◆◇◆◇
「忘れ物はない?」
玄関先でコートを着込み、ローファーを履いている紫織に母親が訊ねる。
「うん、大丈夫」
紫織は頷くと、カバンを手にしてドアを開けた。
「それじゃあ、行って来ます」
「はい、気を付けて行ってらっしゃい!」
母親に見送られながら、外へ足を踏み出した。
凍えそうなほどの冷気が全身を覆う。
それもそのはずである。
今は十一月下旬。
本格的な冬は、すぐ目の前に迫っている。
紫織は出来る限り、身を縮ませながら歩く。
それでもスカートの中まではさすがに防御が利かず、ひんやりした空気がスースーと入ってくる。
寒さ対策のために履いている分厚い黒タイツも、あまり意味をなしていない。
歯の根も噛み合わず、意識を全くしていないのに勝手にガチガチと震えた。
(冬なんてなければいいのに……)
そんなことを思いながら、隣家の前を通り過ぎようとした。
「紫織」
低くて穏やかな声に呼び止められた。
紫織ははたと足を止め、首だけを動かしてその主を確認する。
そこにいたのは、その家の長男である高沢宏樹。
彼は口元に小さな笑みを浮かべながら、「おはよう」と挨拶をしてきた。
「どうした? 憂鬱そうな顔をしてるぞ」
「――そんな風に見える?」
「うん。『学校なんてかったるい!』って言いたげにしてる」
「そ、そこまで酷いことは思ってないけど……。――ただ、寒くて嫌だなあと……」
「あはは、なるほど」
紫織の言葉に、宏樹は乾いた笑い声を上げた。
「忘れ物はない?」
玄関先でコートを着込み、ローファーを履いている紫織に母親が訊ねる。
「うん、大丈夫」
紫織は頷くと、カバンを手にしてドアを開けた。
「それじゃあ、行って来ます」
「はい、気を付けて行ってらっしゃい!」
母親に見送られながら、外へ足を踏み出した。
凍えそうなほどの冷気が全身を覆う。
それもそのはずである。
今は十一月下旬。
本格的な冬は、すぐ目の前に迫っている。
紫織は出来る限り、身を縮ませながら歩く。
それでもスカートの中まではさすがに防御が利かず、ひんやりした空気がスースーと入ってくる。
寒さ対策のために履いている分厚い黒タイツも、あまり意味をなしていない。
歯の根も噛み合わず、意識を全くしていないのに勝手にガチガチと震えた。
(冬なんてなければいいのに……)
そんなことを思いながら、隣家の前を通り過ぎようとした。
「紫織」
低くて穏やかな声に呼び止められた。
紫織ははたと足を止め、首だけを動かしてその主を確認する。
そこにいたのは、その家の長男である高沢宏樹。
彼は口元に小さな笑みを浮かべながら、「おはよう」と挨拶をしてきた。
「どうした? 憂鬱そうな顔をしてるぞ」
「――そんな風に見える?」
「うん。『学校なんてかったるい!』って言いたげにしてる」
「そ、そこまで酷いことは思ってないけど……。――ただ、寒くて嫌だなあと……」
「あはは、なるほど」
紫織の言葉に、宏樹は乾いた笑い声を上げた。