「私、怖かったんです」

「何が怖かったの?」

優しい誠也さんの言葉に、私は少し間を置いてから答える。

「私、自身です 」

「なんで?」

・・・・・・・。

「私の周りの人、みんな『不幸』になってしまうから。私が大好きな人、みんな居なくなってしまうから。だから、『私が悪いのかな』って。『私が死ねば、みんな幸せだったのかな?』って・・・・」

「それで自殺を?」

小さく、私は頷いて言葉をさらに返す。

「お父さん、多分私のことが嫌いだから。だから私を置いて、武瑠やお母さんの元に行ってしまった」

もう自分でも何を言っているかなんて全く分からない。
上手く言葉が出てこなくて、自分が伝えたいことすらわからない。

そんな馬鹿みたいな私の言葉を、誠也さんは真剣に聞いてくれる。
何度も何度も頷きながら、私から目を逸らさない。

そしていつもいつも、『私の味方』になってくれる。

「空ちゃんはいい子だ。きっと将大さんも『自慢の娘」だと周囲に自慢するだろう」

・・・・・嘘だ。

「そんなこと、ないです」

「そんなことあるよ」

私の言葉に続くように、素早くそう答えた誠也さん。
まるで私の言葉が分かっていたかのような反応。

誠也さんは続ける。

「何事も前向きに。君は下を向き過ぎだ。地面にお金でも落ちているの?」

そう言った誠也さんは小さく微笑むと、さらに続ける。

「幸せな人生なんて簡単には降ってこない。でも不幸な人生は簡単に降ってくる。これ、どういう意味だと思う?」

「意味がわかりません」

あまりにも早すぎる私の解答に、誠也さんは苦笑い。

だけどその苦笑いも一瞬だけ。
真剣な眼差しに戻ると、私に説教を始めてくる。

「『幸せ』か『不幸せ』と言うのは、自分で決めていること。例えば道に迷っている人がいる。自分はその人を助けてお礼を貰ったけど、その人を助けたせいで大切な人との待ち合わせ時間に遅刻してしまった。これ、空ちゃんなら幸せに捉える?不幸せに捉える?」

誠也さん、いきなり何を意味の分からないことを言い出すのだろう・・・・・。

「不幸せ、です」

「どうして?」

「・・・・だって、大切な人に『迷惑』かかってしまっていますし。人を助けて待ち合わせ時間に辿り着けば、幸せだったかもしれないですけど」

何が正解なのか分からないから、私は感じたことだけを答えた。
今ではスッゴく怖く感じる誠也さんの視線を感じながら。

「じゃあ設定を加えよう。道に迷っていた人、待ち合わせをしている相手のご家族だったら?遅刻してしまった理由を待ち合わせ相手に言ったら、『ありがとう』って帰ってきたら?」

もうやめてください。

それが今一番誠也さんに言いたい言葉。
どんどん辛くなっていく私の心。

そんなことを思っていたから、私は何も答えなかった。
目の前の誠也さんから目を逸らし、黙り込む。

そして黙り込んでしまった私を見て、誠也さんは私に頭を撫でる。

『もう答える気は無い』と、下を向いてしまう私を見て判断したのだろう。

「相変わらず素直じゃないな。まあ、それが空ちゃんなんだけど」

その誠也さんの言葉に、私は無意識に呟く。

「だって、正解なんて分からないですし」

「そうさ。それが答えさ」

その誠也さんの言葉に私は顔を上げた。

また無意識に・・・・・・。