「ご馳走様でした」
 お昼ご飯、完食。頑張って手作りしてくれたおかげで、今日のお昼は最高の一時となtった。
「えと、おそまつさまでした。おにーちゃんに喜んでもらえて嬉しい」
 ペコッと頭を下げてくれたあと、満面の笑みになる。
 う~ん。こんな物を貰ってこんな笑顔を見ていたら、俺にも何かしてあげられることはないかな、と思ってくる。
 何かお返しを、したいよね。
「ねえ、愛梨は欲しいものとかある? やってみたいことでも、いいよ」
「ふぇ? 愛梨は、ないよ?」
「ちょっとしたことでも、いいんだよ。何かない、かな?」
「やってみたいこと……。やってみたいことは……。………………テニスを、やってみたい」
 うっ。テニス、か……。
「? おにーちゃん?」
「と、ところでさ、どうしてテニスがやってみたいの? 他にも色んなスポーツがあるのに、どうしてそれなのかな?」
「んとね。お母さんテニスが大好きで、よく一緒にテレビで観てたの。でね、すっごく格好いいなぁって思ってたの」
「あー。そっかぁ……」
 これが、愛梨の希望なら……。でもなぁ……。
「愛梨が大きくなったら一緒に始めよう、ってお話してたんだけどね、お母さん忙しいから、まだ出来てないの」
 ぁ~。そんなこと聞いちゃったら、一度体験させてあげたくなる。
 …………まあ一回なら、大丈夫。うん、多分。
「も、もし、俺で良かったら、一緒にする?」
「えっ……」
 目をパチクリさせていた。気を遣ってくれる愛梨でも、まさか俺がこんなこと言うとは思ってなかったんだろう。
「テニス、やってみる?」
「え、と……やってみたい。けど……愛梨、何も持ってないよ」
「それは、大丈夫。相手がお母さんとじゃないけどいいかな?」
「お、おにーちゃんとなら、楽しいよ」
 嬉しいことを、言ってくれる。
 悩んだけど、こんな反応を見たら提案してよかったと思う。
「なら、オッケーだね。今からテニス、やりに行こう」
「で、でもね、愛梨ね。お金、持ってないよ?」
 それは、想定済み。小学生だから、お小遣いだって少ないだろうからね。
「心配要らないよ。お礼に俺が出すからさ」
「だっ、ダメだよ。さっき、ジュースをもらったもん」
「今から行く場所は、割と安いんだ。だから気にしないで」
「うー……」
「悩まなくていいから。じゃあ直行だね。あ、でもその服じゃできないから、一旦家に帰ってからにしよう。さ、行くよっ」
「あ、おにーちゃ」
 さっさと片付けて、多少強引に行くことにした。
 こういう子にはこういうやり方をしないと、色々考えてくれちゃうからね。

                   ☆

「じゃあ、外で待ってるから」
「うん。急ぐねーっ」
 現在は愛梨の家の前で、愛梨には動きやすい服に着替えてもらう。
 なお途中で『今日はお家にどうぞ』と言われたけど、正樹に電話するからと言い訳してここにいる。
 なので言い訳を事実にするために、電話をしてみるとしよう。
 プルルルル プルルルル プルルルル ガチャ
『きゃほー!』
 いきなりそれはないだろう。鼓膜が破れそうになったぞ。
「はぁ、まったくお前は。随分と調子がいいみたいだな」
『もう絶好調で、もうウハウハ! 財布はスカスカよ!』
 そか。ドヤっているが、別に上手くないからな。
「正樹。あんま買いすぎると、来週厳しくなるぞ?」
『ふっふー、大丈夫よぅ。計算していて、ノープロで――お、そうだっ。隣に輝がいるから話してみ。はい、輝』
 ちょ、いきなり!?
 し、しかし昨日のことがあるから、いい機会かもしれないな。
「あ、どうも。俺、正樹の友達の鈴橋修です」
『あ、ご丁寧にどもでごあす。わて、霧神輝なのよね。以後お見知りおきを』
 ほぉ、随分とユーモア溢れる人だな。それに幼馴染だけあって、俺の知り合いに声がそっくりだ。
「……なりきるなら声も変えろ。あと、口調が怪しすぎるぞ」
『あら、ばれた? さすが修ちゃん』
「ばれるに決まってんだろ。本人に失礼だし。てか本人近くにいるんじゃないの?」
『隣で爆笑してる』
 さすが幼馴染ってか。
「あーもう。ったく……」
『まあまあ。ところで、そっちはどうなのよ?』
「こっちは愛梨お手製のサンドイッチ食べて、今からその……。テニスをしに行くこと」
『手作りイベント!? テニスぅ!?』
「別に、イベントじゃない」
『サンドイッチ、旨かったのか? 美味だったのかっ? グッドテイスツ! だったのかっ?』
 おいコラ。全部一緒じゃないか。
「ああ。美味しかったよ」
『くそ、僕も行きたかったぜ……! お土産として、僕にもいただけませんかね?』
「悪いが、お土産はない」
 二人で、全部食べちゃったからな。もう残ってないんだよね。
『そ、そう、だよね……。だったら百歩譲るんで、修がサンドイッチを作って――』
「おにーちゃん。お待たせしましたっ」
 悪友がおかしな発言をしていたら、愛梨が返ってきた。
 服装はそのままで、右手には体操服袋を持っている。着替えはその中で、言ってから着替えるようだ。
「ううん、全然待ってないよ。正樹と話してたから」
「おにーさんと。愛梨、おにーさんにお礼言えてないから、お話していい?」
 う~ん。今の正樹と話すのは心配だが、感謝の気持ちは大切だからね。
「はい。どうぞ」
「ありがと~。…………あのあの、橘愛梨です。昨日は、ありがとうございましたっ」
 見えないのにお辞儀してる。微笑ましい光景だ。
「……うん。そうだよ。うん。うん。アニメ?」
 おや? これは……。
「アニメは、あんまり見ないかなぁ。……ぇ、すっごく面白いアニメがあるの? 愛梨におすすめ? 絶対に楽しい、の……? タイトルは――」
「おっと電池が切れたみたいだ。さあ行こうか」
 アイツのオススメするアニメは、小学生には早すぎる。
 俺はスマホを超高速でタップして、残念そうにポケットに捻じ込んだ。
「あや、切れっちゃったんだ。残念……」
「そうだね、残念だね。それよりここから二十分くらい歩くけど、いいかな?」
「うん!」
 元気一杯の、いい返事だ。
 運悪く(?)電池切れになったことだし、出発するとしましょう。