夜、神饌としてお供えしていたイチゴを下げ、今から調理する。

 そのまま食べてもおいしいが、大量にあるのでジャムを作ることに決めた。もちろん、祖母直伝のレシピである。

 イチゴの甘い匂いを目一杯吸い込み、幸せな気分に浸った。

 春、散歩をしていると、ビニールハウスからイチゴの匂いが風に乗って感じる記憶を思い出してしまう。春が来たと、実感していた。

 と、楽しかった過去を振り返っている場合ではない。ちゃっちゃとイチゴジャムを作らなければ。

 まず、イチゴのへたをナイフで取り、きれいに洗う。琺瑯(ほうろう)鍋にイチゴを移し、砂糖を入れたあとレモンを搾る。弱火にかけながら、砂糖とイチゴをよく混ぜた。

 この辺りで、イチゴを潰していく。きれいな赤いジャムに仕上げるには、ここで潰し過ぎないのがポイントらしい。失敗すると、くすんだ色のジャムになってしまう。ぐつぐつ、ぐつぐつとジャムが煮える甘酸っぱい香りが漂っていた。

 いい匂いだ。これを瓶に詰めて保存したいと思うくらい、好きな匂いである。

 沸騰してきたら、アクが浮いてくる。ちまちま掬うのではなく、思いきって一気に掬うのもポイントだ。ちまちま掬うと、どうしてもアクが残ってしまうらしい。すると、雑味が残るジャムになるようだ。

 イチゴの柔らかさを確認する。力を入れずとも潰れ、とろとろに煮えていたら、完成間近だ。

 なめらかなイチゴジャムが好きな人は、ここでイチゴを潰す。私はイチゴがごろごろしているジャムが好きなので、そのまま。細かなアクを掬い、煮沸(しゃふつ)消毒した瓶に詰めていく。

 仕上げに瓶ごとジャムを煮るのではなく、祖母は蒸していた。最初は蓋を閉めずに蒸し、最後の十分は蓋をして蒸す。すると、鮮やかな赤いジャムが仕上がるのだ。

 開封しなければ、一年くらい保つ。佐々木さんは祖母のジャムのファンだったので、持って行ってみるか。

 台所の灯りにジャムを透かしてみた。宝石みたいな、きれいな色合いである。

 祖母もこうやって、完成したばかりのジャムを見せてくれた。本当に、きれいだった。

 今日のジャムは、祖母のジャムと同じくらい上手にできたような気がする。
 パンに塗って食べるのが、楽しみだ。