「都合がよかったのかもしれないわ。盗む響子がいれば、隠す自分はそんなに悪く見えないから。自分のことは話さずに……。最低ですよね」


そう言って柚葉は自嘲ぎみに笑うが、司はそんな彼女をじっと見つめていた。


「そうでもないさ」


「え!?」


「現実的な警察なら不思議に詳しいだけの俺に捜査依頼はしない。蒼士の提案を許可したのは柚葉、お前だ」


「それが変でしたか?」


「大会議室から尾行した俺に気付かないフリもしていた。響子との会話もわざと俺に聞かせたな」


「そんなことは……」


「俺は素人だ。警察官として優秀なお前が気付かないはずはないだろう」


「なにが言いたいのですか?」


「今回の件。あやかしなごりや俺の話を蒼士から聞いたお前が最初から仕組んだことなのだろう」


「なんのために?」


「警察ではお前を捕まえることは出来ない。神隠しの力なんて立証不可能だからな。だが、俺ならすべてを見抜ける」


「……」


「止めて欲しかった。いいや、すべてを理解できる存在に言われたかったのか。──悪いことは悪い、と。昔、自分が響子にそうしたように」


気付けば、柚葉の頬を涙が伝っていた。司の言葉を肯定するように。


「切っ掛けは、プロポ-ズか……」


「中田さんには私自身のことは言えませんでした。信じてもらえないかもしれないと思うと怖くて……。でも、このまま……犯罪の共犯者のままあの人と結婚するなんて……」


「気持ちに整理がつかない、か」


「はい」


正義感の強い柚葉はずっと自分の中で一人戦っていた。


「なら俺が言ってやる。柚葉──。お前はアホウだ、とびっきりのな」


そう言って、心から疑いなく不思議な力を持つ自分を諫めてくれる存在が現れるまで。


そして求めていた。


「やり方が間違いだらけだ。だから、これをやる」


救いを。



司はいつの間にか手にしていた少し不格好なぬいぐるみを柚葉へ渡す。


「そいつに祈るんだ。そうすれば少しはアホも治るだろう」


そして、用は済んだとばかりに背を向け歩き始めた。


「……ありがとう」


「気にするな。結婚祝いだ」



屋上の扉が閉まると柚葉は空を見上げていた。

涙で滲んでいたせいか、太陽はいつも以上にキラキラと輝いていた。