それ以来、どうも俺の周辺を、刑事がつきまとっているような気がする。

俺が子どもを保護している以上、警護という意味もあるのかもしれないが、あまり気持ちのいいものではない。

相変わらず子どもは不登校のままだが、それでも俺が預かり始めてからの数日間は、元気よく一緒に登校していたんだ。

不登校の原因を作りだしたのは、警察の方だ。

俺までビクビクする必要はない。

堂々としていれば、それでいいんだ。

子どもたちはクラスのルールを決めてから、本当によく注意しあい、お互いに高め合って、研鑽に努めている。

周囲への配慮もかかさない。

俺が何も言わなくても、自分たちでちゃんと出来るようになった。

一部の保護者からクレームが入り、『注意をされた人』から、『いいことをした人』に変更になったが、それで何か変わるとでも思っているのだろうか。

子どもたちの、クラスでの雰囲気は何も変わらない。

みんないい子どもたちばかりだ。

俺は努めて冷静に、変わらぬ日常を心がけ、普段通りに過ごした。

決まった時間に起き、身支度をして家を出る。

信号無視もしなければ、横断歩道からはみ出ることもない。

列にはきちんと並び、順番も守るし、乗り物の席も譲る。

学校では何の滞りもなくクラスを運営し、業務を済ませて家に帰る。

事の詳細を知っているのは、校長、副校長、学年主任と俺だけだ。

学年主任のおばちゃんはビビっているのか、ことあるごとに俺の顔色をのぞき込む。

気にかけてくれるのはありがたいが、正直迷惑だ。

なぜそっと見守るということが、出来ないんだろう。

それが原因で、他の先生方にバレたら、どう責任をとるつもりだ。

そうでなくても、俺が殺された保護者の児童の担任だということは、暗黙で学校中に知れ渡っているというのに。

「先生、あの、手伝いましょうか?」

放課後、そのおばちゃん主任が、宿題プリントを印刷していた俺に話しかける。

旺盛な好奇心むき出しのその行為が、俺をさらに苛立たせる。

だけどここで腹を立てたら、俺の負けだ。

「あのね、先生にお客さまが来て、校長室でお待ちになっているそうですよ」

「あぁ、そうだったんですね、分かりました。いま行きます」

助かった。

「じゃあこのプリントを、子どもたちに配れるようにしておいてもらえますか」

大量の紙の束を、ドンと手渡す。

面倒な作業をこうやって押しつければ、これに懲りてまとわりつくこともなくなるだろう。

俺は校長室に向かった。

そこで待っていたのは、案の定、あの刑事たちだった。

「お疲れさまです」

二人は立ち上がって、丁寧に頭を下げるから、俺も儀礼的に頭を下げる。

校長と副校長に促されて、俺はソファに腰を下ろした。

「保護されているお子さまの様子はどうですか?」

「えぇ、元気にしていますよ」

これ以上、どんな返事の仕方があると言うのだろう。

もし他の言い方があるのならば、こっちがそれを教えてもらいたいくらいだ。

「申し訳ないのですが、先生にも少し、署の方でお伺いしたいことが出てきまして、ご同行願いたいのですが、よろしいでしょうか」

校長の顔を振り返る。

彼は黙ってうなずいた。

同じように副校長もうなずく。

俺は、背筋をピンと張った。

「分かりました。校長と副校長の許可があるのであれば、ご協力いたしましょう」

その言葉に、刑事二人はさっと立ち上がる。

それに促されるようにして、俺も立ち上がった。

「学校のことは、心配しなくて大丈夫ですよ」

校長の言葉に、虫酸が走る。

俺がどれだけ自分の担任クラスのために、労力をさいてきたと思っているのだろう。

その苦労が分かっていたら、そんなセリフは簡単に出てこない。

「よろしくお願いします」

俺はそれでも、丁寧に頭を下げる。

職員室に置かれたままの私物が少し気になったけれども、まぁいいや。

校舎の外に出ると、来客用の駐車場に、立派なセダンが停まっていた。

これが警察車両というやつか。

俺が後部座席に乗り込むと、若い方の刑事が隣に座った。