全てを思い出した。

 胸の辺りが苦しく冷たい。心臓が氷の刃で貫かれたように痛む。

 私は、何て事をしたのだろう。なんという事を願ってしまったのだろう。
 止めどなく涙が流れる。私は、机に突っ伏して泣き続ける。
 机の上に、涙の滴が溜まっていく。

―お姉ちゃん―
 そう、呼ばれた気がした。
 顔を上げると、ノートに書いた翠への伝言が目に入った。
『ごめん 翠 お姉ちゃんが悪かった どこにも行かないで』

 そうだ、泣いている場合じゃない。
 翠を人間に戻さないと。
 すぐに、お母さんにこの事を伝えよう。
 椅子から立ち上がり、部屋のドアに手をかけた。
 そこで、私は体の動きを止める。

 だめだ、だめだ。
 さっき、お母さん達と翠の話をしてて、私はいつの間にか翠のことを忘れていた。
 猫のミドリが現実と思っている人に接すると、その影響を受け、私も翠の事を忘れ
てしまうのに違いない。
 翠の事は、私独りで解決しなくてはいけないんだ。