なにをしようとしていたのか……忘れた。
  
北条来夢(ほうじょうらいむ)は、首を斜めに傾げた。


「……なんでしたか」


ポカポカ陽気の日曜日とはいえ、出不精の自分が外に出ている。
なにか用事があったから出ていたはずなのだ。
しかし、それが思い出せなかった。

それもこれも、すべてあれのせいである。

あれというのは物心ついたころから発症していて、次第にエスカレートしていき、高校生になった現在ではまったく押さえがきかなくなっている癖、というかもはや病気のようなものであった。

それは眠っている時以外、ご飯を食べていようが学校だろうが電車の中だろうが映画のラストどんでん返しの場面だろうが、おかまいなしに突然やってきては体を支配するまさに悪夢。

我慢なんてできない。多少は時間がかせげても永遠にトイレに行かずにはいられないのと同じで、いずれにしろ限界はやってくる。


【洗い物をせずにはいられない】という衝動が。


なぜ? なんてもはや愚問で、とにかくなにがなんでもなにかを洗わずにはいられなくなってしまうのだ。

授業中、教室を抜け出すなんてよくあることで、公園で砂をひたすら洗っていたら遅刻しただとか、美容院に駆け込んでシャンプー途中の人の頭を洗ったこともある。

さっきだって、歩いていたら突然なにかを洗いたいという欲望に取り憑かれて、運良く見つけたレストランで強引に洗い物をさせてもらった。

そのおかげで学校では変人扱いされているし、よく怒られるし、高2になっても恋人どころか友達も少ない。


外に出ているのに、用事も忘れてしまう。

一時的に【洗いたい!】という気持ちで脳がいっぱいになってしまうから、その前に考えていたことがどこかへ行ってしまうのだ。