あっ、待って! 行かないで。
 ぼやけていくネコモリサマを追いかけるために、一歩踏み出した。
 と、何かが顔にぶつかって、目の前に火花が飛び出し、視界が真っ暗になる。
 鼻の頭が痛い。唇にも何か柔らかい物がぶつかった感触があった。
「痛~い」
 鼻の頭を手で押さえながら目を開ける。
 すると目の前に、私と同じように顔の中心を手で押さえた三笠君が居た。

「「だ、大丈夫」」
 とお互いに声をかける。
 ここで私は、畳の上に寝かされ、上半身を起こした状態である事に気が付いた。
「あれっ、私、どうして…?」
「神社の前で、急に気を失ったんだよ。それで、素子さんと、ここまで運んだんだ」
 と三笠君が説明してくれた。でも、何か三笠くんの顔が赤い? 熱でもあるのか。

 スッと、部屋の障子が開いた。
「なになにっ? 今、アッとかキャッとか聞こえたけど」
 素子さんだった。
「いやっ、そのっ…」と三笠君が口ごもる。
「何があったん?」と畳みかける素子さん。
「あの、濱野さんが譫言を言い出したんで、様子を見ようとして顔を覗き込んだら、
急に起き上がったんで……」
「急に起き上がったんで…?」
「……顔と顔がぶつかったんです」
 顔と顔がぶつかった? 私と三笠くんが?
 そういえば、唇に柔らかい何かが当たった気がする。あれはなんだったんだ?