城崎さんのカフェから少し離れた場所に市民体育館がある。
私の通う高校の校内にある体育館と比べたら、遥かに大きな体育館だ。

私と紗季はがここに来た理由は、紗季の妹である小緑がダンスを披露してくれるため。

小緑が突然ダンスを始めた理由は、急に学校の先生から声を掛けられたとか。
私はまだ見たことないけど、紗季は凄く上手だと言っていた。

入ってまだ一ヶ月弱なのに、『高校三年生のダンスリーダーと一緒にセンターを踊る』と紗季は目を輝かせて言っていたっけ。

小緑が上手なら、そのダンスリーダーの人も上手なんだろうか。

体育館に設置された大きな舞台には、中年のおじさん達のバンドで館内は盛り上がっていた。
年齢感じさせずに楽しめる所が本当にこの町の『文化祭』みたいで、楽しそうだと私は思った。

ここに橙磨さんはいない。
一緒に行こうと誘ってみたけど、用事があるらしい。

まるで誰かを探すように、周囲を確認しながら人混みの中に橙磨さんは消えてしまった。

だから今は紗季と二人。
仕事着のまま、私達は客席の端の方に座っていた。

ご丁寧に観客席用椅子も用意してくれているみたい。
パイプ椅子だけど・・・・。

館内は広いからか、沢山の人が駆けつけている。
主に舞台で披露する保護者や関係者が多かった。

まるで愛藍と再会した音楽祭を思い出させるような雰囲気だ。

そんな中、私は一つの疑問を紗季に問い掛ける。

「んで何?そのビデオカメラ?」

紗季の右手にはビデオカメラ。
今のご時世、携帯電話でも動画は録画できるというのに。

紗季は苦笑いを浮かべて答える。

「おじいちゃんに言われたの。私も『携帯電話で撮れるから良い』って言ったんだけど、おじいちゃん機械に弱くてまともに電話も出来ないし。動画で見せても、自分で再生できないと思わないし」

「紗季のおじいちゃんビデオカメラを扱えるの?」

「さあ?」

「さあ?って・・・・」

曖昧な紗季の反応に、私は肩を落とした。
何て言うか、もっと山村家に効率のいい動画の保存方法はないのだろうか。