それなのに大吉は、左門と契約した翌日から、彼の自宅の掃除や洗濯、アイロンがけなどをやらされている。
追い出されては困るので、これまでは黙って引き受けていたが、やっと終わったと思ったところで洗濯物を追加されたため、不満をぶつけた。
「大体、なんで僕が左門さんの身の回りの世話までやらされるのですか。こういうのは女性の方が得意でしょう。金持ちなんですから、女中を雇ってはどうですか」
左門の整った顔が、嫌そうにしかめられる。
それは大吉の文句に立腹したのではなく、なにかを思い出したためらしい。
「家事をさせる女性の使用人を雇っていたのだ。先月の中頃までは」
「その人、辞めてしまったんですか?」
人使いの荒さに辟易し、女中の方から去っていったのかと思った大吉だが、左門は目を伏せて首を横に振る。
「私が解雇した。許し難き所業を見てしまったからな」
左門の話によると、その女中は独身の二十四歳。
控えめな性格で良く働き、使用人として申し分のない女性だと、左門は満足していたらしい。
けれどもある日、目撃してしまった。
洗濯を始めようと、汚れ物を抱えて庭に出てきた女中が、左門のふんどしを嗅いでいるところを。
それは洗う前のふんどしで、さらしの生地に鼻を埋めた女中は、恍惚の笑みを浮かべていたのだとか。
屋敷の窓からそれを見た左門は、衝撃のあまりに目眩を起こした。
即刻、女中を解雇して、心理的な傷から新たな使用人を雇えなかったという。
(左門さんのふんどし……)
物干し竿には、紐のついた真っ白なさらしが一枚はためいている。
それに目を遣った大吉は、片手で口もとを覆った。
匂いを嗅がれているところを想像し、それは自分も嫌だと不快感が込み上げたせいなのだが、左門に勘違いをされてしまう。
「まさか、お前まで……」