ホームルームを終えた私は、裏庭にある学校の道場に向かった。
昔、剣道部と柔道部が使っていたらしく、授業でも使われていた道場らしい。

まあ、今は使われてないけどね。
建物はボロボロだし。

一応この道場、学校内の『立ち入り禁止区域』に指定されているし。

そんな人気のない場所に私が行く理由は、一つの切れ端が届いたから。
北條さんからのメッセージが届いたから。

『放課後になったら、道場に来て。話がある』

それは授業中に回ってきた紙切れの内容の全文。
北條さんから回ってきたノートの切れ端。

見ないようにしようとしたが、どうしても気になった。
単純に『ここで北條さんを無視したら、また嫌われるんじゃないかな?』って思ったから。

と言うか私、無視できなかった。
やっぱり今の北條さんはただただ怖い。

無視したらどんな仕返しが待っているのか全く想像できないし・・・・・・。

道場に鍵は掛かっていない。
古い建物で、鍵穴が壊れているみたいだ。

冬休みの間に取り壊す予定らしいし。

その誰もいない道場に私は足を踏み入れたが、まだ誰も居なかった。
人の気配も全く感じない。

電気はもう通っていないみたいで、薄暗く不気味な空間だ。
光は太陽の日差しのみ。

そんな薄暗い道場の壁には、輝かしい成績を残した時の当時の写真が残されていた。
殆どが剣道部のもので、柔道部の写真はない。

そう言えばお父さんは柔道の経験者だっけ。
この前なんか海ちゃんを襲う奴等を、カッコよく投げ飛ばしていたし。

それにお父さん、今でもたまに近くの中学校の柔道部に指導しているみたいだし。

まあ、武瑠が亡くなってから一度も行けてないんだけどね。
最近はお店も忙しくて、それどころじゃないみたいだし。

私は壁に飾られた剣道部の写真に視線を移す。
どんなメンバーが写っているんだろうと、写真を確認する。

・・・・・・・・。

試合会場を背景にした集合写真には、当時の剣道部のメンバーが写っていた。
部員と思われる女子部員が仲良く写っている。

男子部員はいないみたい。

そしてその写真の右下には、今から七年前の日付が書かれていた。
どうやら七年前の剣道部が一番輝いていた時期らしい。

まあでも、今では剣道部と言う言葉は『死語』みたいになっているけどね。
一昨年に廃部になっちゃったし。

ちなみにその当時の剣道部の最高成績は、『団体戦県大会準優勝』みたいだ。
写真に写る女子部員が持つ賞状には、そう書かれている。

でもそれ以上に、当時の剣道部員が残した輝かしい成績を私は見つけた。
もう一つの写真が当時の様子を物語っている。

大きなトロフィーと賞状を持った、紺の剣道着を身にまとった美人の女子生徒。
笑顔を見せて、首には金のメダルをぶら下げている。

どうやら彼女、全国大会で優勝したみたいだ。
『インターハイ優勝』って、彼女が持つ賞状に書かれているみたいだし。

そんな彼女の名前は宝千尋(タカラ チヒロ)と言うらしい。
名前も賞状に書かれている。

モデルのように可愛らしい顔立ちに、羨ましい大きな瞳。
地毛なのかわからないけど、長い明るい茶髪が印象的な女の子だ。

『男の子にモテそうな女の子だな』って、私は勝手に彼女の事を想像してみる。

そう言えば『千尋』って名前、最近よく聞くような。
誠也さんも松井先生も口にしていた名前だし。

もしかしてこの人かな?

・・・・・・・。

と言うか、この人なんだか『私のお母さん』に似ている・・・・。

そうやって写真を眺めていたら、誰かが道場に入ってくる足音が聞こえた。
同時に私の心は不安になる。

嫌な時間がまた始まる・・・・。