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 図書室に到着した。

 涼香が先に立って戸を開けると、廊下と変わらない冷気が全身を襲った。

「うわっ! さむっ!」

 涼香は足早に室内に入り、早速、暖房のスイッチを入れたが、暖まるまでには相当な時間がかかりそうだ。

「ったく! 誰か気を利かせてあっためてくれていてもいいものを」

 涼香の理不尽とも思える文句に、ずいぶんと無茶苦茶なことを、と紫織は呆れたが、あえて口には出さなかった。

「仕方ない。しばらくコートで寒さを凌ぐか」

「そうするしかないね」

 紫織も頷くと、ふたりは長テーブルの上にカバンを置き、再び暖房の前へ行って向かい合わせに体育座りした。

 まだ、温風は出てこない。
 その代わり、今にも壊れそうなモーター音が室内に煩く響き渡った。

「無事に帰れた?」

 座るなり、涼香が口を開いた。

 何を訊きたいのかは分かったので、紫織は「うん」と頷いた。

「ごめんね……。なんか、涼香には凄い迷惑かけちゃった……」

「別に迷惑なんて思っちゃいないよ」

 神妙な面持ちの紫織とは対照的に、涼香はケラケラと笑う。

「むしろ、私としては何でも話してくれた方が嬉しいんだしさ。それに、悩みごとは共有した方が少しは楽になるでしょ?」

 涼香の言葉に、紫織も素直に嬉しく思えて自然と笑みが零れた。

「なら、涼香も何でも話してよ。私だってこれでも、涼香の悩みを共有したいって気持ち、ちゃんとあるんだから」

 紫織が言うと、涼香は「そうきたか」と苦笑しながら髪を掻き上げた。

「私、よっぽど信用されてないんだねえ」

「違うよ。涼香が心配だからだよ」

「――心配?」

 怪訝そうに首を傾げる涼香に、紫織は大きく頷き、思っていることを口に出した。