人は進化する生き物だ。
変わろうと思っている時点で、人は進化する。

辛いことに乗り越える事が出来る。

昔から桜の口癖だった。
『私は出来る』って馬鹿みたいに何度も自分に言い聞かせて、桜は何事にも挑戦していた。

きっと野球を始めたのも、陸上で全国大会に行けたのも、吹奏楽部で頑張れたのも桜が望んだ事だからから。

『私には出来る』と思って、自分は進化出来る生き物だとと思ったから。

『小さな体でもしっかり生えた翼で空を自由に飛べるんだ』と言い聞かせて、いつまでも桜は進化している。

「進化しないと。変わらないと。私が言った事が正しいとは思わないけど、選択肢くらいいっぱいあってもいいんじゃないの?確かに過去に悩む自分も時には必要だし、それを乗り越える自分も必要。それに保留する自分も必要。状況に合わせて自分を使い分けたらいいんじゃないの?ある意味そのために『喜怒哀楽』っていう言葉があるんだから。喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだり」

俺の表情を確認する桜は続ける。

「だから、過去が哀しいからそんな悲観的なことを考えてしまうんじゃないの?そういう時こそ前向きに考えて、『楽しかった過去』を思い出してその事を話し合えば、また仲良くなれるはずなのに。愛ちゃんは考えすぎ」

そう教えてくれる桜はきっとは、誰よりも辛い過去を経験したのだろう。
大怪我を負って、二度と運動できなくなって、親友も失った。

その過去を誤魔化そうと、常に笑顔で桜は生きている。
人前では絶対にいつも笑っていて、みんなを引っ張る。

それがどれくらい辛いものなのか、桜にしか分からないだろう。

だからこそのさっきの言葉なのかもしれない。『過去を振り返っても、過去は変わらないじゃん!そんなの放っておいて、先に進んじゃったらいいじゃないの!』って。

桜は自分の過去が辛い。
辛いから桜は過去を振り返らずに、みんなと接している。

俺も『さっきと言っていることが違う』と言ったが、それは俺しか分からないからそう言ってしまったのだろう。

俺にしか見せてくれない、時より見せてくれる本当の桜の横顔を見て、はそう思ってしまったのかもしれない。

そしてみんなの前では悟られないように頑張る桜の姿。
まるで人生の大先輩のような言葉その背中に、俺は勇気を貰った気がした。

「そう、だよな。ああ、そうだよな!進化して考える思考が増えたら、答えなんていくらでもあるもんな!」

どんな状況でも、答えは一つがじゃない。
答えがないなら作ればいい。

茜とまた仲良くしたいなら、また仲良くなるように声を掛けたらいい。
また楽しく過ごしたらいい。

どうしてそんな簡単な事、気付かなかったんだろうか。