもんじゃないですよ。僕たちがいうのもなんですが」
「そうだよなー。見えても見えなくても、形あってもなくても。ね」
「そうですね」
ふたりの言っていることがよくわからなかったが、二つ目の握り飯を完食、お腹がいっぱいになった乃里は座席に体を預けた。そして心地よい睡魔に襲われていった。
それからしろがねに到着するまでに爆睡していた乃里は、牡丹が声をかけるまで起きなかった。
「移動も長かったですし、疲れたのでしょう」
萩は笑っていた。
シズを加えてたくさんの食材を調理場に運び、状態を確認してから収穫祭用弁当に使うものとして保存は別にしておく。
作業が終わったときは夜の七時を過ぎていた。
「よし。あとは明日またよろしくお願いします。乃里さん、お疲れ様でした。今日はもう上がっていいですよ」
「え、夜のお客様はまだこれから……」
「今日はもうお食事なしの日帰り温泉のみの営業にします。気まぐれですから」
「そうそう、遠征で俺も疲れたし。明日から忙しいから今日はもう帰っていいよ」
ふわぁと欠伸をする牡丹。
本当に気まぐれだ。
日帰り温泉で食事を楽しみに来る客もあるだろうに。乃里が腑に落ちなそうに「お疲れ様でした……」と言うと、牡丹がビニール袋を乃里に渡す。
「乃里ちゃん、これまだあるし、おうちに持って帰りなよ」
紅首村から帰るときに食べた、茶豆の握り飯だった。乃里と兄弟で食べたのだけれど、まだ数個残っている。
「いいんですか!」