でも今の誠也さんには真奈美さんと言う味方がいる。
いつの間にか私の味方から敵に変わっている真奈美さん・・・・。
「まあねー!『恥ずかしいから』って理由で隠れているけど。髪も切ってお洒落もしたんだよ。めっちゃ可愛いのに」
「どれどれ?真奈美、連れてきて」
「もちろん!」
ゆっくりと悪魔のような笑顔で私に近づく真奈美さん。
そして先程の風呂場同様に、逃げようとする私の腕を掴む真奈美さん。
もちろん私は抵抗する。
さっき『抵抗しても敵わない』って知っても、今の私には関係ない。
「真奈美さん!離してください!」
「なんで?」
「恥ずかしいからです」
真奈美さんはまた悪魔のように笑う・・・・。
「まあでも、ずっと隠れても意味ないから出ておいでよ」
「嫌です!」
どうして真奈美さんは力が強いのだろう。
なんで私はいつも真奈美さんの思う通りに動いちゃうんだろう。
それとも私の力が弱いから?
まあ確かに私は『運動」とか嫌いだけど・・・・。
そんなことを思いながら、私は必死に真奈美さんに抵抗する。
静かにしないといけない病院の中だと言うのに、大きな声で叫んでしまう情けない私・・・・。
そして情けない私にさらに追い討ち。
またしても『私の仲間』と言う『敵』が現れる。
「あれ?空ちゃん?」
いつも私を明るい気持ちにさせてくれる大好きな友達の声が聞こえたから、私と真奈美さんの争いが止まる。
学校で何度も聞いた女の子の声。
その声の主を確認すると、そこには久しぶりに見た友達の姿があった。
いつもの優しい表情で私と接してくれる海ちゃん。
そしてその海ちゃんの後ろには孝太くんの姿もある。
「う、海ちゃん?孝太も?ってなんでここに?」
でもどうして二人がここにいるのかなんて、正直どうでも良くなった。
今の自分の姿を二人に見られたと感じたから、私は慌てて二人から隠れる。
間違って誠也さんの病室に入ってしまう。
「あっ、入ってきた」
凄く嫌がっていたのに、急に姿を表す私の姿に誠也さんも苦笑い。
いや、苦笑いと言うより、ちょっと呆れたような表情?
一方の海ちゃんは私を見て騒ぎ始めた。
まるで初めて見る生き物を見て興奮するように、目を輝かせる海ちゃん。
「ちょっと空ちゃん!何のその髪型!めっちゃ可愛いじゃん!ショートヘアーすっごく似合ってるじゃん!」
「来ないで!」
「逃げないでよ!可愛いんだからさ!」
ううっ、どうしよう・・・・・。
私はいつの間にか、海ちゃんに病室の壁に追いやられて逃げ場を失っていた。
隠れる場所なんてないから、完全に『袋のネズミ』となった私を、ここにいるみんな面白がって見ていた。
と言うか、新しい自分を見られるのは凄く恥ずかしいよ・・・・。
変わった自分を見てもらうのは、抵抗がある・・・・。
・・・・・。
元々私は髪が長かった。
お母さんが髪を伸ばしていたから、私も少しお母さんの真似していた。
私、お母さんのように、綺麗な女性に密かに憧れていたのに・・・・・・。
真奈美さんは私の気持ちを無視して、バッサリと私の髪を切ってきた。
『空ちゃんは可愛いから男受け抜群のショートヘアがいい』って理由で、勝手に私の髪型をショートヘアにしてくるし。
ご丁寧にワックスも付けてセットしてくれたし、何故かメイクもしてくれたし。
と言うか似合ってないはずなのに。
外見は変わっても、中身なんて変わらないはずなのに。
・・・・・・。
だけど誠也さんには好評だ。
「へぇー、似合っているじゃん」
それに孝太くんにも、私の今の印象はいいみたいだ。
「そっちの方がいいな。お前、顔立ち良いからいいと思うぜ」
男の人達に生まれて初めて褒めセリフを言われて、戸惑う私。同時に何故か顔だけは赤くなっていく。
ものすごく恥ずかしい。
そんな私を見た真奈美さんは、みんなに笑みを見せる。
「でしょ?なんせ、私が『トリミング』しましたから」
直後、誠也さんは呆れた表情を真奈美さんに見せた。
「トリミングって・・・・・。空ちゃんは犬か?まあ俺の犬みたいなもんだけど」
「飼い主不在だから私が世話したの。今度からお兄が定期的に散歩でも連れていってよね」
「はいはい。でも退院するまで真奈美が面倒見ろよ。このハムスターちゃん、よく噛み付くから躾してやってくれ」
「分かってるって。私達仲良いから!ねー、空ちゃん?」
さっきから何を言っているだろう?
この馬鹿兄妹は。
そんなことを心の中で呟きながら、さっきから抱き付いてくる真奈美さんを睨み付ける私。
密かにまた真奈美さんに力づくで抵抗する私。
ってか全然真奈美さんは離れてくれないし・・・・。
・・・・・・・。
まあでも、田中兄妹を信用して悪いことは無さそうだ。
本当に、二人は私のために色々と行動してくれる。
正直言って、まだ『慣れない自分』を誰かに見られるのは抵抗があるけど、不思議と私の心もスッキリした気がするし。
海ちゃんや孝太くんもいるから、少し安心して何だか少し前の自分に戻れた気がするし。
・・・・・・。
でもやっぱり恥ずかしいからやだ。
自分への視線をさらに感じるようになったから、私は真奈美さんから離れると、また病室から出て隠れる。
変わろうとする自分はやっぱり抵抗がある。
「ほらほら空ちゃーん!また隠れていないで出てくる」
「嫌です!」
また病室に連れ戻されると思ったけど、真奈美さんは諦めたのか今度は私を追うことはなかった。
呆れた表情で、病室から出る私を優しく見つめている。
何だか『呆れた妹だ』と言っているみたい。
部屋の中ではお見舞いに来てくれた海ちゃんや孝太くんと話す誠也さんの声が聞こえた。
久しぶりに会う海ちゃん誠也さん。
それと初めて会う孝太くんと誠也さんは挨拶を交わしている。
誠也さんが目を覚ましたから、二人はお見舞いに来てくれたのだろう。
多分真奈美さんに呼ばれたのだろう。
そんなみんなの姿を見て、私も混じって再び会えた誠也さんと話したいけど、やっぱり恥ずかしい。
変な気持ちが溢れて素直になれない私がいる。
これ、何て言う気持ちなんだろうか・・・・・。
「おーい!空ちゃんもおいで」
そんな明るい誠也さんの声を聞いて、私はようやく部屋に入った。
顔を赤く染める私はゆっくりみんなに近付く。
そして誠也さんの近くに行くと、すぐに誠也さんは怪我をしていない左手で私の腕を掴んできた。
まるで『もう逃がさないよ』とでも言うような暖かい温もりが誠也さんから伝わってくる。
本当にそう言うところはズルい人だ・・・・・。
「空ちゃんはここ最近、何していたの?」
誠也さんの問い掛けに私は小さな声で言葉を返す。
「何も、してないです」
「そう。みんなには迷惑かけてない?」
「・・・・・」
迷惑かけてばっかりです。
そう言いたかったけど、今の私には言葉が出てこなかった。
言葉にするとまた私の心に潜む苦しさが襲ってくる。
でもこれを見越して、誠也さんは私に説教を始めてくれる。
いつもの『優しい表情』で、私と向き合ってくれる。
「だめだよ。辛いのは分かるけど、ちゃんと空ちゃんは空ちゃんのままでいないと。いつもの空ちゃんがいないと、みんな空ちゃんのことが心配しちゃうだろ?」
私は小さく頷くと、誠也さんは私を見て笑ってくれた。
同時に私の手を離すと、私の頭を撫でてくれる誠也さん。
そして続けてダメな私に説教をしてくれる。
「だから、これからもすっと笑っていようよ。辛いことに押し潰されていたら、お父さんもお母さんも武瑠くんもみんな怒っているよ。『空ちゃんなら出来るのに、なんでやらないんだ?』って。それに空ちゃんが笑えば、みんなも笑顔になるしね」
美柳空に笑ってほしい。
誠也さんがそう私に伝えていると、私は痛いほど理解した。
私が笑えば、みんな笑顔になると言うことはよく分かった。
だけど・・・・。
「でも私、うまく笑えなくて・・・・。誠也さんに頼りたいのに、頼れないから私、どうしたらいいか分からなくて」
それが今の私の心の声。
言葉通り笑いたくても笑えない私がいる。
私の心の支えである誠也さんが最悪の状態だったから、どうしたらいいか分からなかったし。
大好きなお父さんはもうこの世にいないし。
・・・・・・。
でもやっぱり誠也さんは誠也さん。
私が大好きな笑顔で誠也さんは励ましてくれる。
「だったら、自分が信じている人に涙を見せたらいいじゃんか。相変わらず変な子だな。空ちゃん、泣いてばっかの泣き虫なんだし」
さりげなく誠也さんからいつもの攻撃を受けている気がするが、今はそこは無視。
「信じている人ですか?」
誠也さんは一度頷くと答えてくれる。
「そのために真奈美や海ちゃんに孝太くんと言った存在が側いるんじゃないの?ホントに、君は何もかも自分で問題を抱え過ぎだ。自分では何一つまだ解決できないくせにさ」
誠也さんはまた私の頭を撫でると続ける。
「それに誰かを頼らないと、本当にひとりぼっちになっちゃうよ。空ちゃんはそれでもいいの?」
ひとりぼっち。
その言葉を聞いて、私は引き込もっていたこの二週間の出来事を思い出した。
お父さんが亡くなってから、ずっと前を向くことが出来ず、一人で泣き続けたこの二週間。
もう戻りたくない二週間・・・・・。
・・・・・。
だったら、自分の意思をちゃんと伝えないと。
伝えたいこと、ちゃんと伝えないと。
「嫌だ。ひとりぼっちは、もう嫌です・・・・」
その私の声に、誠也さんは優しく微笑む。
「そうだよな。だったら、まずは自分が頑張らないと。ダメだと思う自分に勇気を出さないと。それに必ず空ちゃんの味方になってくれる人はいるからさ。空ちゃんは手を差し出してくれた人の力を借りて、また立ち上がればいい。まずはそこから。いきなり自力で立ち上がれとは言えないけど、誰かの力を借りたら空ちゃん自身も頑張れるんじゃないの?勇気を出して、みんなと頑張ろう」
自分の力じゃなくてみんなの力を借りて立ち上がる。
それってつまり、手を差し出してくれた真奈美さんや海ちゃんに孝太くんと一緒に頑張るか・・・・。
・・・・出来るかな?
「難しいかな?」
曖昧な表情を見せていたら、誠也さんからそんな言葉が聞こえたから私は小さく頷いた。
理由は、意地っ張りでバカな私がいるから。
みんなを信用していない訳じゃないけど・・・・・。
みんなのことが大好きなんだけど・・・・・・。
・・・・・・。
もう自分でも分からないや。
「そう。だったらこんな所にいるより、早く目的地に行ってきたら?真奈美、みんな揃ったんだろ?」
突然の誠也さんのよくわからない問い掛けに、真奈美さんが答える。
「うーん、そうだね。『お兄が生きている』って分かったし」
そう言った真奈美さんは、下を向く私の腕を引っ張った。
同時にここにいるみんなに笑顔を見せる。
「ってな訳で空ちゃんを連行します。目的地は私の家!孝太くんと海ちゃんも一緒に行くよ! 」
「えっと、真奈美さん?」
私の声に動じず、真奈美さんは兄の誠也さんに手を振ると部屋から出て行った。
海ちゃんも孝太くんも一緒に部屋を後にする。
ってか『真奈美さんの家に行く』って、何をするんだろう?
全く検討も付かないんですけど・・・・・。
こうして誠也さんの病院を後にして、私達が向かったのは真奈美さんと誠也さんの家。
初めて入る二階建ての一軒家の田中家の家。
・・・・・・。
ってなんで?
なんで誠也さんの家?
どう言う事?
・・・・・・。
え?
田中家の家に着くと、私は早速真奈美さんの部屋に押し込まれた。
料理本や漫画にゲームが置かれた、生活感溢れる真奈美さんの部屋。
そしてまたしても、真奈美さんに服を脱がされる。
ホント、この人は私を何だと思っているんだろう?
「ちょ、真奈美さん!何でまた脱がせるんですか!」
一方の真奈美さんは私が着ていた服を片手に、私の体を舐め回すようにジロジロと見ていた。
それはあまり気持ちいいものではないし、性格の悪い真奈美さんは私の服を返してくれない。
そしてそれは、真奈美さんの隣にいる海ちゃんもそうだ。
海ちゃんも私に喧嘩を売るように、真奈美さんに協力している。
「ねぇ海ちゃん。さっき思っていたけど、空ちゃんってスタイルいいよね」
「それ、私も思ってました!胸はないけど」
一言多いと海ちゃんに飛び掛かろうとしたけど、その前に今の自分の姿が恥ずかしいから、私は顔を真っ赤に染めて真奈美さんに訴える。
「服、返してください!」
「なんで?」
私の言葉に、真顔で首をかしげる真奈美さん。
やっぱり兄の誠也さん同様に頭おかしい。
「なんでって、なんでこんなことするんですか!」
「まあまあ気にしない気にしない。空ちゃんにはもっと元気になってもらわないといけないからさ。ねぇー、海ちゃん」
真奈美さんの味方である海ちゃんは笑顔で頷くと、何故だか下着姿の私に近付いてくる。
「そうですね!空ちゃん、前から思っていたけど顔立ちもいいから可愛いし」
「海ちゃんも意味わかんない!」
私の着ていた服を片手に持つ真奈美さんと、何やら嬉しそうな海ちゃんの姿。
本当に、ここに来たことを後悔する私がいる。
・・・・・・・。
って言うか、『今からみんなで楽しい所に行く』って、真奈美さんは言うし。
どこに行くんだろうか?
ホント、私にはついていけない。
何より無理矢理服を脱がせるのもちょっと違うと思うけど・・・。
こうしてまたしても、私は性格の悪い仲間に追い込まれてしまった。
ホントに、私の周りは『敵と言う味方』ばっかりだと、改めて思う。
と言うかなんでみんな、私を狙ってくるんだろう?
私、こんな自分を望んでないのに。
・・・・・・。
でも正義感の強い彼なら私を助けてくれるはず。
『困っている友達』の姿を見たら、すぐに助けてくれるはず。
「こ、孝太くん助けて!」
そう思った私は、慌ててもう一人の友達の名前を呼ぶ。
この中の唯一の男性に助けを求める。
でも・・・・・
「諦めろ、空。俺にはお前を救えねぇ」
扉の向こうにいる短い孝太くんの声に、私はただただ絶望。
「ちょ!孝太くん!」
と言うか孝太くん、私が服を脱がされているから、気を使ってくれて隣の部屋にいるのかな?
服を脱がされた私がいるから、この部屋に入ってこれないってこと?
いや、そんなのどうでもいいから!
・・・・いや良くないけど。
うう・・・。
一方の真奈美さんはいつの間にか私に抱き付いている。
ホント、今日は真奈美さんとの距離が近い。
「大丈夫だって。すぐ終わるから。ちょっと大人しくしてれば、いっぱいエサあげるから」
エサって・・・・。
この人はまた私をペットみたいに言ってるし。
もう絶対に許さない!
また真奈美さんに抵抗しようと思った。
喧嘩して返り討ちになっても、服だけは返して貰おうと私は考えたけど・・・・・。
・・・・・・。
「はいはい静かに。浴衣にシワが出来ちゃうでしょ?」
突然扉の先から現れた見覚えのある小太りの女性の姿を看た私は、大人しくなってしまった。
その私の姿はまるで、飼い主の姿を見て大人しくする犬そのもの。
そして目の前の女性は、青い浴衣を持って私に近付いてくる。
とても綺麗な紫陽花が描かれた浴衣。
と言うか、なんで秋なのに浴衣?
もうすぐ冬なのに。
と言うかもう冬。
「おぉ!おかんナイスチョイス!やっぱり空ちゃんは青が似合う」
「うん!その浴衣めちゃくちゃ可愛いです!」
真奈美さんと海ちゃんの声に、私はまたしても疑問が生まれる。
『空ちゃんは青が似合う』ってつまり・・・・。
「これ、私が着るのですか?」
『その私の言葉は愚問だ』と言うように、真奈美さんのお母さんである小太りの女性は、私に浴衣を着せてくれる。
そして私に笑顔を見せてくれる。
「ちょっとくらい遊んで楽しんできなさい。辛い時にまた元気に戻る方法は、笑うことしかないのだよ」
笑うことか・・・・。
やっぱり私って、あんまり笑わないよね。
と言うより自分から笑う方法なんて多分知らないし。
いつもみんなに笑顔にさせてもらっているだけだし・・・・・。
真奈美さんのお母さんは私の背中を押すと続ける。
「なーに。一回笑ったら、人間はずっと笑っとる。楽しかったらそのまま笑い続けたらいい。そしたら辛いこともすぐに忘れる」
確かに、笑って辛いことを忘れられたら最高だ。
嫌なことを全部上書き出来るほど笑えたら『早く死にたい』なんて思わないし。
誠也さんも私のおばあちゃんも同じようなことを言っていたし。
・・・・・・。
でも今の私にはそんなこと出来るのだろうか?
もう無理な気もするけど・・・・。
と言うか遊びにってどこに?
冬直前になんで浴衣?
ホントに意味がわからないから、また混乱する私・・・・。
そんな私を気にせず、真奈美さんのお母さんは素早い手で私に浴衣を着せてくれた。
昔から娘の真奈美さんに何度も浴衣を着せているからか、私も一瞬で着付けが終わる。
そして浴衣を着せてくれる間も、ずっと私を励ましてくれる真奈美さんのお母さん。
多分、真奈美さんから私の話を聞いているのだろう。
何だか、私のお母さんを少しだけ思い出す。
一方で、真奈美さんと海ちゃんもいつの間にか浴衣姿に変わっていた。
白の生地にアサガオの模様がある浴衣姿の真奈美さんに、大人しめの紺色の姿の海ちゃん。
そんな大人っぽい海ちゃんは早速、部屋の外で座りながら携帯ゲームで暇を潰す孝太くんの元に行くと問い掛ける。
すごく嬉しそうな海ちゃんの表情。
「じゃーん!どうよ、孝太くん」
携帯ゲームに夢中の孝太くんは一度海ちゃんの姿を確認するも、またゲームに視線を戻す。
そして曖昧に感想を答える孝太くん。
「ん?あぁ。似合ってんじゃね?」
「なんか腹立つなその反応。一発殴らせろ!」
「なんでだよ」
ため息を一つ吐いた孝太くんは、携帯ゲーム機を上着のポケットに入れると立ち上がった。
何だか少し眠そうな孝太くん。
そんな孝太くんに今度は真奈美さんが問い掛ける。
「じゃあ孝太くん、この空ちゃんの姿は?」
『空ちゃん』と言われて私と目が合う孝太くん。
でも彼は何故だかすぐに私から目を逸らした。
不思議と孝太くんの顔も赤い。
「あ、あぁ。似合ってるんじゃないっすか・・・・?」
海ちゃんの時とはまた違う曖昧な孝太くん感想に、私も顔が赤く染まる。
さっきのショートヘアの髪型を褒められた時と同じかも。
そんな私達のやり取りを見ていた海ちゃんは不満げな様子だ。
冷たい視線と共に頬を膨らませる海ちゃんは孝太くんに訴える。
「孝太くんは私より空ちゃんが好きだもんね!空ちゃんと違って色気のない女ですいませんでした!」
孝太くんは一度首を傾げる。
「はぁ?相変わらずテメェは何いっているんだこのタコ野郎」
「タコ野郎って一言多いな!やんのかこのクソゴリラ!」
タコ野郎とクソゴリラ。
日々口が悪くなる二人の会話に真奈美さんはため息を吐いた。
そして二人の争いに待ったをかける。
「はいはーい、海ちゃんもその辺でね。んで、どうよ空ちゃん」
突然名前を呼ばれて、戸惑う私。
さっきから『浴衣』と言うものに慣れなくて、少し落ち着きがない。
「ど、どうって何ですか?」
「今の自分の気持ちのこと!何言ってるのさこの子は!頭おかしいんじゃないの?」
一言多いし、『なんで怒られているだろう?』と疑問に感じたから、私は今の気持ちを答える。
「すごく、恥ずかしいです・・・・・」
直後、真奈美さんは大きなため息を吐くと、私に注文してくる。
「相変わらず意味の分からないことを言う子だな。浴衣は誰かに見せるためにあるんだからね。もっと内面から勇気出さないと」
「そう言われても私、『浴衣を着たい』なんて一言も言ってません」
私が反論した直後、まるで突然殴られるような怖い真奈美さんの怖い視線が私に降り注ぐ。
ホント理不尽・・・・。
「なんか言ったか?コノヤロウ。祭り会場の中でまた脱がすぞ」
「ご、ごめんなさい!何も言ってないです!」
流石に脱がされるのはもういやだから、すぐに身を守る私。
真奈美さんに脅える私。
でもまた『罠』だと、いつの間にか笑っている真奈美さんを見て私は気がつく。
「あはは!相変わらず面白い反応するよね、空ちゃんは」
最初から私をからかうだけの真奈美さんの言葉に、私の怒りはどんどん膨らんでいく。
と言うか勝手に服を脱がすな!
ホント、頭沸いてんじゃないの?
そんな真奈美さんを一度でいいから仕返ししたいと思う私。
人の髪を勝手に切るし、勝手に浴衣を着させてくれるし。
一つも私は『いいよ』なんて言ってないのに。
すごく嫌がっているのに。
・・・・・・。
やっぱり、今更変わろうとする自分はやっぱり抵抗ある。