大吉はテーブルから数歩離れた通路で、ワゴンの取っ手を握りしめてハラハラしていた。
赤の他人であるスエの自宅の洗い物をしてあげた時、我ながらお節介なことをしていると思ったが、左門には敵わない。
相手を怒らせるほどに介入するとは、一体なにがしたいのか。
誰も声を荒げず、静かに会話をしているというのに、大人達の不穏な様子は子供らにも伝わってしまった。
急に黙り込んで不安げにスプーンを置き、身を縮こまらせている。
(どうしよう。こんな話を子供に聞かせてはいけないよな。でも、僕が外に連れ出していいものか……)
全ての料理を出し終えたコックがふたり、厨房から出てきて、壁際で成り行きを静観してしていた。
それは、森山と柘植だ。
柘植はこのピリピリとした雰囲気の中で、平和な家族の象徴のような国民的飲料、カルピスの小瓶を持っている。
子供の滋養強壮や、“この一杯に初恋の味がある”という乙女心をくすぐる宣伝文句で、数年前に発売されたカルピスは、爆発的に国内に広まった。
大吉も実家にいた頃、年始の挨拶などでのいただき物を、兄弟で競うように飲んでいた。
そんなカルピスの小瓶を持った柘植が小声で森山になにかを伝え、了承を得てから中江一家のテーブルに歩み寄る。
「お話中、すみません」と柔らかな声をかけ、閉じた目を子供らに向けた。
「お嬢ちゃんとお坊っちゃん、良かったらおじさんと二階に行きませんか? レコードがたくさん置いてあります。カルピスを飲んで音楽を聴き、楽しく待っていましょう」
子供らはその誘いを喜び、君枝は「ありがとうこざいます」とホッとしていた。
(良かった。僕がまごついている間にサッと動ける柘植さんはすごいな……)
柘植に連れられた子供達が二階へ上がると、話は続きに戻される。
元妻が痴呆症であるという衝撃から回復した様子の松太郎が、フンと鼻を鳴らして忌々しげに左門を見た。
赤の他人であるスエの自宅の洗い物をしてあげた時、我ながらお節介なことをしていると思ったが、左門には敵わない。
相手を怒らせるほどに介入するとは、一体なにがしたいのか。
誰も声を荒げず、静かに会話をしているというのに、大人達の不穏な様子は子供らにも伝わってしまった。
急に黙り込んで不安げにスプーンを置き、身を縮こまらせている。
(どうしよう。こんな話を子供に聞かせてはいけないよな。でも、僕が外に連れ出していいものか……)
全ての料理を出し終えたコックがふたり、厨房から出てきて、壁際で成り行きを静観してしていた。
それは、森山と柘植だ。
柘植はこのピリピリとした雰囲気の中で、平和な家族の象徴のような国民的飲料、カルピスの小瓶を持っている。
子供の滋養強壮や、“この一杯に初恋の味がある”という乙女心をくすぐる宣伝文句で、数年前に発売されたカルピスは、爆発的に国内に広まった。
大吉も実家にいた頃、年始の挨拶などでのいただき物を、兄弟で競うように飲んでいた。
そんなカルピスの小瓶を持った柘植が小声で森山になにかを伝え、了承を得てから中江一家のテーブルに歩み寄る。
「お話中、すみません」と柔らかな声をかけ、閉じた目を子供らに向けた。
「お嬢ちゃんとお坊っちゃん、良かったらおじさんと二階に行きませんか? レコードがたくさん置いてあります。カルピスを飲んで音楽を聴き、楽しく待っていましょう」
子供らはその誘いを喜び、君枝は「ありがとうこざいます」とホッとしていた。
(良かった。僕がまごついている間にサッと動ける柘植さんはすごいな……)
柘植に連れられた子供達が二階へ上がると、話は続きに戻される。
元妻が痴呆症であるという衝撃から回復した様子の松太郎が、フンと鼻を鳴らして忌々しげに左門を見た。