まだ食べ足りないのか、自分の分が終わっても風花はジッと惟子を見つめていた。

「何かつくろうか?」

「いいの?」
これでもかと大きな目をキラキラと輝かせる風花は、可愛らしい顔からは想像できない鼻息を鳴らした。
それはやはり昔可愛がっていた、近所のラブラドールを思いださせて惟子は、パパっとチャーハンを食べると席を立った。

「どういうものが食べたいの? またご飯?」
またもや冷蔵庫の食材を見ながら、惟子は風花に声を掛けた。


「ねえ、おむら……なんとかっていうの出来る?」

「オムライス?」
少し思い出す様な仕草をしていた風花は、惟子の言葉に「それ!」とポンと手を叩いた。

「オムライス……できそうよ」
惟子は卵、鶏肉、トマトを見つけたあと、赤いケチャップのようなものを指ですくうとペロリと舐めた。

「現世に行った友達が、本当においしかったって聞いて一度たべてみたかったの」
嬉しそうに言いながら、風花は料理をする惟子を見ていた。

「ねえ、現世には簡単に行けるの?」
一人飛ばされてしまった惟子としては、簡単に元の世界に戻れるならば、必要な物を取りに行ったりできるはずだ。
期待を込めて聞いた惟子だったが、風花の答えは残念な物だった。

「そんなわけないじゃない。現世に行くにはお金も、審査もとても難しいわよ。それでも行きたいって言う友達も多いけどね」

「どうして?」

「そりゃあ……。あ、名前は?」
風花の勢いに押され料理を作ることに必死で、基本的な挨拶もまだだったことに気づき惟子は手を止めた。

「私はお絹。西都から今日ここにきたばかりなの。何もわからないからどうかよろしくね」

「西都からきたのね」
納得したように言うと、風花は少し表情を曇らせた。

「ここは……なんていうのかしら。差が大きいと言うか」
言葉を選ぶように言いながら風花は言葉を止めた。

惟子は風花の話の続きを待ちながら、鶏肉と玉ねぎを炒め、ご飯を入れたら塩コショウとケチャップで味を付けた。
できあがったら、その基本的なケチャップライスを別皿に移す。

「それがオムライス!?」
いい香りにつられたのか、表情をパッと明るくさせた風花は立ち上がり台所までやってきた。

「まだよ。これにトロリとした卵を乗せるのよ。もう少し待っていて」
クスクス笑いながら惟子は答えると、「はーい」と返事をして風花は元居た席に座った。

「えーと、なんだっけ。そう。ここは上級あやかしにとってはいい場所。私達みたいに一般あやかしには普通の場所。そして下級あやかしにとっては……地獄のような場所よ」

「え?あっ、おっとと」
その内容にも、いきなり低くなった風花の声音にも驚き惟子は危うく卵を落としそうになった。

セーフ
心の中でそう思いつつ、卵を割り入れながら惟子は風花に問いかけた。

「下級あやかしってどこに住んでるの? このあたり?」

「まさか!ここに住めるのは本当に運がいいのよ。だからお絹はよかったわ。私のそのオムライスを教えてもらった友達は……」
そこまで言うと、風花はギュッとテーブルの上で爪が食い込む程に手を握りしめていた。

「はい。お待たせ」
そっとその手に惟子はスプーンを持たすと、ハッとしたように風花は惟子をみた。