初めて勝手に手が動いたのは、小学校4年生の時。

当時流行ったオモチャをクラスのみんなは持っているのに、響子だけが持っていなかったからだった。

今にしてみれば、それが本当に必要だったとは思わない。
くだらない流行り物だったし、子供向けにしては高額。
親にはみんなとは言いつつも、実際に持っていたのはクラスメイトの半数だったのも事実。

だが、当時の響子の仲の良い友達グループはみんながそれを手にしていて自分だけが持っていなかった。
話題についていけなかった。


「持ってないの?」


そう言われるだけで、とてつもない疎外感を覚えた。
気付けば友達は自分のいないところで楽しんでいる時間が増えていた。
響子のいない隙に、そっとその話で盛り上がり、遊ぶ約束をしていた。
誘われないのは持っていない哀れな子だと気を使われているのか、仲間外れにされているのか。どちらにしろ、その時初めて孤独を感じた。

大人に大げさだと言われればそれまでだが、当時の響子にとってそれはとてつもなく我慢のならないことだった。

友達がいなくなってしまう。そんな思いで頭はいっぱいになっていた。


日曜日。誰とも約束のない響子はふらりと家を出て、夕方帰宅した。
部屋に入ってベッドに体を投げ出した時、ポケットからぽとりと何かが落ちた。
それは紛れもない、とても欲しかったあのオモチャだった。


「……どうして?」


なぜそれがポケットに入っていたのか。まるで見当がつかなかった。

買った記憶はない。という以前にそんなお金、小学生の響子が持っているはずもなかった。お財布にある全財産は五百円玉が一枚と十円玉が数枚だったはずだ。


ならなぜ、それはここにあるのか……。

答えは簡単だった。

家に帰って冷静になれば、わかることだった。
欲しいという欲で満たされた頭が、響子に命令をくだしたのだ。

盗ってしまえ、と。

朝起きてから部屋に戻るまで、熱があるみたいに頭はぼーっとして、視界もずっと寝起きみたいに霞んでいた。

そんな中、ずっと頭はしゃべり続けていた。


〈盗ってしまえばいい〉


と。